ビル一棟が、まるごと日本酒居酒屋。地下鉄門前仲町駅から徒歩2分の「ぽんしゅビルヂング」は、酒飲みの夢を詰め込んだような空間です。
入口から店内を覗き込むと、壁沿いの冷蔵庫の中に、有名ブランドのボトルが並んでいます。かと思えば、カウンターには常温やお燗で美味しいクラシックな銘柄がずらり。その奥には、焼酎やワインなど、日本酒以外の酒類も見えます。
「一階の立ち飲みスペースは、誰にでも開かれた酒場にしたいと思い、あえて専門的な雰囲気にはしていません。日本酒専門店は敷居が高くなりがちですが、気軽に訪れて、好きなお酒を飲みながら、だんだんほかのお酒にも興味を持ってもらえるようにしたいなと」
そうお話してくれたのは、店長の栗田さん。もともとはIT業界などで働いていましたが、日本酒への愛情が高じて会社を辞め、この夏から同店の店長になりました。
ぽんしゅビルヂング店長・栗田さん
“ちょい飲み”に最適な一階では、生ハムやあさりの佃煮など、このフロアにしかない立ち飲み用のおつまみメニューを注文することが可能。気に入ったお酒は、かわいいオリジナル瓶で持ち帰ることもできます。
量り売りは450mL(ボトル代120円)、300mL(110円)、150mL(100円)の3サイズ
二階のテーブル席は、数名のグループでゆっくり食事をしたい人向け。三階は厨房とカウンター席があり、四階は貸切用の個室。おつまみ6品に日本酒と生ビールが飲み放題で2時間一人5500円という破格でレンタルしています。
「屋上に食材を持ち込んでバーベキューもできます。春になると大横川沿いに咲く桜がライトアップされて、お花見を楽しんでいただけるんですよ」
春には桜が咲くという屋上からの眺め
「日本酒は何種類くらいありますか?」と聞くと、「何種類なんでしょうねえ?」と栗田さん。SAKE Streetを含む4軒の酒販店をメインの仕入れ先として、数えきれないほどのラインナップをそろえています。
「私が日本酒の居酒屋をやるなら、SAKE Streetから絶対にお酒を仕入れようと思っていたんです。そうしたら、オーナー(鈴木登子さん)が『ぽんしゅ家』のころから既にサケストさんとお取引をしていて。
代表の藤田さんは日本酒に懸ける熱い想いを持っていて、『この人の選ぶお酒なら間違いない』という信頼があります。お互いに、『日本酒好きを増やしたい』というコンセプトを共有していますしね」
SAKE Streetからのおすすめを仕入れることもあれば、栗田さんが自らお店で選ぶこともあるそうです。日本酒はグラス550円、徳利1100円から提供しています。
「定番商品の『天美』や『信州亀齢』はやっぱり人気がありますね。『飛鸞』や『真上』は、ここで初めて飲んで、気に入ったからとリピートしてもらえることが多いです」
食事には、「鶏ささみの湯引き 黄ニラとピータン」「イカと肝の炭焼き アリッサ添え」など、創作性に富んだメニューが並びます。シェフはフレンチとイタリアンの経験があり、ワインのペアリングの知識が豊富。日本酒ペアリングを極めたいという思いから、「ぽんしゅビルヂング」で働き始めたといいます。
それなら、ぜひともペアリングをリクエストしてみたいところ。このお店で出会う人も多いという「飛鸞 彩道」(長崎県・森酒造場)をセレクトし、このお酒に合う料理を選んでもらうことにしました。
出てきたのは、「日本酒パテ・ド・カンパーニュ」。豚レバーに酒粕や塩麹を合わせたパテで、「飛鸞に合わせるなら」と特別にマスカットを添えてくれました。
「飛鸞 彩道」(660円)、「日本酒パテ・ド・カンパーニュ改」(880円)
塩味はひかえめで、豚レバーの甘みと旨味が引き立つパテ・ド・カンパーニュを、酸味と苦味を備えた「飛鸞」がキリリと引き締めます。フェンネルとオリーブオイルを和えたマスカットを合わせれば、パズルの最後のピースがはまったように、風味が完全に重なりました。
フード、ドリンクの多彩さに目移りして、思わず注文を重ねてしまいます。食事を終えて、そろそろ帰ろうと階段を降りれば、一階の立ち飲みスペースが大いに盛り上がっていて、思わずまた一杯注文。性別も世代もばらばらなお客さんや店員さんとの談笑も楽しく、ついつい長居してしまいました。
新しい日本酒好きを増やすこと、日本酒好きにはさらに日本酒を好きになってもらうことを目指して、多彩な角度からお酒の愉しみを伝える「ぽんしゅビルヂング」。陶酔に満ちた空気の中で、夢のような夜は更けていきます。
店舗情報
ぽんしゅビルヂング
所在地:東京都江東区富岡1-4-8
電話番号:03-6240-3224
営業時間:火〜金 17:00~23:00(22:00LO)、土 15:00~23:00(22:00LO)、日祝 15:00~22:00(21:00LO)
定休日:月曜日
座席数:一階 立ち飲み、二階 14席、三階 3席、四階 10席、屋上 6席
飛鸞 彩道 (タンク②)
「日本酒パテ・ド・カンパーニュ」に合わせて頂いた日本酒。香りはパイナップルの様な果実香。ほんのりフレッシュチーズの様な香りと、ヨーグルトを感じさせる酸い香りが印象的です。
口に含むと穏やかで甘みと乳酸由来の、心地よく優しい酸がゆっくりと口に広がり、備わっている酸味と苦味が効きながらも、そのままするするっと消えていきます。やや淡麗でサッパリとした印象のタンク①に比べて、まろやかさや丸みのある甘味を感じられ、全体として穏やかで優しい味わいです。
【シリーズ:サケスト酒が飲める店】
第1回:「〼kuramae」(蔵前)
第2回:「ぽんしゅビルヂング」(門前仲町)
第3回:「日本酒バー へなちょこ」(西荻窪)
第4回:「きんぼし」(秋葉原)
第5回:「粋酔処 楽縁」(東大前)
第6回:「食べ呑み処 あぐまる」(浅草)
第7回:「都橋おでん 久」(野毛)
第8回:「さかなや なかにし」(板橋)
第9回:「和食日和 おさけと」(日本橋)
第10回:「ふくの鳥」(神田)
(ライター:木村咲貴)