
酒肴の定番、しめ鯖。関西では「きずし」と呼ばれています。
冷蔵技術がなかった時代、傷みやすい鯖を運搬するために塩と酢で締めたことが、しめ鯖の起源です。今ではすっかり多くの人に親しまれる料理になりましたね。
「日本酒のおとも」のイメージが強いですが、意外に合わない経験をされた方も多いんじゃないでしょうか。今回はそんなしめ鯖に合う日本酒を探っていきます。
しめ鯖に合う日本酒のタイプ

正直、しめ鯖に合う日本酒はかなり幅広いです。そこまで難しく考えなくとも、ほとんどの日本酒はそれなりに合ってしまいます。
ただ「それなり」でしかないんですよね。せっかくでしたら、感激するくらいの組み合わせを味わいたくないですか?というわけで、もう少し踏み込んでみましょう。
まずは酢による酸味。当然ながらここは大きなポイントになります。同じように酸に存在感のあるタイプの酒は合わせやすいです。しめ鯖は味の要素が多く凝縮感があるため、それに負けないコシがあって輪郭のはっきりした純米酒は基本的に相性がいいですね。
典型的なタイプの山廃や生もとであれば、味が詰まっていて酸もはっきりしているものが多いのでおすすめ。最近増えてきている低精白の酒も、これらの条件に合うものが多いです。
ただし突出して酸が強いタイプや濃醇すぎる酒ですと、しめ鯖が負けてしまいます。
逆に低アルコール系や、普通酒、本醸造酒などは軽くて飲みやすいんですが、その分味わいに遊びがあり、今度はしめ鯖が主張しすぎてしまいます。積極的にはおすすめできません。
さらに、しめ鯖の生臭さもスルーできない要素。酢締めによって生臭みはかなり軽減しているとはいえ、華やかでフルーティーなタイプはせっかく隠れていた臭みを呼び起こすことがあるので避けたほうが無難です。なるべく香りが穏やかなタイプを選びましょう。
シン・ツチダ
精米歩合90%ながら、それを感じさせない完成度。生もとなので味が多く、キッチリ締まりもあります。このへんがしめ鯖とマッチする所以。
日本酒度は-11~-15とこれだけを見るとかなり甘そうに思えますが、飲んでみると意外にそうでもないんです。酸と雑味とのバランスのとり方が非常に巧みですね。
近いタイプとして、同じく土田酒造で精米歩合90%の土田 研究醸造#12もおすすめです。
銀シャリ 特別純米酒 無濾過生原酒
すっきりした立ち香で、やや硬質なイメージ。ほんのり感じる苦味がさらに輪郭をハッキリさせてくれます。この骨格のはっきりしたテクスチャーがしめ鯖とよく合うんです。
香り自体はあまり生っぽくないんですが、うま味の広がり方に生原酒らしさを感じます。ここで鯖の強いうま味と重なり、得も言われぬハーモニーを奏でてくれます。
不老泉 速醸特別純米 原酒 参年熟成
口当たりが若干柔らかく、しめ鯖と合わせるとそこそこ甘味を感じるんですが、そのあとにやってくる複雑で凝縮された味わいが完全に同調。この後半の同調があることで序盤の甘味が軽やかなアクセントになり、味の流れに緩急がつきます。
やはりしめ鯖には、このくらいうま味がしっかりした酒が合いますね。
不老泉 山廃純米吟醸 雄町 無濾過生原酒
ペアリングの印象としては上の速醸と似ています。こちらのほうがより複雑でボリューミーなので、味付けの濃いしめ鯖であればさらに同調するでしょう。
酒を多く含み過ぎると鯖が負けてしまうので、ちびちびやるのが正解です。
飛鸞 神楽(KAGURA) 無濾過生原酒
新進気鋭、注目の蔵です。
柑橘を感じさせる酸が印象的。強度や重さがしめ鯖とぴったりで、口の中で両者の味わいが見事に並走します。生もとの凝縮感もあって非常に同調性が高いですね。
飛鸞という銘柄の特徴が良く出ている酒です。
大治郎 生酛純米 吟吹雪
力強いタイプながら、濃醇すぎず安心感のある定番の一本。
酸の出し方とわずかな苦みに生もとらしさを感じます。しめ鯖と馴染むのは必然。
開けたては少しアルコール感があって固いので、低めの温度で緩く燗付けするとバランスが良くなります。
まとめ
こうして選んだ酒を並べてみると、やはり酸と輪郭(骨格)がキーワードになってきますね。重さはそこそこあって、香りが穏やかなタイプであれば間違いなし。生か火入れかはあまり問題になりません。
温度帯は冷酒~常温がファーストチョイス。ぬる燗~熱燗にすると酸が和らぎ口当たりが柔らかくなることで、若干相性が離れます。脂の多い鯖であれば、逆に飛び切り燗でキリッとさせるのもアリです。
SAKE Street店舗でも角打ちでしめ鯖(ガリ、大葉、ゴマなどの薬味を和えた超うまいやつ)を提供しています。ご来店のうえ、今回の酒との相性を実際に確かめてみてください!