こんにちは、SAKE Street編集長の二戸です。副業期間を含め約10年間、酒屋スタッフとして勤務したのち、酒屋が運営するオウンドメディア「SAKE Street」、およびECサイト店舗ブログの編集長を約5年にわたり務めてきました。
SAKE Streetはこれまで5年ほど、広告料などの直接収益を上げないかたちでメディア運営を続けてきました。これによって、「やっていて本当によかった」と言える成果も挙がっています。一方、やっぱりこのまま続けていくのは難しいという結論に至った部分もあり、それについて自ら直接お伝えすべきと考えたことから、このブログ記事を書くことにしました。
これまでSAKE Streetがどのように運営をしてきたのか、これからどうするのか、その背景にある具体的な状況や、僕自身や企業としてのSAKE Streetの考えも含めて、今回の記事でお伝えしたいと思います。
*後ほど触れるように、一部の記事にはAmazonアフィリエイトリンクや、自社ECサイトへのリンクを掲載しています
赤字がヤバい!文字通り「命がけ」。
これまでSAKE Streetがしてきた取り組みと、そのモチベーション
日本酒メディアSAKE Streetは、「日本酒コミュニティの知識の体系化に貢献する」ことをミッションにしています。小難しいことを言ったのですが、ざっくり言うと、造り手・売り手・飲み手などさまざまな立場のひとがコミュニティにいるけど、みんなで共通の知識の土台を持てるようにしたい、ということを目指しています。
僕も、当社代表の藤田も、日本酒を仕事にする前はIT分野の仕事をしていました。近年のITの発展を支える要素はさまざまありますが、そのうちの1つが「積極的に専門知識を共有するカルチャーがあること」だと思っています。例えば、エンジニア個人が技術的な知見を書いて共有するためのサービスが、国内の主要なものだけでも2つ(Qiita, Zenn)あるくらいです。「オープンソース」の仕組みやカルチャーも含めて、こうした「専門的知見の共有」の産業発展にとっての重要性を、僕らは肌身で感じてきていたのです。
そうした僕らが日本酒業界に来て感じたのは、「日本酒のこと、学ぶのムズい」ということでした。あるお酒の味わいをどのように表現するのか、それには科学的にどのような根拠があり、それに製法や原料の違いはどのように影響しているのか。これらは、お酒のことを伝える仕事をする人であれば誰でもある程度、身に付けておくほうがベターな知識のはずですし、実際、店頭でもこのような質問はよく受けます。
しかし、上記のような知識は一般的な書店で手に入る書籍でも網羅的には学びづらく、スクールや資格取得向けのテキストなどで学んだり、酒蔵を訪れて造り手の方に話を聞く、といったことが必要でした(僕が日本酒の仕事を始めてからの約10年間で良い書籍も増え、改善されてきてもいます)。
日本酒に関わる人々が、必要であれば無料でいつでも、必要な専門知識を身につけられる環境を作っていきたい、というのが、酒屋である我々がメディアを運営している基本的な動機です。 実際、これまで日本酒提供の現場で悩みの種ともなっていた「辛口」という言葉を徹底的に深掘りする連載記事や、
英語で日本酒を説明するための実用的な表現をまとめた記事と、それらを店頭ですぐに参照できるカードを作ったり、
「日本酒を仕事にしたい」と考えた人にとってハードルとなりうる、製造免許の規制について国税庁に取材をしてきたりしました。
やってみると、思ったより大変だった
しかし、上記のような記事を制作しつづけていくのは、思ったよりも大変でした。科学的な知識を要する記事や、歴史的な経緯が複雑な内容、あるいは経営上さまざまな論点もある話題なども扱うので、リサーチに時間もかかりますし、こうした記事を書ける人が少ないという課題もあります。
幸いにも、取材に協力いただける業界内外の方々、知識と情熱をもった多くのライターさん、いつも即レスで詳細なフィードバックをくれる監修者である飛田先生、そして共に歩んでくれる編集部メンバーに恵まれ、運営コストを極力抑えながら取り組みを続けられています(皆様、いつもご協力いただき、本当にありがとうございます)。
しかしそれでも、定常的に記事を更新していくのにはやっぱりお金がかかります。システム的なコストや、原稿料含む人件費、あるいは取材に必要な旅費や資料代などなどで、年間3桁万円程度のコストはどうしてもかかってしまいます。ちなみにこれは、僕の給与は含まない金額です。
こうしたコストに対して、メディア事業で直接の収益はほとんど上がっていません。内訳としてはリンク掲載した当社販売商品、またはAmazonアフィリエイトリンクからの収益なのですが、もともとあまり積極的にこれらの売上を目指しているわけではないこともあり、全体のうち1割程度の記事にしか、これらリンクを掲載していないのも要因です。
ちなみに先ほど紹介した「日本酒英語カード」の記事は比較的多くのアクセスをいただきましたし、実際に作ってみたというお声もSNSでいくつか拝見しました(めちゃくちゃ嬉しかったです!)。こちらの記事は市販の印刷用カードなどのリンクをAmazonアフィリエイトのものにしていますが、記事公開から90日間のAmazonアフィリエイト収益(本記事によらないものも含む)は1,537円でした。
4合瓶一本分ぐらいの売上はあがりました!
