トレンドの「低精米」日本酒を3つに分類して、その変遷を解説してみた

お米をあまり削らずに造った「低精米」の日本酒が注目される機会が増えています。かつては、反対にお米をたくさん削った吟醸酒がブームになり、一時期は「米を何%まで(どれだけ多く)削ったか」を競うような状況も見られました。

低精米の日本酒は、そうした状況に対抗する概念として注目されるようになったように思います。お米を削らないことにより、旨味や複雑味が豊富になり、個性的な味わいが表現されるのが特徴です。ちょうど「酸味」を特徴とした日本酒も人気を集め、「日本酒の個性」に対する許容度が上がってきた時期とも重なった点も、注目を浴びやすかった理由かもしれません。

また、環境負荷やサステナビリティといった概念への注目が高まる中、同じ収穫量のお米からより多くの日本酒を造ることができる、という点も現代の価値観と合っています。

さて、この低精米のお酒ですが、この10年ほどの間にもいろいろなタイプが販売されるようになってきています。今回はこれらを3つのタイプに分けて、それぞれの特徴を解説してみたいと思います。

低精米のお酒の分類

まず、ここでは「低精米」を「概ね80%より高い数値(80%以上100%未満)の精米歩合」とします。「低精米」というジャンルが一般化する以前から、70〜75%程度の精米歩合の日本酒は(普通酒などを中心に)割と多かったためです。

今回3タイプに分ける低精米日本酒ですが、年代を追うごとに登場してきたように見えていますので、登場順に解説していきます。

分類 複雑味 旨味 甘味 登場年代
①伝統的低精米 多い 多い 少ない 2010年頃/それ以前
②モダン低精米 少ない 少し多い 中庸〜少ない 2015年頃
③アバンギャルド低精米 多い 多い 多い 2018-19年頃
①ドライ・フルボディな伝統的低精米

一番早めに登場したのが、こちらのタイプです。「登場した」というよりも、もしかしたら「低精米」が注目される以前からあったのかもしれませんね。ともあれ、2010年代序盤頃から徐々に増えていた低精米はこのタイプが多かったように思います。

旨味・複雑味ともに強めでフルボディなタイプ。一方、甘さは控えめでキレよく造られています。全体の味わいと複雑味とのバランスが取れるように、温めて飲むと美味しいことが多いです。


②ライトボディなモダン低精米

2015年頃から登場するようになってきたタイプ。「低精米とは思えない」というようなコメントがつく、軽快で飲みやすいお酒です。

低精米と思わせない要素は、複雑味の少なさ。米の旨味は感じられますが、①や③のタイプほど強い味わいではなく、全体として軽めな印象です。甘味に関してはお酒によりさまざまですが、比較的ドライまたは中庸なお酒が多いです。軽快な冷酒からじっくり旨い燗酒まで、幅広い温度帯で美味しく飲むことができます。


③スイート・フルボディなアバンギャルド低精米

ここ数年ぐらいで登場するようになった最新のタイプです。削っていない米の要素を最大限に活かし、旨味・複雑味に加えて甘味もしっかりと引き出した味わいです。

いわば「全部盛り」のような味わいですが、うまくコントロールされた複雑味や酸味によって、それぞれの要素が喧嘩せずに、また「重すぎる」ということもないようなバランスが実現できています。常温から燗酒までの温度帯で楽しむことができ、中華料理やエスニック料理などとも合わせやすい包容力があります。

さて、ここからはSAKE Streetで販売するお酒の中から、それぞれに該当する商品を紹介してみようと思います!

①ドライ・フルボディ - 原田 純米酒 山田錦

普段は吟醸系のフルーティなお酒が多い「原田」がチャレンジした低精米です。通常の原田と比べることで、低精米の日本酒の特徴が分かりやすく捉えられる1本として選んでみました。

柑橘系の酸が感じられる香りとやや大人しめな複雑味のため、常温では少しフルーティさも感じます。コクが引き出され、複雑味と酸味にバランスする燗酒がベスト。ボディはしっかりしていますが重すぎず、やや②寄りの要素もある①、という感じのバランスです。

②ライトボディ - 風の森 雄町 807

低精米のお酒、として意識せずともオススメしやすいのがこちらのお酒です。さわやかさを感じさせるハーブのような香り、そしてぶどうや桃のフルーティな香りも飲みやすさを演出しています。

特に冷酒では、まさに「低精米とは思えない」ような透明感とひっかかりのなさで軽快に飲み進めることができます。個人的には燗酒にした時の、厚みある味わいと透明感とが同居した状態がとても好みです……

「濃い日本酒」「重い日本酒」はちょっと苦手、でももっと色々な日本酒を飲んでみたい!という方にぜひ試してみていただきたい商品です。

③スイート・フルボディ - シン・ツチダ

「お米を素材として酒造りに究極に生かす」コンセプトで造られたこちらは、米の持つさまざまな味わいが詰め込まれたこのジャンルの代表とも言えると思います!温度の変化や時間経過によって表情をさまざまに変えるのも面白いところ。

香りにも乳酸に穀物や燻製、たくあんなど様々な要素があります。これまでの日本酒では「オフフレーバー」とされる要素も、この新ジャンルではバランス良く乗りこなされ、むしろ味わいの彩りとなって楽しませてくれます。

エスニック料理にも合わせられる!とご紹介していますが、意外と何にでも合う懐の広さを持っています。

まとめ

冒頭に書いたような価値観の変化(サステナビリティへの関心)は、特に若年層や海外で強く表れており、「低精米」は今後も注目され続けるジャンルになることでしょう。

今回の3分類は最近、ある造り手さんとのコミュニケーションの際に、僕が普段感じていることを話す中で導き出されたものでした。コロナの影響もあり、なかなか蔵にいけない日が続いているのですが、今後この仮説をもとに、成分的な違いや造り方の差なども、いろいろな造り手の方に聞いてブラッシュアップしていきたいな、と思っています。