【酒蔵だより:村井醸造】はじめての契約栽培、スタート!

地元銘柄「真壁」と新銘柄「真上」

日本酒の代表的な原料であるお米。「酒米の王様」とも呼ばれる品種・山田錦は全国各地の酒蔵で使われていますが、近年では地元産米の再評価や、地元向けの新しい品種の開発、さらには農家とパートナーシップを組んでの契約栽培米や自社栽培のように、蔵がある地域との結びつきを強化する取り組みも進んでいます。

今回は、「真上(しんじょう)」を醸す茨城県・村井醸造の醸造責任者・臼井卓二さんに、同蔵で今期から新たにスタートした契約栽培米にかける思いを綴ってもらいました。

目次

酒米「若水」の契約栽培をスタート

村井醸造では、今年から初めての契約栽培に取り組んでいます。契約栽培米の品種として選んだのは、村井醸造としては初めて酒造りに使うことになる「若水」です。今まさに、そのお米が育っている過程なので、まずはその様子をお伝えしたいと思います。

「若水」の栽培を行っている田んぼ

今回の「若水」の契約栽培がはじまったのは今年5月のこと。すぐ近くには飯米としておなじみのコシヒカリが植えられていましたが、それと比べるとまだ伸びが遅く、背丈が低いことが印象的でした。

7月の田んぼ

7月に再度、訪れた時の写真がこちらです。1枚目の写真には映っていなかったのですが、契約栽培を進めている田んぼからは真上のラベルのモチーフになっている筑波山をはっきりと望むことができます。

このときすでに、隣にあるコシヒカリは出穂しており、「若水もあと少しで穂が出るところ」と契約農家の秋山さんが伝えてくれました。秋山さんは農家として米を栽培しながら、地元で酒屋も営んでいる方です。

8月頃の田んぼ

つい先日訪れたところ、穂が出ていました!9月初旬に収穫を迎えることができそうです。

なぜ、契約栽培をはじめるのか

このように今となっては順調に進んでいる契約栽培ですが、そもそもこのタイミングで取り組みを始めることにした理由もお伝えしたいと思います。

「地酒」を見つめ直す

村井醸造では、昔から地元で親しまれていた地酒「公明」「真壁」、そして2019酒造年度に生まれた新銘柄「真上」を製造しています。公明と真壁はこれまで「地酒」と冠して出荷してきましたが、使用しているお米は県産の酒米という程度で、個人的には100%胸を張って「地酒」と言いづらいという思いがありました。

そういったなかで、古くから付き合いのある酒屋さんの跡取りであり、米農家でもある秋山さんから「村井醸造を応援したい」という気持ちで契約栽培米の申し出をいただいたのです。

酒屋兼農家の秋山さん(筑波山を背景に)
酒屋兼農家の秋山さん(筑波山を背景に)

私としても、「改めて地酒というものを見つめ直す良い機会なのではないか」と捉え、契約栽培をスタートすることにしました。

次に考えたのが、このお米をどの酒に使うか、ということです。蔵のある地で収穫できるお米ということを考えたとき、この地域の名前を冠した地酒「真壁」にこのお米を使うことで、新しい命を吹き込んでみたいという想いが湧いてきました。

そのため、今回から始まる契約栽培米については、「真壁」を生まれ変わらせるために使用することにしました。

酒蔵は米の加工業者である

もう1つは、以前から「この地の田圃とともに未来を担いたい」という想いを抱えていたことです。

酒蔵とは、酒造りをする企業ですが、広く見れば米の加工業である、と捉えています。したがって、米農家さんが飯米だけではなく、酒米も栽培の選択肢として選ぶ機会を提供できたり、米農家さんにとっての新しい取扱先・開拓先として選んでいただけるようになりたいと考えています。

そしてそれが、地元の米農家さんであれば嬉しいですし、そうなればこの地の田圃・風景を未来へ繋げることができるのではないかと思うのです。

「若水」を選んだ理由

契約栽培農家にとって負担が少ない

今回の契約栽培を始めてもらうにあたって、なるべく農家さんにとって負担の少ない酒米を選びたいという気持ちがまずありました。酒米は多くの場合、飯米よりも育てるのが難しいからです。たとえば品種によっては幹が太すぎるため、収穫用の機器もそのまま使うことはできない場合があります。