日本酒の粗利が、少し多めに見積もってだいたい30%なので、年間で4桁万円単位のお酒の粗利が吹っ飛ぶ赤字を出し続けている、という計算になってしまいます。ちなみに、いわゆる「日本酒専門酒屋」の1店舗あたりの年商規模は、大きめのところでも1桁億円前半、そうでないところは4桁万円中盤〜後半程度の売上規模というのが一般的かと思います。
当社代表の藤田がときどき、「僕たちは命懸けでメディアをやっている」と言うことがあります。これに対して個人的には、メディア運営で少なくとも命の危険を感じたことはなかったので「ちょっと大げさだな」とも思っていました。が、上記のようなことを考えると、少なくとも一軒の酒屋としては存続がかかったレベルのコストをかけているという意味では「命懸け」というのはあながち間違っていない表現であると言えます。
もちろん成果もあったけど……
ただコスト的に辛いだけであれば、もっと早くに「メディア運営を辞める」という決断をしていたかもしれません。しかし冒頭触れたように「メディアをやっていて本当によかった」と思える成果もありました。
メディア記事を読んでSAKE Streetのことを知り、店舗やECサイトに訪れてくださる日本酒好きの方や、お取引くださった飲食店様、酒蔵様もいらっしゃいます。
2019年11月に店舗をオープンし、日本酒業界では新参中の新参である我々がこれだけの方々に知ってもらい、信頼してもらうことができたのは、間違いなくメディアを運営していたおかげであるとも思っています。
そうした意味で直接の売上にはつながらなくても、一般にオウンドメディア運営の目的となる「ブランディング」においてはかなりの役割を果たすことができたのかもしれません。
一方、運営開始後5年が経って、このブランディングという意味では、少なくとも国内向けには一定の役割を果たし終えた側面もあります。我々の認知もまだまだ十分とはいえませんが、今の形のメディア運営で、現時点でリーチできる範囲については、概ねリーチしきったのではないか、という意味です。
また、昨年からAIがものすごい勢いで発展してきています。最近ではスマートフォンからGoogleで検索すると、Web上の記事ではなく生成AIによる要約がいちばん上に表示されますね。
「生酛の日本酒の味わい」でGoogle検索した結果。一定数のユーザーは、AIによる情報だけで満足して検索をやめ、Webサイトには訪れないはず。
これはパソコンからの検索では表示されないこともあり、今はまだ、これまで通りに各Webサイトを参照する人も多いかもしれません。しかし、これからの時代にテキストコンテンツが読まれ続けていくのかは未知数な部分もあります。
いろいろな選択肢はあるけど、原点に戻って考えてみた
こうした状況なので当然、「オウンドメディア運営をやめる」という選択肢もあります。営利企業、しかもベンチャー企業であるSAKE Streetとしては、むしろ積極的に考えるべき選択肢でしょう。
これまでメディアにかけていたコストを、SNS運用(これまで広告にも、コンテンツ制作にもほぼコストをかけていません)や、場合によっては広告にかけていく方が売上拡大に繋がるでしょうし、テキストコンテンツの制作は続けるにしても、店舗やECサイトの売上に比較的繋がりやすい店舗ブログに集中していくという選択肢もあります。
しかし、自社のブランディングにとっては役割を果たした部分もあるとはいえ、そもそもメディアを運営してきたミッションである「日本酒コミュニティの知識の体系化」に立ち返った時に、その成果はまったく十分とはいえません。たとえば、近年注目を浴びる日本酒の輸出についてはほとんど記事を制作できていません(ちょうど現在、取り組んでいるところです)。また、製造免許規制をめぐる課題については、一度当局や業界団体に取材した我々が、メディアとしてこのテーマを追い続けていく必要性も感じています。
さらにいえば、日本酒が世界に出ていこうとしているなか、日本酒/SAKEのコミュニティも世界に広がりつつあります。海外においては、日本酒に関する情報、特に専門的な情報の流通はいまでも非常に大きな課題です。SAKE Streetでは英語版メディアについても今年度から少しずつ、定常的に取り組みはじめましたが、まだまだ日本語版ほどには記事を充実化できていません。
英語版メディアは、今年度から月に3回程度更新しています
