サケスト酒が飲める店:第1回「〼kuramae」(蔵前)

刺身の盛り合わせと日本酒

 マンションの一階のガラス戸に提げられた大きな濃紺の暖簾をくぐると、コの字カウンターの中で店主と女将がお客さんと談笑しています。

都営大江戸線 蔵前駅から徒歩5分。浅草橋のSAKE Streetからも徒歩12分という立地に「〼kuramae(ます・くらまえ)」はあります。

お店の外観

 お店を切り盛りするのは、漆畑慎太郎さん・博子さんご夫婦。お二人が出会ったのは、なんと、ニューヨークの和食料理店。料理人として慎太郎さんが勤めていたお店で博子さんがサーバーとして働いていたのがきっかけだったそうです。 

2016年にオープンした「〼kuramae」は、魚料理と日本酒を得意とする居酒屋。店名の「〼」は、日本酒を飲む「桝」や「益々繁盛」、「増す」などの言葉をかけているのだとか。

日本酒は5〜6店舗の酒販店から仕入れたものを常時30〜40種類そろえています。価格設定は銘柄にかかわらず、100mL600円で統一(稀に例外あり)。 

「お客さまには値段を気にしないで飲んでいただきたいですし、こちらとしても計算しやすいので。低価格帯でもおいしいお酒はたくさんあることを知ってもらえればと思っています」(慎太郎さん)

冷蔵庫内の日本酒

慎太郎さんが酒販店に直接おもむき、フィーリングで「飲んでみたい」と思ったお酒を買ってくるという仕入れスタイル。特定の銘柄にはこだわらず、季節ものや知らないブランドに手を出すこともあるのだとか。この日は9月後半とあって、ひやおろしがずらりと並んでいました。 

SAKE Streetとの出会いは、2019年のオープン前に、常連のお客さんから「このあたりに新しい酒屋ができるらしいよ」と教えてもらったのがきっかけでした。

「実際に行ってみると、酒蔵との直接取引によって、ほかの酒屋さんではなかなか見かけないラインナップがそろっているし、今後も銘柄が増えていきそうなところが魅力的だと思いました。蔵前と浅草橋はご近所ですし、お客さんから『このお酒、どこで買えるの?』と聞かれたときにすぐ紹介できるのもいいですよね」

店主・漆畑慎太郎さん

店主・漆畑慎太郎さん

実は慎太郎さんは、人気銘柄「天美」(山口・長州酒造)の藤岡美樹杜氏をSAKE Streetに紹介した人。

「彼女が香川県の川鶴酒造にいたころからの付き合いで、長州酒造で造りを始めるのを聞いていたので紹介させていただきました。こんな有名な銘柄になるとは思っていなかったので、驚いています」

この日のお通しは「白身魚の磯揚げ」。口あたりがふわふわで、頬張ると海苔の香りが広がります。合わせて、自慢の一皿だというお刺身6点盛り(2100円)を注文。お酒は「お刺身に合わせるならということで、「澤の花 辛口純米 花ごころ」(長野・伴野酒造)をいただきました。

日本酒「澤乃花 花ごころ」

いつもは博子さんゆかりの北海道・函館から直送した鮮魚を提供しているそうですが、この日は時化の関係で、足立の市場に魚を仕入れに行ったとのこと。北海道の魚にこだわるのは、「直接送ってもらっているからというのもありますが、鮮度や旨味が全然違うんですよね」

刺身の盛り合わせ、カツオ、白子ポン酢、イサキ、しめ鯖、わらさ、ホタテ

左上から時計回りにカツオ、白子ポン酢、イサキ、しめ鯖、わらさ、ホタテ

見た目のとおり、味わいも彩り豊かな魚たちに、すっきり上品な口あたりの「澤の花」が寄り添います。

「お客さんにはお店のどんなところが好きだと言われますか?」という質問には、お二人で目を合わせて「聞いたことがないねぇ」と首を傾げます

普通に夜ごはんを食べに来るような感じなんですよ。魚料理と日本酒って、敷居が高く感じられるお店が多いのかもしれないですね。うちのお客さんは、サンダルとかでやって来るカジュアルな人ばかりです(笑)」(博子さん)

気取らないアットホームな雰囲気が愛される〼kuramae。お客さんのほとんどが一杯目から日本酒を頼むというエピソードにも、酒好きが集う空間としての一端を垣間見れます。しかし、ご夫婦は「酒蔵さんを応援したいので」と、酒蔵が造るビールや焼酎も積極的にそろえるようにしているそう。

「酒蔵は日本中にたくさんあるので、知らないお酒がまだまだあるよってことを知ってもらいたいですね」

店舗情報

店内の写真

〼kuramae(ます・くらまえ)

所在地:東京都台東区三筋1-4-1 ライオンズプラザ蔵前 103
電話番号:03-5809-1494

営業時間:火〜土 17:00〜23:00(22:00LO)、日祝 16:00〜22:00(21:00LO)
定休日:月曜日
座席数:カウンター12席

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澤の花 辛口純米 花ごころ

 お刺身6点盛りと一緒にいただいた日本酒。ほのかに炊いたお米の香り、口当たりは、かすかな甘味とふくよかな旨味を感じますが、中盤からスパッとシャープな切れ味を出してフィニッシュします。

口内をリセットしてくれる効果があるため、和食を中心に幅広い食事と合わせることができます。刺身や鍋でクイッといきたいところです。

 

【シリーズ:サケスト酒が飲める店】
第1回:「〼kuramae」(蔵前)
第2回:「ぽんしゅビルヂング」(門前仲町)
第3回:「日本酒バー へなちょこ」(西荻窪)
第4回:「きんぼし」(秋葉原)
第5回:「粋酔処 楽縁」(東大前)
第6回:「食べ呑み処 あぐまる」(浅草)
第7回:「都橋おでん 久」(野毛)
第8回:「さかなや なかにし」(板橋)
第9回:「和食日和 おさけと」(日本橋)
第10回:「ふくの鳥」(神田)

(ライター:木村咲貴)