【酒蔵だより:村井醸造】新チームで挑む今期の酒造り

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「真上(しんじょう)」を醸す茨城県・村井醸造。今年は、杜氏を呼ばず、8年目の臼井卓二さんが製造責任者を務める体制で2シーズン目を迎えます。今期は若手の蔵人も加わり、新しいチームでの酒造りに臨む臼井さんに、現在の想いを綴ってもらいました。

目次

若手蔵人が仲間入り

村井醸造では、今期の酒造りが2023年10月24日からスタートしました。前期との違いは、


  1. 1. 2022年12月にアルバイトで入った地元の子がいること
  2. 2. 岩手県から酒造経験8年の即戦力助っ人がいること
  3. 3. 醸造責任者をワンシーズン経験したこと

    が挙げられます。

    村井醸造の酒造り道具

    アルバイトの子は、昨期の12月、蔵の近所にある文具店から、息子さんが諸事情で実家に帰ってきているから雇ってほしいと紹介してもらいました。彼はまだ20代で、蔵に自分よりも若い子が来るということが奇跡のように思えました。

    僕は2016年に、30代で異業種から村井醸造に転職しましたが、職場には自分より30歳以上年上の人しかいませんでした。それだけ年が離れていると意思の疎通に苦労することも多く、気遣いの上に気遣いをしなければならなかったり、実際に不快な思いをさせてしまうことも多々ありました。

    また、そもそも人数が足りていない状況で、年配の従業員が多いことも合わせて、現場は疲弊していきました。そのため、20代のその子が仲間入りしてくれれば、今抱えている問題が一気に解決できると思ったのです。

    実際、年齢が近いこともあって、意思の伝達がスムーズになり、指示をする時も気遣いは最低限で済んでいます。これまで社内での擦り合わせに苦労してきた衛生観についても、もともと持っている感覚が近いことにほっとしました。

    杜氏を目指す強力な助っ人が登場

    さらに今期は、X(旧Twitter)で繋がりを持った岩手県の蔵人さんが、助っ人として村井醸造にやって来てくれました。助っ人さんは、いずれ杜氏になりたいという夢を持った人で、県外の酒蔵へ勉強をしに蔵入りするという気構えの持ち主。今期、たまたま行き先を検討していたところで、当蔵へ来てもらえないかとお願いしたら、了承していただけました。

    当蔵で働いてもらうにあたって、助っ人さんのメリットになるのではないかと思ったのが、各持ち場(釜屋・酛屋など)に配置するのではなく、すべての工程に携われるという点でした。

    村井醸造の甑

    酒造りにとって、蒸し・麹・酒母育成など各工程をマスターするのが大切なのは重々理解していますが、点だけでは全体を把握することができず、却って蔵人の理解・成長を遅らせることに繋がるのではないかという懸念もあります。

    僕の場合、人数が少ない現場ということもあり、初年度から全ての工程(洗い・洗米・蒸し・酒母立て・麹造り・三段仕込み準備……)を任されていました。ただし、これを経験の浅い蔵人に一人でやらせるのはあまりにも責任が重いので、補助をつけるもしくは部分的に担当してもらうなどの配慮は必要だとも考えています。

    蔵に来た人すべてが全工程に携わるべきという考えはありませんが、意欲と資質があるのであれば、どんどん経験すべきという考えです。僕は他業界から酒造りの道に入り、造りは今年で7年目になりますが、このキャリアで製造責任者になるというのは、なかなか珍しい境遇だと思っています。だから、この幸運を独り占めにしたり、今の立場に拘泥すべきではありません。

    極論をいえば、自分よりふさわしい人が来ればいつでも製造責任者の立場を譲るべきだし、熱意のある人には横に並んで仕事をしてもらって、作業全体と各持ち場の蔵人たちを俯瞰する立場を学んでもらいたいと思っています。

    醸造責任者として2期目を迎えて

    村井醸造の放冷風景

    今期の造りに取り組んでいて、昨年度に醸造責任者を務めたことがことが良い糧になっていると感じます。どんなに良い酒質にするために設備投資や素材にこだわったとしても、最終的には「和醸良酒」に集約されるのだと気づかされました。

    昨年度は、初めて南部杜氏を呼ぶことなく、自分が最終責任者となって酒造りをするという取り組みをおこないました。基本的に、普段とやることは変わらず、杜氏さんがいたときと変わらない仕事の頼み方、スケジュールの取り方で進めました。

    しかし、シーズンを迎えて間もない時期に、現場の雰囲気を悪くしてしまったことがありました。当時は、「自分が現場で最年少だから、指図されることが面白くないのでは」と考えていましたが、今になって思い返せば、酒造りに対する各人のモチベーション・姿勢に対する配慮のなさが原因だったと思います。

    現場が忙しくても、「これくらいなら自分であれば一人でできる」「この作業量ならみんなついてきてくれる」という甘えがあったために、現場の疲弊を招き、みんなのストレスへと繋がり、普段であれば笑い合えるような会話でも怒りへつなげてしまうような雰囲気を作ってしまっていました。

    そんな昨年の反省を踏まえて、今期はチームの和を尊重することを最優先することにしました。現場の人間が疲弊すれば、作業にも影響が及び、ひいては酒質の低下に繋がります。

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