そしてこれら個別のテーマを挙げるまでもなく、先ほど触れたIT分野の状況と比べてみれば、ミッションが未達成であることは一目瞭然です。この状況で、自社の役には立ちづらいから運営をやめるというのは適切なのか?と考えたとき、その選択肢は取りたくない、と考えました。
僕も、代表の藤田も、もともとメディア事業の経験者というわけではありません。ノウハウのある事業者に運営を託す(譲渡等)という手段もあるのかもしれませんが、日本酒専門のメディアをサステナブルに運営する難しさが分かっているからこそ、酒屋として、日本酒業界の一プレーヤーでもある自分たちにしかできない、という思いもあります。
続けていくためだけでなく、もっと良いメディアになるために
そうしたことから、今年度より取り組むことに決めたのが、広告記事の掲載です。普通に考えると、「いや、何でもっと早くやらなかったの?」とツッコミを受けるであろう単純な取り組みなのですが、我々としては悩み抜いた末の結論です。
基本的に、人は広告メッセージが嫌いです。したがって広告記事は、メディアの信頼性を損なうきっかけにもなると理解しています。我々にとって今までメディアを運営してきたことの意義は、他ならぬ信頼の醸成だったと思っています。だからこそ、その信頼を損なう可能性のある取り組みにはどうしても消極的にならざるをえませんでした。
それでも今回この決断に至った理由としては、「広告記事に取り組むことで、もっと良いメディアになっていける」と確信を持つことができたからです。
幸いにも「日本酒専門メディア」としてはそこそこ認知いただけるようになった結果、実は近年、広告掲載のお問い合わせをいただくことが出てきています。広告掲載でなくても、プレスリリース等をもとに記事掲載の打診をいただく頻度はかなり高くなっています。
こうした需要に対して、自主制作記事しか掲載していないSAKE Streetは、これまで何のソリューションも提示できず、一律お断りするしかありませんでした。広告記事を採用すれば、我々がこれまで獲得した認知や信頼を、日本酒に関わるほかの方々にも提供するというかたちでお役に立てるようになるのかもしれない。お問い合わせが増えた結果、そう考えるようになったのです。
また、より重要な点として、運営コストを極力抑える観点から、自主制作記事においても「もっとリサーチに時間やコストをかけたい」という葛藤を抱えている部分がありました。メディア事業としての収益が健全化していけば、よりクオリティを追求して記事制作に取り組めるようになります。
現在、ある広告記事に取り組ませていただいていますが、その制作過程においても、もともと我々が「もっと徹底的に調べたい」と考えていたことを、予算をいただいて調べさせてもらっている、と感じる側面があります。広告記事としては原価率が高くなることが想定されますが、あえてSAKE Streetにご依頼をいただく背景には我々のこうした制作スタイルが影響しているはずで、読者の方にも、広告主の方にも価値を提供するためには必要なことだと考えています。
そして先ほど「悩み抜いた末の結論」と書きましたが、広告記事以外の収益健全化施策も、当然その過程で検討してきました。それらのうち一部は実際に準備をすすめており、近日お伝えできる予定です。
SAKE Streetがこれまで存続できたのは、ライターの方々を含め、本当に多くの方に協力をいただいたおかげです。その方々に対しても、まだ十分に還元ができていないと考えています。上記の施策をもって、引き続き社内外のお役に立ちながら、メディアとしてのミッション遂行に取り組み続けることができるよう、頑張っていきます!
これからもよろしくお願いします & お仕事お待ちしております…!
一方でこうした施策をもってしても、引き続きオウンドメディア運営の継続性には課題があり続けるのだろうとも思っています。先ほど触れたAI時代の到来などはその懸念の1つで、これに対応するためのサービスも水面化で検討していたりします。
日本酒企業であり、IT企業でもあることを標榜しているSAKE Streetとしては、メディア運営も、こうした新しい取り組みも積極的に実施していくことで、日本酒業界を盛り上げることに貢献できればと思っています!
最後になりましたが、もしこの記事を読んで「SAKE Streetの記事広告に興味がある」という方がいらっしゃいましたら、ぜひお問合せをいただければ幸いです。まずは媒体資料を送付させていただきますので、下記の資料請求フォームよりご連絡ください。
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