観光客で賑わう浅草の繁華街を抜け、言問通りを越えると広がる「奥浅草」エリア。浅草寺付近とは打って変わって落ち着いた雰囲気の中に、地元の人たちに愛される隠れた名店が並んでいます。女性二人が営む「食べ呑み処 あぐまる」も、そのひとつです。
「ヤバイTシャツ屋さん」のパンクな音楽が流れ、コンサート風のうちわが飾られたカウンターの奥に立つのは、料理担当の「みーちゃん」とお酒担当の「あっちゃん」。2016年から、みーちゃんが店長を務めていた北千住の居酒屋をあっちゃんが手伝うかたちで働いていましたが、2018年7月に二人で独立し、「あぐまる」をオープンしました。
みーちゃん「もともと友達同士だったんですが、地元の兵庫から遊びに来ていたあっちゃんにお店を手伝ってもらったら、当時のオーナーに気に入られて働き始めることになったんです」
あっちゃん「前の仕事を辞めようと思って、有休消化中に東京に遊びに来たら、そこで仕事が決まっちゃって。すぐ実家に戻って親に『今週中には出ていく』と伝えて、そのまま今に至ります(笑)」
二人の軽快なトークも合わせてポップなムードに包まれた店内ですが、日本料理店で修行を積んだみーちゃんが提供する料理は意外にも正統派。「炙りしめ鯖」、「茄子の揚げ浸し」、「はまぐり酒蒸し」などの定番和食から、4種のトッピングが選べる「鶏の唐揚げ」、「濃いめのだし巻き」など、酒好きにはうれしいメニューが並びます。
みーちゃん「日本酒や和食のお店は、若い人たちにとっては敷居が高いので、ゆるい雰囲気で楽しめるお店にしたいなと思っています。最近は若い人たちがお酒を飲まなくなっていると聞くので、こういうお店があったらもっと飲んでくれる人が増えるかなと」
そんな「あぐまる」の名物は、茶碗蒸しです。豚肉や海老、梅、もち、ブロッコリーなど、25種類もある具材の中から2品を選ぶことができ、なんと500円という破格っぷり。ごはんものの代わりに締めとして食べるお客さんも多いのだそう。
この日、おまかせで出してもらったのは炙ったブリとあおさの茶碗蒸し。薄切りのブリは脂っこさがなく、ポン酢によってさらにさっぱりとした味わいに。ベースの出汁が上品で、つるつると食べられます。
合わせたお酒は、山口県・新谷酒造の「わかむすめ 薄花桜 純米吟醸 無濾過生原酒」。春らしいさわやかさと桜の葉のような心地よい苦味が、コクのあるブリを彩ります。
お酒担当のあっちゃんは、北千住時代に日本酒好きのお客さんから勧められ、日本酒の勉強を始めたのだそう。SAKE Streetとの出会いは、オープン当初にTwitterで見かけて、これまでに扱いのないラインナップがそろっていることから取引を決めたと話します。
日本酒は日々入れ替え、産地や味わいのタイプが重複しないようにそろえています。あっちゃんに「好きなお酒のタイプは?」と尋ねると、「『らーん♪』とか、『るーん♪』って感じのお酒」と味わい深い回答が。知識はあるのに、あくまでゆるさを貫くあっちゃんのキャラクターとお酒の両方にお客さんたちは癒やされているようです。
あっちゃん「サケストにあるお酒だと、神蔵、真上、風の森とか。春みたいに、楽しい気分になれるお酒が多いですよね」
そんな「あぐまる」が一躍話題になったのが、コロナ禍におけるテイクアウト。バラエティ豊かなおかずをなんと250円均一で販売するという大盤振る舞いっぷりだったのです。
あっちゃん「商店街にあるお惣菜屋さん状態でしたね」
みーちゃん「このときに買ってくれた人たちが、今お店に飲みに来てくれているんですよ。味を知ってもらえる良い機会になりました」
どこまでも敷居を低く下げて、日本酒や和食に触れる機会を提供する。地元の人々が思わず秘密にしたくなる隠れた名店から、今日も二人の楽しい笑い声が聞こえます。
店舗情報
食べ呑み処 あぐまる
所在地:東京都台東区浅草3-36-2
電話番号:03-5808-9986
営業時間:17:00~23:00
定休日:火曜日
Twitter
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わかむすめ 薄花桜 純米吟醸 無濾過生原酒
「炙りブリとあおさの茶碗蒸し」と合わせていただいた日本酒。
香りはフルーティで、白桃やアプリコットを思わせるような果実香に、ほんのり甘い香りや青草のような香りも漂います。
口に含むと綿あめを思わせるようなやわらかな甘旨味がふんわりと広がります! 密度のある甘味の余韻。旨味がふくらみ、どことなくサイダーを思わせるような清涼感が寄り添います。
後味にかすかに感じるほろ渋さ、まるで春を思わせるような味わいです。 冷酒でジューシーさをお楽しみください!
【シリーズ:サケスト酒が飲める店】
第1回:「〼kuramae」(蔵前)
第2回:「ぽんしゅビルヂング」(門前仲町)
第3回:「日本酒バー へなちょこ」(西荻窪)
第4回:「きんぼし」(秋葉原)
第5回:「粋酔処 楽縁」(東大前)
第6回:「食べ呑み処 あぐまる」(浅草)
第7回:「都橋おでん 久」(野毛)
第8回:「さかなや なかにし」(板橋)
第9回:「和食日和 おさけと」(日本橋)
第10回:「ふくの鳥」(神田)
(ライター:木村咲貴)