横浜随一の飲み屋街・野毛。都心から離れたこのディープ・スポットで、SAKE Streetのお酒を多数取り扱っているのが、「都橋おでん 久(みやこばしおでん きゅう)」です。
JR桜木町駅から歩いて3分ほどに位置するビルをエレベーターで4階まで上がると、大きな提灯のインテリアが飾られた空間が。カウンターの向こうでは、大きな鍋の中でおでんがゆらゆらと煮えています。
オープンは2022年10月。店主の小林信昭さんは、「日本料理 青柳(あおやぎ)」、その系列店の「婆娑羅(ばさら)」で計20年以上、料理人を務めてきました。
知名度より造り手の技術こそを評価し、「お客さんに自信を持っておすすめできるお酒だけをそろえたい」と語る小林さん。サケストのお酒を扱うようになったのは、日本酒の知識を学ぶために通っていたスクールで藤田代表と出会ったのがきっかけだそう。
「藤田さんは同期なので、こちらの考えを理解してくれていますし、私も彼のテイスティング能力を信頼しています。お酒を注文するときは、すべて指定せず、数本はおすすめを入れてもらうようにしているんですが、どれもハズレがないんですよ」
野毛の街並みを映す窓辺には、これまでにサケストから仕入れたお酒の空き瓶がズラリ。定期的に仕入れているのは、伴野酒造「澤の花」と松屋酒造「流輝」。「辛口ください」というお客さんに提供すると、間違いなく喜んでくれる鉄板の商品だといいます。
関西風だしのおでんを売りにしていますが、懐石料理のお店がルーツとあって、旬の食材を活かした和食もお手のもの。さらに、それぞれのお酒の特性を活かしたペアリングも小林さんの十八番です。
まずは、同店の看板メニューである「エビ進上」。しんじょうというとエビのすり身をだんご状にしたものを想像しますが、同店では「青柳」のレシピを踏襲し、ゴロゴロと存在感を放った大ぶりのエビが魅力です。
こちらに合わせるのは、長州酒造の「天美 特別純米 火当て」。「エビの脂肪味とカプロン酸エチルの香りが同調するんです」と小林さん。青々した香りが付け合わせの柚子やミョウガと重なり、エビの甘味もお酒の甘味とよく馴染みます。お酒だけで飲んでも十分魅力的な「天美」ですが、こんなにも相性の良い料理があったとは!
「おでん玉子のポテサラ」は、その名のとおり、おでんの玉子とジャガイモを使ったポテトサラダ。ジャガイモを頬張ると、マヨネーズのやわらかい酸味とともに、おでん出汁の香りがふわりと広がります。プチプチのとびこ、コリコリの粒マスタードは、見た目を華やかにするだけでなく、塩気や酸味という味わいのアクセントにもなっています。
こちらのメニューのパートナーは、白杉酒造「光芒 #87 無濾過生原酒」。口に含めば、なるほど完全に一致。小林さんが、「乳酸が感じられるので、マヨネーズと相性がよいんです。旨味のしっかりした料理なので、無濾過生原酒を合わせることで、濃淡バランスをそろえました」と丁寧に解説してくれました。
最後は、岩手の毛蟹に徳島県のすだちを合わせたポン酢ジュレをかけた「毛蟹の酢ゼリー」。お酒は「残草蓬莱 純米吟醸 おりんごください」。リンゴ酸を多く含むお酒と甘&酸の効いたジュレは相性抜群。さっぱりとした味付けですが、蟹の身に蟹味噌がふんだんに和えられており、旨味もたっぷりです。
いずれも懐石料理をベースとしているため、繊細な味付けにもかかわらず、お酒がスイスイと進む逸品ばかり。一皿の中にさりげなくさまざまな素材を合わせ、細やかな味変を起こすところに匠の技を感じます。
「酒ストのお酒はどれもレベルが高くて、お客さんに勧めると間違いなく『美味しい』と言ってもらえます」と太鼓判を押す小林さん。この日は売り切れていましたが、「稲とアガベ」などのクラフトサケをボトルで提供していることもあるそうです。
ビルの4階に位置するため隠れ家的にも機能しつつ、これだけの日本酒がそろっていることは徐々に知れ渡ってているよう。野毛の新たな名所が、今宵もこの街の飲兵衛を酔わせています。
店舗情報
都橋おでん 久
所在地:神奈川県横浜市中区野毛町1-4-1
電話番号:045-325-8088
営業時間:17:00~23:00
定休日:年中無休
座席数:35席
天美 特別純米 火当て
「エビ進上」と合わせて頂いた日本酒。
とてもおだやかな香り。爽やかでかすかに甘い香りにほんのり青草のような香りも感じられます。
口に含むとぴちりとした繊細なガス感と共にみずみずしいジューシーさが広がります。優しい甘旨味と爽やかな酸味の心地よい余韻。ほろ苦さや渋さがそっと寄り添います。クリアな飲み心地です!
冷酒でフレッシュさを味わうもよし、でも実はこの子、お燗も美味しいんです。お好みでお召し上がりください!
光芒 #87 無濾過生原酒
「おでん玉子のポテサラ」と合わせて頂いた日本酒。
食用米の「コシヒカリ」を扁平精米という製法で精米し、更に京都産の酵母である「京の華」にて醸した新商品です。
開けたてはほんのり微発泡。マスカットを思わせるフルーティな香り。
甘みはそこそこあって、バランスのいい酸とふくよかなうま味が口の中に広がります。フルーティさの奥に肉の脂に似た香りをわずかに感じるので、パテ・ド・カンパーニュやリエットなどの冷製の肉料理と合わせるのも楽しそうです!
残草蓬莱 純米吟醸 おりんごください 槽場直詰無濾過生原酒
「毛蟹の酢ゼリー」と合わせて頂いた日本酒。
ほんのりしゅわりとしたガス感。そこにジューシーな果実感と爽やかな酸がぎゅっと広がります!
後味はまさにりんごを思わせるような特徴的な甘酸っぱさ。飲みやすいので飲みすぎ注意なお酒です。
【シリーズ:サケスト酒が飲める店】
第1回:「〼kuramae」(蔵前)
第2回:「ぽんしゅビルヂング」(門前仲町)
第3回:「日本酒バー へなちょこ」(西荻窪)
第4回:「きんぼし」(秋葉原)
第5回:「粋酔処 楽縁」(東大前)
第6回:「食べ呑み処 あぐまる」(浅草)
第7回:「都橋おでん 久」(野毛)
第8回:「さかなや なかにし」(板橋)
第9回:「和食日和 おさけと」(日本橋)
第10回:「ふくの鳥」(神田)
(ライター:木村咲貴)