旅において、その土地で造られたお酒というのは、旅情を高めてくれるものです。それも、地元でしか流通していないお酒となればなおさら。
いまや、流通網が発達し、日本全国のお酒が酒屋さんやオンラインで手に入ります。しかし、その地方でしかなかなか手に入らないのが、地元流通ブランドの普通酒です。
普通酒ってどんな日本酒? - 特別なお酒ではないからこその楽しみ方とは | SAKE Street | プロも愛読の日本酒メディア
というわけで、酒ストブログの不定期連載「にっぽん全国普通酒の旅」では、全国各地のスーパーやコンビニで買える普通酒をご紹介。第5回目は、全国でも有数の酒飲み県、高知県のお酒をご紹介します。
繁華街のビジネスホテル併設コンビニ。その日本酒ラインナップは……
出張で訪れた高知。この日は夜まで予定が入っていたので、市内の繁華街「帯屋町」にあるビジネスホテル併設のファミリーマートに立ち寄ってみました。そこで揃ったのが、こちらのお酒です。
酒どころでもある高知県には「司牡丹」「酔鯨」など銘酒が揃っていますが、こちらのファミリーマートには、みごとに「土佐鶴」ばかり4種類ならんでいました。ちなみに今回は荷物の都合上、購入できませんでしたが、四合瓶のラインナップも「土佐鶴」。この銘柄、どれだけ帯屋町に愛されているんだ……!
高知の夜の街に愛される「土佐鶴」の実力
購入した4種のうち、3種が普通酒。1種は純米酒でした。この連載のレギュレーションには違反しますが「1つまでならセーフ」という自分ルールを信じ、せっかくなので4種すべてをテイスティングしてみました。
土佐鶴 さわやかカップ
アルミフィルムのフタをはがすと、青リンゴ系のさわやかな香りが感じられます。
口に含むと、柔らかな甘さ。米の甘みと果実感がうまく混ざり合った優しい味わいです。旨味やコクも感じられますが、それらの要素もうまく調和した、クリアな印象です。
あとくちのキレもよい。「ズバッ」としたキレではなく、「スッ」とキレていき、ほどよい余韻が感じられます。これは、まさに「さわやか」……!
お燗も美味しそう……ということで、カップのままレンジで加熱。裏面の説明文では50秒が推奨されていますが、常温で飲み進んで少し減ってしまいましたし、ライトな味わいなのでぬるめが良さそう、ということで40秒加熱してみました。
パン、なかでもテーブルロールのような香りと、お餅のような香りに変化しました。味わいも、よりマイルドになっていますがキレの良さは健在で、さらにバランスが取れた印象になります。
冷酒から燗酒まで、食事の相性もそれほど選ばなさそうな、万能タイプのお酒です。
トサツル [青] ミニ
続いて、同じ紙カップの容器に入った普通酒「トサツル [青] ミニ」を味わってみましょう。
炊いたお米の香りを中心に、少し桃のようなニュアンス。この時点で、さきほどの「さわやかカップ」とは結構特徴が異なるように感じます。
味わいの柔らかさは共通していますが、「まろみ」という言葉がしっくりくる、カドがなくつるふわな飲み口が印象的。お米感のある味わいで、旨味も少ししっかりめに感じます。
「さわやかカップ」は上質なお酒のニュアンスがありましたが、こちらは良い意味で「ザ・スタンダード」な王道感が伝わってきます。
さて、間違いなくお燗が美味しい味なので、レンジで50秒加熱してみます。予想どおり、温めることでキリっとした感じが出てきます。酸味がふくらむのも手伝って、キレの良さが増した印象です。
前菜やお刺身なら常温、肉料理など味わいのしっかりしたお料理に合わせるなら、温める方が良さそう。温度の高低であわせられるお料理を変えられるように設計されているのだとすると、晩酌酒としての完成度に驚きます。
土佐鶴 蔵出しカップ 氷点下生貯蔵
同じ銘柄の普通酒飲み比べでも楽しめることが分かってきましたので、どんどんいきましょう。こちらは前の2つに比べると、意外にも香りは穏やかです。「生貯蔵」の言葉から、フルーティな味わいにしているのかとイメージしていました。
口に含むと少しだけ、「さわやかカップ」のような青リンゴ系の香りが感じられます。そして……おいしい。一段と洗練された味わいに感じます。これは、専門店にある中小規模酒蔵のスタンダードな純米ラインと比べても遜色はないのでは?強い特徴があるわけではないのですが、「テーブル日本酒」としての完成度が非常に高いお酒です。
こちらも当然、温めてみます。ガラス素材なのでそれなりに厚み、質量があることを考えて、温め時間も長めにした方がいいのかな……?カンで1分にしてみます。
レンジから取り出すと、先ほどとは一転して香ばしい香りが感じられます。ややウッディなニュアンスも。口に含んでみると分かったのですが、結構熱めになっていました。どうやら容器素材による加温時間の調整はあまり必要ないのかもしれません。
味わいは、温めたことで旨味がしっかり感じられるように。ほっこりした余韻も楽しく、じっくり味わえるお酒という感じです。さきほどの2種は食中酒に、こちらは夕飯後、軽いおつまみと一緒にだらだら晩酌するのにピッタリそうな味わいでした。
[番外編] 土佐鶴 純米酒 酔って候
ここまで3種をしっかりめにテイスティングしたところでこちらの「純米酒 酔って候」。少し酔ってきて商品名に感情移入が進みますが、あくまでも番外編なのでサクッといきます。
餅のようなお米系の香りに、少し複雑味のある味わいで、常温よりもお燗が映えるバランス。温め後に旨味を感じながらゆっくり飲み進めて、温度が少し下がると甘味が表に出てきます。この甘味が酔いをいい感じに包み込んでくれ、まどろみを誘います。これは就寝前に最適な1本かもしれません。
普通酒よりも、純米酒のような特定名称酒の方が洗練されている、と思いがちですが、今回の飲み比べでは普通酒3種の方がクリアな味わいでした。ラインナップの設計として、普通酒では表現しづらい米の香りや複雑味を純米酒で表現する構成にしているのかもしれませんね。
まとめ
土佐鶴ばかり4種類を飲み比べてみましたが、気分やシーンによって使い分けられる多様な味わいでした。どれも値段からは信じられないほどクオリティが高く、1店舗に、同じ銘柄で4商品がラインナップされているのも納得です。
都道府県別飲酒費用が全国1位の高知県。そのなかでも酒飲みが最も集っているはずの帯屋町で愛され続ける、「土佐鶴」の実力がわかった飲み比べでした!
【シリーズ:にっぽん全国普通酒の旅】
(ライター:二戸浩平)