サケスト酒が飲める店:第8回「さかなや なかにし」(板橋)

刺身の盛り合わせ

板橋駅から滝野川方面へ歩くこと4分。「魚、売ってます!」と主張する看板が揺れる暖簾をくぐると、この日は雨模様にもかかわらず、左手のカウンターで常連さんたちがすでにグラスを傾け談笑していました。

2019年にオープンした東京・板橋の居酒屋「さかなや なかにし」。もともと近隣の居酒屋で板前を15年ほど務めていた店主・中西正勝さんは、仕入れた魚を日中に街で売り歩く行商もおこなっています。

さかなやなかにし店主・中西正勝さん
さかなやなかにし店主・中西正勝さん

現在、お酒の仕入れを担当しているのはホール担当の“かみじゅん”こと上鈴木さん。元はスタイリストで、日本酒には苦手意識があったそうですが、お店で働き始めてからその美味しさに目覚めたのだとか。

そんな上鈴木さんが現在最も推しているのが、茨城県・村井醸造の「真上(しんじょう)」です。

「まだ酒ストを知らなかったころ、偶然流れてきた二戸さん(SAKE Streetメディア編集長)のツイートにあった『真上』が気になって、いきなり村井醸造さんを訪問したんです。すると、製造責任者の臼井さんが、2時間くらいかけて熱気にあふれた酒蔵案内をしてくれて。それが印象に残って、応援し続けています」

茨城県・村井醸造「真上」が勢ぞろい
茨城県・村井醸造「真上」が勢ぞろい

その時に「このお酒は絶対に来る」と直感したと熱を込める上鈴木さん。一緒に蔵見学した中西さんも、「年々どんどん良くなっている」と太鼓判を押します。

「作っている人の人柄がわかる方が、こちらとしてもおすすめしやすい。真上の話をしたお客さんは、次来てくれたときに必ず真上を頼んでくれるんですよ」(中西さん)

そんな真上の取扱店として、酒ストとの取引が始まったのだそう。酒販店とは10軒ほどやりとりしているそうですが、その中でも、「初めて飲んだ。どこに売ってるの?」と聞かれるのは、大体酒ストで仕入れるお酒だといいます。

左から赤星さん、店長・中西さん、日本酒担当・上鈴木さん
左から赤星さん、店長・中西さん、日本酒担当・上鈴木さん

日本酒も魚と一緒で、基本的には歩いて、現物を見ながら決めていきます。その時々のいい魚、いいお酒が欲しいので。酒ストさんは、その中でもおもしろいお酒がそろっている酒屋さんです」(中西さん)

日本酒の仕入れはできるだけ店頭試飲をしてから決定しますが、「店頭でぽん店長の話聞いていると、この人にお酒の説明をしてもらいながら飲んだら楽しいだろうなと思わされますね」と中西さん。「説明に迷いがないんですよね。お酒の良さをわかっている人に教えてもらうと、お酒の魅力がより入ってくる感じがします」と上鈴木さんも頷きます。

そんな「さかなやなかにし」渾身のセレクションが味わえるのが、盛り合わせ1700円(一人前)。9つに仕切られたガラス皿に、その日おすすめの魚介類が並びます。

盛り合わせ1700円(一人前)

この日のメニューは、左上からインドマグロ、マコガレイ、北海生タコ、中段にイワシ、ホタルイカ、アジ、下段に白ミル貝、赤貝、ホッキ貝が登場。マグロはトロトロ、マコガレイはムチムチ、タコはふわふわで、「真上 純米 直汲生原酒 Casual Modern」と見事にとろけあいます。口あたりが優しく旨味たっぷりの魚と、歯応えの良い貝類のバランスがたまりません。

調理を担当したのは赤星さん。以前のお店から続く中西さんの仕事仲間で、今でも豊洲市場で働いているそうです。

よく見ると、それぞれスタッフTシャツの背中のデザインが異なります。元スタイリストの上鈴木さんにより、各スタッフの特徴を表すデザインにしているのだとか。

それぞれ異なるスタッフTシャツの背中のデザイン

中西店長はサッカー。赤星さんは筋トレ。上鈴木さんのTシャツには、推しの日本酒のボトルが並んでいます。その中心にはもちろん真上が!

