サケスト酒が飲める店:第10回「ふくの鳥」(神田)

「せせりと白ゴーヤ、甘辛唐辛子のちりめん山椒炒め」と燗酒

日曜日にもかかわらず、17時のオープンから店内は賑わい、テーブルはほぼ満席。JR神田駅北口から徒歩1分、警察通り沿いのビルの地下1階に位置する焼き鳥居酒屋「ふくの鳥 神田店」は、ビジネス街にありながら週末も客足が絶えません。

店を切り盛りするのは店主の上野真史さん。「ふくの鳥」はもともと赤提灯系のチェーン居酒屋でしたが、神田店はいわば暖簾分け。他店とはまったく異なるラインナップで、日本酒は年間で1000種類の品ぞろえを誇ります。

店長・上野真史さん
店長・上野真史さん(右)

上野さんが日本酒にハマったのは、30歳のころ。

「知り合いの酒屋さんの紹介で、新潟の酒蔵の見学へ行きました。それまでは日本酒に触れてこなかったのですが、宴席で蔵元のお母さんから出していただいた地元の料理と地酒にすごく感動したのがきっかけで、日本酒に興味を持ったんです。それから自分で仕入れたお酒を調べながらテイスティングし、お客様にご案内しているうちに、年間で1000銘柄以上を扱うようになりました」

そんな「ふくの鳥」で必ず頼みたいのが燗酒です。酒販店から仕入れた日本酒は、抜栓したあとテイスティングを繰り返し、コンディションを整えた状態でメニューに並びます。

お酒の味わいが詰まった状態から、数週間から数カ月は寝かせて、良い状態になったところで冷蔵して変化を止めます。開き方も重要で、味が開きすぎるのも良くないんですよね

日本酒ラベル

冷酒も有名銘柄がそろいますが、「冷酒と燗酒はまったくジャンルが違うもの」と上野さん。日本酒以外の酒類も充実しており、料理目当てのお客さまも多いですが、「いろいろなお客さまのニーズに応えるお酒をそろえつつ、だんだん燗酒に引き摺り込んでやろうと思っています(笑)」。

カウンターは8席あり、一人客も大歓迎。一品料理はハーフサイズで頼むことができるほか、串焼きも一本ずつ注文できます。せっかくオープン間もない時間に来たのですから、売り切れる前に希少部位を頼んでしまいましょう。

串焼き:さえずり(食道)
さえずり(食道)1本350円(税別)

はらみ(以下350円、税別)はうっすらと塩で全体がコーティングされており、頬張った瞬間、口内に野生的な香りが広がります。食感が心地よく、肉の旨味がじわじわと沁み出して、飲み込むのがもったいないほど。さえずり(食道)も塩で登場。ふわふわの身の中にタコの吸盤のようなコリコリとした塊があり、水ダコのような食感です。ぺた(腰皮)は焼き目がカリカリで香ばしく、脂身ながら豆腐のような口あたりで、まったく重たさを感じません。

上野さん曰く、「焼き鳥もいろいろありますが、基本的には切って流すマスキングタイプの日本酒より、ボリューム感のある旨味系のお酒で同調してあげるのがおすすめです」。燗酒は90mL(半合)から注文可能で、それぞれに合ったおすすめの温度まで温めてくれます。

燗酒の入った徳利と平杯
燗酒は90mLサイズから注文可能

サケスト酒でこの日メニューオンされていたのが、「楽の世 山廃純米 無濾過原酒(火入れ)」 。製造年月は令和5年5月なので、1年ほどお店で寝かせられていたものです。

熱々に温められた楽の世を口に含むと、ギュッと濃縮された甘味の後に、骨太な酸がじゅわり。なるほど、「開きすぎるのも良くない」という上野さんの言葉のとおり、旨味・甘味は豊かながらも引き締まった印象を受けます。

楽の世に合わせて、一品料理から「せせりと白ゴーヤ、甘辛唐辛子のちりめん山椒炒め」をハーフサイズでオーダーしたところ、お燗が出来上がるタイミングと合わせて提供してもらえました。白ゴーヤは茨城産、甘辛唐辛子は千葉産と、メニューに生産地が書かれているのも素材への思い入れを感じます(ちりめん山椒は自家製です)。

せせりと白ゴーヤ、甘辛唐辛子のちりめん山椒炒め
せせりと白ゴーヤ、甘辛唐辛子のちりめん山椒炒め(ハーフサイズ480円、税別)

白ゴーヤと甘辛唐辛子の心地よい苦味を、楽の世の豊かな甘酸が包み込む最高の組み合わせ。さっぱりとした味わいのせせりは奥歯でコリコリとすりつぶす食感が楽しく、ちりめん山椒の透明感ある味わいが余韻を上品にまとめてくれます。山椒のスパイス感と柑橘感が、楽の世から別の表情を引き出してくれるのもおもしろいペアリングです。

「サケストさんは立地的にも近く、共通のお客様がいらっしゃいますので親近感があります。日本酒の造り手さんに対するリスペクトを感じるお店ですね。個人的には『不老泉』がイチ推しです!」

陳列されているサケスト酒

部位ごとの多彩な味わいが楽しめる鶏料理とユニークな燗酒はまさに“永久機関”で、ついつい長っ尻してしまうこと請け合い。一人客へのサービスも手厚く、酒飲み仲間とはもちろんのこと、ひとりでも通い詰めたくなるお店です。

店舗情報

店舗外観にある灯籠

ふくの鳥 神田店
所在地:東京都千代田区内神田3-21-6 村越ビル B1F
電話番号:090-6373-9388
営業時間:月〜金 17:30〜23:00、土日祝 17:00〜23:00
定休日:不定休
Instagram

楽の世 山廃純米 無濾過原酒 (火入れ)

熱々にあたためて、「せせりと白ゴーヤ、甘辛唐辛子のちりめん山椒炒め」と一緒にいただいたお酒。

香りは芳醇で、完熟したメロンやパイナップルを思わせるような果実香に酸い香り、イースト香がします。口に含むとガツンとジューシーな甘旨味が広がり、中盤にかけてふくらむコクと凝縮感のある乳酸系の酸味。フレッシュなほろ苦渋さが寄り添い、ピリリとしたアルコール感と共に余韻長くフィニッシュしていきます。

時間が経つにつれ味わいにどんどん厚みが出てきますので、是非時間経過もお楽しみいただきたい一本です。味付けの濃い料理と相性抜群です!

 

【シリーズ:サケスト酒が飲める店】
第1回:「〼kuramae」(蔵前)
第2回:「ぽんしゅビルヂング」(門前仲町)
第3回:「日本酒バー へなちょこ」(西荻窪)
第4回:「きんぼし」(秋葉原)
第5回:「粋酔処 楽縁」(東大前)
第6回:「食べ呑み処 あぐまる」(浅草)
第7回:「都橋おでん 久」(野毛)
第8回:「さかなや なかにし」(板橋)
第9回:「和食日和 おさけと」(日本橋)
第10回:「ふくの鳥」(神田)

(ライター:木村咲貴)