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【酒蔵だより:村井醸造】コロナ禍に生まれた「真上」4期目の手応えを振り返る

【酒蔵だより:村井醸造】コロナ禍に生まれた「真上」4期目の手応えを振り返る

コロナ禍より醸造を始めた村井醸造の新銘柄「真上(しんじょう)」が、前回の造りで4期目となりました。今回の酒蔵だよりでは、もうすぐ造りの時期を迎えるにあたり、これまでを振り返り、どういった手応えを感じたかを、村井醸造・製造責任者の臼井卓二が記していこうと思います。

そのためには、「どうして新銘柄を立ち上げるに至ったのか」という始まりの部分からでないとうまく説明することが難しいため、遠回りだとは思いますが、簡単に「真上」のスタート当初に触れ、4期目を振り返ります。

目次

新銘柄「真上」を立ち上げた経緯

真上を立ち上げた経緯は、コロナ禍によりお酒が売れなくなったことにあります。

コロナ禍前から造っていた地元銘柄「公明」は、葬祭用のお返しとして使われることがメインのお酒でした。葬儀には何十〜何百名が集うため、一度に多くのお酒が動きます。しかし、コロナ禍により、葬儀の開催も控えられるようになってしまったため、お酒がまったく動かなくなってしまいました。

主に葬祭用のお返しとして使われていた地元銘柄「公明」

そんななかで、私自身「このまま酒が動かなくなってしまったら、蔵がなくなってしまい、酒造りも続けられなくなってしまう」という危機感を覚えました。そのため、お酒が売れない状況だとは重々承知していましたが、社長に「現状維持では何も変わらない。新しい銘柄を立ち上げ、『村井醸造は新しいことを始めます』というメッセージを発信し、世間に知ってもらう必要がある」と直訴して、新銘柄を立ち上げることにしました。

新銘柄を立ち上げるというと、通常であれば綿密な計画をたて、何年もかけて納得のいく味わいを追求し、お披露目するというものかと思いますが、弊社では「とにかく新しいこと始める」ことだけが先行していたため、おおまかな酒質設計のみで、銘柄名もラベルも決めずに醸造を開始しました(今振り返ると、恐ろしいことをしていたなと思います) 

当時は、香りは控えめにしつつ、味わいはしっかりしているお酒にすることを念頭に醸造を開始しましたが、実際に出来上がったお酒とイメージしていたものとでは、だいぶ乖離があることに気づかされました。そのため、そこからは茨城県産業技術イノベーションセンターの飛田啓輔主任研究員に徹底的に師事を仰ぎ、イメージするお酒に近づけていくと同時に、一本一本のコンセプトを明確にするよう指導を受けました。

飛田主任研究員(左)に見守られながらの櫂入れ

その後、銘柄名について社長に相談したところ、恥ずかしそうに「実はずっと考えていたものがあるんだ」と打ち明けられ、その名前が「真上」でした。曰く、「真壁という銘柄よりも上質な酒質にしたい。また、真壁という街が栄えていたころのようにもう一度盛り上げたい」という二重の意味で考えていたようです。

ラベルについては、一度だけ一緒に飲みにいったことのあった二戸さん(現・SAKE Street Media編集長)に事情を説明したところ、「紹介できるデザイナーさんがいますよ」とご紹介をいただき、なんとか用意するに至りました。

立ち上げからの反響と、その後のブラッシュアップ

反響についてですが、今までは葬祭用のお酒がメインであったため、消費者の反応というものがほぼありませんでした。

それに対し、新銘柄「真上」を立ち上げ後、取り扱っていただける酒販店が県内外に徐々に増えてくると、お店からのフィードバックやSNSなどの反応があり、酒質に対して、飲み手がどのように感じているのかがよくわかるようになりました。そして、その反応を見ることで、一つひとつの商品がどのようなイメージを持たれているのかが、なんとなくではありますが理解できるようになり、そのイメージをより明確にできるよう、次の造りでブラッシュアップしていこうという考えができるようになりました。

例えば、真上シリーズでよく反響を頂いている「真上 特別純米 直汲生原酒」は、立ち上げ当初は米をより多く溶かすことという点に重点を置いていましたが、そのお酒が飲み手に届くと「濃淳・ジューシーで美味しい」という予想していない反響をいただきました。その感想から、この味のイメージがジューシーであれば、より美味しく感じてもらいやすくするにはどうすれば良いかと考えるようになり、ブラッシュアップに励むという流れができました。

「真上」4期目を迎えて

立ち上げから4期目を迎え、真上は6種のスペックを取りそろえるまでに至りました。各スペックにつき、それぞれコンセプトがありますが、軸の部分(○○らしさ、といわれるもの)は残しつつも似通った味わいにならないよう、ポジショニングマップを作り、味わいが各々明確に異なるよう意識づけるようにしています。

また、当初設定した味わいについても、自身の官能評価はもちろんのこと、お客様の反応を見て感じたことをもとに原酒のアルコール度数を見直すなど、スタート時の設定に囚われすぎないよう取り組んでいます。

加えて、真上が4期目を迎えたこととは別に、私が製造責任者になって3期目を迎えたことで、以前までは見えていなかったものがはっきりと見えてくるようになりました。例えば、目指したい酒質のアイデアが思いついたとしても、「今はそこまで手に負えないな」ということが判断できるようになり、歯がゆい思いを経験したりしています。

今期への意気込み

以上の振り返りに対し、今期の課題について少しだけ触れようと思います。

まず、お酒についてですが、しばらくは生酒に注力しようと考えています。というのも、自身の経験値がまだまだ未熟な点と、蔵のマンパワー・設備の面で火入れ商品のクオリティを上げるのは難しいという判断に至ったからです。当分は直汲生・生原酒に注力して酒質をよりブラッシュアップしつつ、徐々に人員を増やし、設備投資が整ったところで改めて火入れ商品の酒質を伸ばしていければと考えています。

次に、現場についてです。製造責任者になって2期目だった昨年度は、初年度の「チームの和」という点を最重要視していたため、自身も含めて、とにかく造りのメンバー間で和が乱れないよう気を配っていました。全員の気持ちを慮ることはできなかったという反省はありますが、初年度のような衝突は生じなかったので、その点は良かったなと思っています。

今期は瓶詰担当のメンバーとも積極的に意思疎通を図り、上槽されたお酒をより早く瓶詰できるよう、綿密な調整を心がけたいと考えています。

最後に、これが 一番大事なことですが、誰も怪我をせず、事故を起こさず、春を迎えられるよう気を付けたいと思います。

 

【酒蔵だより:村井醸造】
2023年・夏「はじめての契約栽培、スタート!
2023年・冬「新チームで挑む今期の酒造り
2024年・春「乳酸菌を使用した酒造りへの挑戦
2024年・秋「コロナ禍に生まれた「真上」4期目の手応えを振り返る

村井醸造株式会社

茨城県桜川市真壁地区。戦国時代から城下町として栄え、今でも江戸時代当時の街並みを色濃く残します。近江商人であった村井家がこの地を拠点としたのは、1670〜80年頃のこと。その後、ここで手に入る良質な米と水を活かして酒造りを始めました。

2020酒造年度から限定流通銘柄として立ち上がった「真上(しんじょう)」は、30代の若手蔵人・臼井卓二さんが酒質設計から製造、営業までを手掛ける「これからの酒」。「真壁を盛り上げる」という願いも込められています。「安心して飲んでもらえる酒を」という誠実な想いで醸され、成長し続けるこの銘柄を、一緒に応援していただけると嬉しいです。

【真上】村井醸造(茨城県)のお酒一覧はコチラ

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