生牡蠣に合う日本酒はコレ!おすすめ5選

豊富な栄養価から海のミルクとも呼ばれている牡蠣。プリプリとした乳白色の身がとっても美味しい…なんて杓子定規な導入は止めにしましょう。正直に言います。実は私は牡蠣が大の苦手!特に今回のテーマである生牡蠣特有の磯の香りや、あのなんとも言えない食感がどうしてもダメなんです。

そんな私がなぜこの検証に挑むのか。それは日本酒ペアリングのポテンシャルを信じているから。例え嫌いなものでも、日本酒と合わせれば美味しくいただけることを身をもって証明したいと思います。

なお、味付けは一般的な三杯酢(酢3:醤油1:砂糖1の割合)に、カボスの果汁を少々搾ったもので試しました。

相性のいいお酒のタイプ

生牡蠣において注目すべきポイントは、独特な磯の香りや官能的な食感を含めた強い個性と存在感です。私のように苦手な人間だけでなく、好きな方でも同じだと思いますが、良くも悪くもクセが強いですよね。

生牡蠣

ですから、酒もそれに負けないパワーとインパクトで対抗する必要があります。これだけではちょっと抽象的ですので、もう少し具体的に見ていきましょう。

まずアルコール度数。これは高め(17度以上)のものをおすすめします。度数が強いほうが生臭さが飛びやすいということもありますし、味わいにもパンチが出ます。

また、ボディも太いほうが良いですね。牡蠣は生の魚介類の中ではトップクラスに旨みが強いので、それに合わせてある程度どっしりした米の味わいを感じるタイプの酒がおすすめです。

とはいえ、ひたすらに濃醇でゴリゴリの酒が良いかというと、それもまた少し違います。いくら生牡蠣のインパクトが強いと言っても、味つけには酸味が効いており、むしろ爽やかな要素もあります。そこを考慮して、濃醇さやボリューム感はほどほどに留めるべきでしょう。

さらに忘れちゃいけないのが牡蠣のミネラル感。酒も同様に、ミネラルやほんのり軽い苦みがあって、ある程度輪郭や骨格がハッキリしたものであればより調和します。

ここまでの考察から、燗上がり系のコシの強いお酒が好相性ということが見えてきました。

では燗上がり系とは対極の、香りが華やかでフルーティ、または繊細な酒だとどうでしょう。いわゆる爽酒・薫酒と言われるタイプですね。残念ながら、これらはやはり生臭さとぶつかってしまいますし、多くは牡蠣のパワーに押し負けてしまうので、あまりおすすめできません。

生か火入れかはそこまで気にしなくとも大丈夫ですが、一般的に火入れのほうが香りは控えめなので、ペアリング的に有利なのは間違いないですね。

ちなみに生牡蠣といえば、白ワインのシャブリとのペアリングがよく知られていますが、これは食材にかけるレモンのごとく強めの酸で臭みを抑えつつ、ミネラル感を同調させる方向性です。これと同様の狙いで山廃や白麹など、酸味が強いタイプの日本酒を選ぶのは大いにアリでしょう。

それではそろそろ生牡蠣が苦手な私が、生牡蠣に合うと感じた銘柄をご紹介していきます。

杣の天狗 純米吟醸 うすにごり 生原酒

不老泉で有名な上原酒造のお酒ですが、不老泉よりは若干優しい印象です。うすにごりの柔らかいテクスチャーが牡蠣のクリーミーさと同調します。

温度帯は55℃くらいの飛び切り燗で。これにより輪郭が明確になり、中盤のシャープさが増すことで牡蠣の臭みを感じづらくなります。

しかし、淡白なイカ刺しにも濃厚な生牡蠣にも合うなんて、つくづく懐が深いお酒です。
イカの刺身に合う日本酒5選

美寿々 辛口純米 一回火入れ

無難に合わせるならこれ。日本酒度+12のドライな一本です。素晴らしくキレがいいですね。生の魚介であれば、かなり幅広く合わせられます。

そして磯の香りや生臭みを消す力は検証した中でもピカイチでした。生牡蠣の磯の香りが苦手な人は試してみる価値ありです。 

不老泉 山廃純米吟醸 備前雄町 無濾過生原酒

生なのに燗で呑みたいお酒です。厚みのある旨味は今回のテーマにぴったり。燗にすると酸が引っ込み甘味が増すので、三杯酢と溶けあうような、まろやかな味わいになります。

ただ、臭み消しの点では常温か冷酒のほうがベターです。牡蠣の状態によって温度帯を変えてみるといいでしょう。生臭さが気になるようであれば冷酒、臭みは問題なく旨みが強ければ燗といった具合です。 

昇龍蓬莱 きもと純米 山田錦75 槽場直詰生原酒

野太いボディで冷酒でも燗でもよく合います。

低精白なので分厚くボリューミーなんですが、ぼやけた印象はありません。冷酒では凝縮感があり、酢をかけた生牡蠣の力強い味わいと同調します。

生もとらしく味の要素が多く複雑なんですが、燗にすることでグッとまとまりが出て、今度は牡蠣の旨みの部分とリンクしました。 

舞美人 山廃純米 外伝 無濾過生原酒

強すぎる酸味で唯一無二のポジションを獲得している酒です。

強い酸味の中からほどよい甘味が浮かび上がり、三杯酢とうまい具合に同調します。というか、むしろ三杯酢そのもののような味わいなので合わない道理がありません。

なお、舞美人はどのスペックもキャラクターが似ているので、この外伝でなくてもほぼ同じようにペアリングできます。熟成系で合わせるのも、一癖プラスされて面白いですよ。

まとめ

生酒より火入れが無難と書いておきながら、蓋を開けてみれば5本中4本が生という結果に(笑)。

どれも燗映えするタイプであり、一般的なフルーティで繊細な生酒とは方向性が違うので矛盾はしていませんが、とにかくSAKE Streetには燗上がりする生がなぜか多いってことがよく分かりました。

なお、合わせた酒に物足りなさを感じたら舞美人を少しブレンドしてみると、酸が足されて相性が近づきます。牡蠣自体にちょっとかけてみてもいいかもしれません。

さて、今回の検証を通じて、生牡蠣への印象はどう変わったか。

正直に言うと、嫌いから好きに転じるほどではありませんでしたが、それでも「おっ、これは…!」と感じる瞬間も多々あり、日本酒の効果を明確に感じられました。いつか産地に出向いて、採れたての牡蠣を今回選んだ酒と合わせてみたいものです。 

酒井 辰右衛門

酒井 辰右衛門

J.S.A. SAKE DIPLOMA / 日本酒ペアリング研究家

ミュージシャンとして活動する中で、ひょんなことから日本酒に目覚め、一気に沼へ。 現在は日本酒と料理の相性を様々な角度から探るweb「日本酒ぺありんぐ総合研究所」の主宰として日々飲酒に励んでいます。食中酒としての日本酒の可能性を広げるために、およそ合いそうもないエスニックや洋食、スイーツなどとの相性を探るのがライフワークになっています。初心者向け日本酒セミナーの講師としても活動中。