実際、秋山さんからも、初めて酒米に取組むという意気込みはあれど不安のほうが大きいというお話も聞いていました。

そこで、酒米の品種について調べてみたところ、「若水」は飯米と近い形で育てやすく、収穫も容易であることが分かりました。初めての取り組みとして挑戦しやすい酒米だったのです。

それでも、農家さんにとっては未知の米であることに変わりはなく、契約栽培前にはお互いに集められる情報を収集しては共有していました。栽培が開始してからも連絡を取りあったり、実際に田圃へ訪問して様子を見たりと、落ち着かない日々が続いています。

村井醸造が目指す味を実現するために

もろみの様子

2つめの理由は、「若水」がこの蔵で目指す味わいを実現するのに適していると考えたことです。私がこの蔵で目指している味わいは「米をより多く溶かし、味をしっかり出す。香りは控えめにして、普段の食事に寄り添う酒にしたい」というものです。

新銘柄「真上」を立ち上げる際、「すでに美味しいお酒がたくさんあるなかで、どうやったら存在感をもった酒を提案できるか」を必死で考えました。その時の結論として、「純米大吟醸・純米吟醸など高精白の世界ではすでに先行した蔵の技術が進んでいる。そうではない世界、かつ市場で受け入れられる味を表現できないか」と思い至ったのです。

そこで今後目指すことにした方向性が、「普段の食事に寄り添う酒」でした。それから3年ほどが経ち試行錯誤を続けているところですが、この基本的な考えは今も変わっていません。

少し話がそれてしまいましたが、若水は山田錦などと異なり、お米をたくさん磨く高精白の酒造りにはあまり適していないものの、愛知県や群馬県で今でもよく使われている品種です(ちなみに茨城県でも、ある酒蔵さん向けにのみ、特別に栽培されているそうです)。

こうした特徴を備えるお米が、目指す味わいを実現するのに適していると考えたのが、若水を選んだ2つめの理由でした。

地元銘柄「真壁」と新銘柄「真上」
地元銘柄「真壁」と新銘柄「真上」

契約栽培米のお酒は来年2月頃発売予定!

このお米は9月旬頃に収穫を迎え、精米・貯蔵ののち12月頃から酒造りに使用します。そして来年2月頃から「真壁のひな祭り」に合わせて地元向けを中心に販売を開始する予定です。

地元銘柄「真壁」に使用することもあり、SAKE Street読者の皆さんに飲んでいただく機会が少ないかもしれない点は申し訳ないのですが、今回初めての取り組みで得られた経験は秋山さんも私も最大限に活用して、将来的には「真上」にも反映していきたいと考えています。

これから台風や大雨も多い時期になりますが、無事収穫を迎えられるよう、一緒に祈っていただければと思います。そしてもし機会があれば、「真壁」を飲みに、地元茨城県や桜川市、そして真壁を訪れていただけると嬉しいです。

 

【酒蔵だより:村井醸造】
2023年・夏「はじめての契約栽培、スタート!
2023年・冬「新チームで挑む今期の酒造り
2024年・春「乳酸菌を使用した酒造りへの挑戦

村井醸造株式会社

茨城県桜川市真壁地区。戦国時代から城下町として栄え、今でも江戸時代当時の街並みを色濃く残します。近江商人であった村井家がこの地を拠点としたのは、1670〜80年頃のこと。その後、ここで手に入る良質な米と水を活かして酒造りを始めました。

2020酒造年度から限定流通銘柄として立ち上がった「真上(しんじょう)」は、30代の若手蔵人・臼井卓二さんが酒質設計から製造、営業までを手掛ける「これからの酒」。「真壁を盛り上げる」という願いも込められています。「安心して飲んでもらえる酒を」という誠実な想いで醸され、成長し続けるこの銘柄を、一緒に応援していただけると嬉しいです。

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