共通するのは、表に描かれた「さかなやなかにし」とホヤのイラストです。なぜホヤなのか? と尋ねると、「ホヤがイチオシだから」という答えが返ってきました。そんなことを言われたら、頼むしかありません!

北海道産の紅ホヤ(1100円)

この日出てきたのは、北海道産の紅ホヤ(1100円)。まるでピンクグレープフルーツのような色合いで、口あたりはふわふわ&トゥルトゥル。これだけで酔ってしまいそうなほど官能的な味わいです。

同じカウンターには入れ替わり立ち替わり常連客が訪れ、上鈴木さんがそれぞれにおすすめの日本酒をサーブしていきます。曜日によって異なるお客さんが来るそうですが、どの人も一杯目から日本酒を頼むような酒好き。この日は偶然にも、信州亀齢大治郎などのサケスト酒に注文が集中していました。

「浅間嶽 本醸造」のお燗(1合700円)

負けじと、ホヤに合わせて「浅間嶽 本醸造」のお燗(1合700円)をオーダー。ほっこりとした甘みとキレが、ホヤのミステリアスな香りを包み込んでくれます。

カウンターでは、グラスを手にしたお客さんたちが、お互いの近況報告を始め、ときどき中西さんたちが会話に混じります。一品ずつ注文できるメニューも“おまかせ”でオーダーする人が多く、おすすめの魚が次々と供されていきます。

上鈴木さんも、「◯◯さんはいつものでいい?」「××さんは、今日はこのお酒がいいと思う」とセレクト。奥の座敷では仕事帰りらしい男性が生ビールを啜っており、カジュアルに居酒屋利用したいお客さんにとっても居心地の良い空間になっていることがわかります。

中西さんや上鈴木さんのおすすめをうれしそうに受け取るお客さんからは、「ここなら絶対に美味しいお酒と魚が楽しめる」という信頼が伝わってきます。雨で足元の悪い日もつい通いたくなる、魚とお酒への愛にあふれたお店です。

店舗情報

店舗外観(のれん)

さかなやなかにし
所在地:東京都北区滝野川6-82-1
電話番号:03-6324-5585
営業時間:18:00〜23:00
定休日:日曜・祭日
Instagram / X(Twitter)

真上 純米 直汲生原酒 Casual Modern

盛り合わせと一緒にいただいた日本酒。

糖度抜群のフレッシュメロンを思わせる芳醇な果実の香り、口に含むとジュワッと広がるパワフルなガス感とリッチな甘酸味。旨味の余韻にピリリと伸びやかな渋みが寄り添い、キレの良いほのかな苦味と共にフィニッシュしていきます。

キリリと冷やしても美味しいですが、注いで温度帯があがると更に味わいが膨らみます。

浅間嶽 普通酒(※店頭販売のみ)

浅間嶽 普通酒

北海道産の紅ホヤに合わせてお燗でいただいた日本酒。

柔らかくまろい口当たり!優しい酸のアタックとしっとりとふくらむ旨味の余韻。
穏やかながらも味深く、ほんのり感じるコゲ感もいいアクセント!
常温もよいですが、お燗最高です。

 

【シリーズ:サケスト酒が飲める店】
第1回:「〼kuramae」(蔵前)
第2回:「ぽんしゅビルヂング」(門前仲町)
第3回:「日本酒バー へなちょこ」(西荻窪)
第4回:「きんぼし」(秋葉原)
第5回:「粋酔処 楽縁」(東大前)
第6回:「食べ呑み処 あぐまる」(浅草)
第7回:「都橋おでん 久」(野毛)
第8回:「さかなや なかにし」(板橋)
第9回:「和食日和 おさけと」(日本橋)
第10回:「ふくの鳥」(神田)

(ライター:木村咲貴)