サケスト酒が飲める店:第4回「きんぼし」(秋葉原)

鱈とキノコの土瓶蒸し

JR秋葉原駅の昭和通り口から歩いて約5分。小学校や病院が並ぶ路地裏を進むと、夜道に白く輝く「きんぼし」の4文字が浮かび上がります。

店頭に立つのは、店長の今泉さんと板前の大川さん。実は二人は高校時代のクラスメイトで、同じ軟式野球部の仲間だったのだそう。 

店長の今泉さんと板前の大川さん

「前の料理人が辞めるという話をしたら、相方(大川さん)が『こういうときこそ頼れよ』と言ってくれたんです。彼が料理をやっているのは知っていたんですが、高校に入学して初めて話しかけてくれたのも彼だったので、縁を感じましたね」(今泉さん)

きんぼしがオープンしたのは2009年。当時、初代オーナーのもとで働いていた今泉さんは、約10年の紆余曲折を経て、2019年11月に経営権を譲り受けます。SAKE Streetの開店とほぼ時を同じくしてのことでした。

「(SAKE Streetは)近所ですし、共通のお客さんも多いからと軽い気持ちで行ってみたら、おもしろい酒屋さんだなと。クラフトサケをはじめ、積極的に新しいタイプのお酒を扱っているのもいいですね。試飲もできるし、店長のぽんちゃんの説明がとてもわかりやすいので、お客さまに説明するときは参考にさせてもらっています」 

取扱のあるサケスト酒の一部

取扱のあるサケスト酒の一部

「どんな日本酒でもポジティブに受け止めてしまう」という今泉さんがセレクトする日本酒は、冷酒からお燗向きのものまでバラエティ豊か。酒スト以外にも、他県を含む8、9店の酒販店からお酒を仕入れています。

「酒ストさんからは、旨味があって滋味を感じる、お食事と合わせて映えるお酒を選んでいます」と話す今泉さん。板前として20年以上の経歴を持ち、有名ホテルなどでも活躍していた大川さんの料理を引き立てるお酒を中心にセレクトしているそうです。

カウンター横の黒板に書かれた日替わりメニュー「本日のおすすめ」を見ると、さながら料亭のような料理名が並んでいます。この日は、居酒屋ではなかなか食べる機会のない「鱈とキノコの土瓶蒸し」をオーダーしてみました。

お猪口に出汁を注ぐと、繊細で気品あふれる香りがふわり。土瓶の中は、ほろほろとほどける鱈に、大ぶりの舞茸のほか、鶏肉、百合根、銀杏と具だくさん。今泉さんが「お出汁に合いますよ」と勧めてくれた「真上」(茨城県・村井醸造)が、口の中で優しく馴染みます。 

「鱈とキノコの土瓶蒸し」980円、「真上」90mL 600円

「鱈とキノコの土瓶蒸し」980円、「真上」90mL 600円

レギュラーメニューには、自家製メンチカツや焼き鳥などカジュアルな料理も。一品目とは少し毛色を変えて、お酒の進みそうな「自家製ササミの一夜干し」と、「カン・ツチダ」(群馬県・土田酒造)をお燗でいただくことにしました。 

「カン・ツチダ」一合(180mL) 900円

「カン・ツチダ」一合(180mL) 900円

「一度、高温まで上げてから、温度を少し下げています」という方法で温められた「カン・ツチダ」は、レーズンや紫芋のようにぎゅっとした甘味がありながら、心地よく切れていきます。噛めば噛むほど旨味がにじみ出すササミとの組み合わせに、思わずごくごく飲み進めてしまいそうです。 

「自家製ササミの一夜干し」550円

「自家製ササミの一夜干し」550円

2019年の新スタートからまもなく、新型コロナウイルス感染症拡大により、酒類の提供制限や営業時間の短縮など、さまざまな壁にぶつかってきたきんぼし。そんな状況を打開するため、週替わりの限定ラーメンや、1000円で6品盛り合わせが食べられる「おひとりさまプレート」、盛りだくさんのテイクアウトといった取り組みを行い、着実にファンを増やしてきました。

「同じ時期にオープンした酒ストさんとは、運命を共有していると思っています」と笑う今泉さん。“居酒屋”や“酒販店”という枠組みにとらわれず、新しいことにチャレンジする2つの店が、秋葉原・浅草橋の地から日本酒の輪を広げていきます。

店舗情報

きんぼし店舗外観

きんぼし

所在地:東京都千代田区神田和泉町1-10-1 ソレアード1101
電話番号:03-3864-3955
営業時間:17:30〜24:00(ランチ月~木曜日11:30〜13:30L.O.)
定休日:日曜日、祝日
座席数:26席

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真上 特別純米酒 

 「鱈とキノコの土瓶蒸し」合わせて頂いた日本酒。

あんずのようなフルーティな香りの奥に、穀物系の香りも少し感じられます。なにより個性的なのが、貝殻のような、海を思わせる香りです。

口当たりは軽やかでほどよく甘味を感じ、ジューシーな酸味、そしてこの銘柄に特徴的な苦味が彩りを加えます。
日本酒度は-5と「甘口」に分類されるお酒ですが、酸味と苦味の効果でキレよくスッキリと飲めるお酒です。

カン・ツチダ 2019年醸造 

 「自家製ササミの一夜干し」と合わせて頂いた日本酒。

口に含むとまぁるくやわらかな甘味に柑橘系の酸味が寄り添います。穏やかながらも伸びのある味わい。後半にかけてりんごを煮たような果実感や苦渋さが広がり、ゆるやかにフィニッシュ。

お燗にしていただくとより苦渋味が少し抑えめになり、コクのある旨味を楽しめます。燗冷ましで味わうと、まろやかな旨味と柑橘を思わせるような渋さがとても美味しいです。様々な温度で味わってみてください。

 

【シリーズ:サケスト酒が飲める店】
第1回:「〼kuramae」(蔵前)
第2回:「ぽんしゅビルヂング」(門前仲町)
第3回:「日本酒バー へなちょこ」(西荻窪)
第4回:「きんぼし」(秋葉原)
第5回:「粋酔処 楽縁」(東大前)
第6回:「食べ呑み処 あぐまる」(浅草)
第7回:「都橋おでん 久」(野毛)
第8回:「さかなや なかにし」(板橋)

(ライター:木村咲貴)