サケスト酒が飲める店:第5回「粋酔処 楽縁」(東大前)

楽縁流★肉じゃが 1100円

2021年5月、緊急事態宣言のまっただ中にオープンした、知る人ぞ知る粋な酒場があります。東京メトロ南北線・東大前駅を地上へ出てわずか1分。ガラス張りのビルの階段を地下へ降りるとたどり着く、「粋酔処 楽縁(いきなよいどころ・らくえん)」です。

店主の笛木亮さんは、なんと元日本フェザー級7位のプロボクサー。2011年の引退時に「将来は自分のお店を出したい」とコメントしていたとおり、修行の末に満を持して開店したのがこちらのお店なのです。

店主の笛木さん(右)とスタッフのみわさん(左)

店主の笛木さん(右)とスタッフのみわさん(左)

「現役のころ、池袋のあるバーで、マスターが陶器とワイングラスで日本酒を出してくれて、『どっちのお酒が好き?』と聞かれたんです。飲み比べて、ワイングラスのほうが好きだと答えたら、『実は、同じお酒なんだよ』と言われて感動して。そこから日本酒にハマってしまいました。

日本酒バーに来るお客さんたちがチケットを買ってくれたり、試合を見に来てくれたりと、日本酒を通じて生まれたご縁に支えられてきました。だから、自分がお店を開くならメインで日本酒を扱いたいと思っていたんです」

そんな笛木さんがSAKE Streetとの取引を決めたのは、お気に入りの「舞美人」(美川酒造場)を扱っていたからなんだとか。

舞美人 MYVY 一合1320円(写真は半合660円)

舞美人 MYVY 一合1320円(写真は半合660円)

「昔、北陸を専門とした居酒屋で働いていたときに出会ったんですが、酸味があって、変態系で(笑)大好きになりました。酒ストさんはマニアックな酒粕再発酵の『MYVY(マイビー)』や『タンクの底』シリーズも扱っているので、ポイントが高いですね」

というわけで、この日は楽縁メニューから「MYVY」にぴったりのペアリングを3品も提案してもらえることになりました。

1品目は、「燻製ポテトサラダ」。オープン当初からの人気メニューで、出汁で炊き込んだジャガイモを、燻製したサバとチーズと合わせています。 

燻製ポテトサラダ 680円

燻製ポテトサラダ 680円

「MYVY」の持つスモーク感と燻製のフレーバーが重なり合い、お酒の甘酸っぱい果実感が際立つペアリング。日本酒単体で飲むよりも、「MYVY」がフルーティで親しみやすい味わいに感じられます。

続く2品目は、気仙沼産本マグロの「中トロ刺し」。お刺身は醤油で食べないのが楽縁流。中トロは、卵黄の醤油漬けを合わせていただきます。「MYVY」は個性の強い日本酒なので、お刺身と合わせるのは難しそうですが……。 

中トロ刺し 1380円

中トロ刺し 1380円

驚くほど抜群の相性。中トロの旨味がしっかり味わえるうえ、ポテトサラダと合わせたときよりも「MYVY」の味わいがまろやかに感じられます。笛木さん曰く、「『MYVY』がスモーキーなので、トロたくっぽくなるんじゃないかなと思って合わせてみました」とのこと。わさびや大葉で味変をすると、キレとさっぱり感が加わり、こちらも絶品です。

最後は、「海鮮居酒屋のはずなのに、いちばん売れている看板商品」という「楽縁流★肉じゃが」。マッシュポテトの上に牛すじの煮込みと温玉を載せ、アクセントにフライドオニオンを添えた一品で、GEM by motoの千葉麻里絵さんのレシピにインスパイアされ、和風にアレンジしたメニューだといいます。 

楽縁流★肉じゃが 1100円

楽縁流★肉じゃが 1100円

脂の乗った甘辛い牛すじは、しっかり味で酸の際立つ「MYVY」にぴったり。口の中で見事に調和する組み合わせで、ボリューム満点のメニューなのに、思わずパクパク食べ進めてしまいそうになります。

まさに「MYVY」三変化。飲んだことがあるお酒なのに、いずれも「『MYVY』ってこんなに美味しかったんだ!」と新しい発見を見せてくれるペアリングで、お酒の表情を三者三様に引き出しています。

楽縁のメニューは、笛木さんが過去に修行していた日本酒バー、くずし割烹、江戸料理の三つを融合させたもので、「ごはんが進むような料理ばかりですが、ぜひ日本酒に合わせてほしい」という思いが込められたもの。これほどのペアリングを提案しながら、「ペアリングは相談されたら応えられるようにはしていますが、基本的にはお客さんに自由に飲んでほしいなと思っています」と話します。

店内の様子

「お客さんの飲み方をこちらが縛りすぎないようにしたいなと思っています。もっとすごいペアリング専門店はたくさんあるので、そういうお店に行ってみたくなるきっかけになれたらうれしいですね」

飲み手として日本酒を好きになり、酒場でコミュニケーションをしながらその魅力を学んでいった笛木さん。「楽縁」もまた、日本酒との出会いを待つお客さんに、ご縁を提供する空間なのです。

店舗情報 

店舗入口

粋酔処 楽縁

所在地:東京都文京区向丘1-2-5 東京セントラル本郷B1
電話番号:03-5615-8868
営業時間:11:30~13:30、17:00~22:00
定休日:不定休

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舞美人 純米酒 MYVY (酒粕再発酵) 2020年醸造

 本記事に登場する、すべての料理と合わせた日本酒。

「舞美人」を唯一無二の酒蔵にしているのは、その独自の製法とユニークな味わいの日本酒にあります。そのユニークな舞美人の中でもとびきりユニークなのがこの日本酒。酒粕再発酵という他の酒蔵では見られない製法によって造られた日本酒です。

カラメルのような甘い香りに醤油を思わせるような香ばしい香り。(ファーストロットは、相対的に色素も薄くややスッキリ)
凝縮感のある甘味と旨味を感じた後、とても濃醇だがバランスの取れた酸味。
この変態的なスペックでキッチリ商品としてまとめてくるのが美川さんの凄さです。

ロックやソーダ割り、またはバニラアイスなどに少しかけても楽しめます。常温~ぬる燗あたりも甘味のふくらみが楽しめておすすめの温度帯です。

 

【シリーズ:サケスト酒が飲める店】
第1回:「〼kuramae」(蔵前)
第2回:「ぽんしゅビルヂング」(門前仲町)
第3回:「日本酒バー へなちょこ」(西荻窪)
第4回:「きんぼし」(秋葉原)
第5回:「粋酔処 楽縁」(東大前)
第6回:「食べ呑み処 あぐまる」(浅草)
第7回:「都橋おでん 久」(野毛)
第8回:「さかなや なかにし」(板橋)
第9回:「和食日和 おさけと」(日本橋)
第10回:「ふくの鳥」(神田)

(ライター:木村咲貴)