サケスト酒が飲める店:第3回「日本酒バー へなちょこ」(西荻窪)

不老泉のお燗とおつまみ

頑張った週末に、普段は飲めないお酒が飲みたい。西荻窪駅から荻窪方面に5分ほど歩くとたどり着く「日本酒バー へなちょこ」は、昼過ぎの明るい時間から酒好きをもてなしてくれます。

営業は金・土・日曜日のみ。オーナーの篠山可南子さんの本業はデザイナーですが、ご自身が子育てをする中で「子どもを育てながらでも、気軽にお酒を飲みに行けるようなお店があったらいいのに」と考え、週末のお昼から開いている居酒屋をオープンするに至りました(金曜日は18時から営業)。

店前の「へなちょこ」ちょうちん

 開店は2020年2月。篠山さんは、ほぼ同時期(2019年11月)に開業したSAKE Streetのラインナップを見たとき、「欲しいお酒がこんなにそろっているなんて」と感動して取り扱いを決めたと話します。

「酒ストさんは、メディアや商品開発など、お酒を売る以外の取り組みも精力的におこなっているチャレンジャーなところが素敵だな、と。どんどん銘柄が増えているのもいいですよね。当店では、上原酒造の『不老泉』や『すごいアル添』のイベントをおこなったこともあるんですよ」

カウンター奥の棚には、どんなお客さんにも対応できるよう、キレイ系からどっしりタイプまで幅広いお酒が並びます。週末しか営業していないため、冷蔵保存のお酒は四合瓶で仕入れ。一種一種の回転を早くし、銘柄を毎週入れ替えることで、常連のお客さんから「この週末は何が飲めるかな?」 と楽しみにしてもらえているのだそうです。

へなちょこに並んでいたサケスト酒たち

この日、へなちょこに並んでいた「サケスト酒」たち

「最近は、私たちスタッフの趣味で、常温〜お燗用のお酒が30種類くらいまで増えました。一升瓶なのに満遍なく回転するし、意外と入れ替わりが激しいんですよ。最初はキレイめなお酒を飲みに来た人が、『ここで燗酒の美味しさに目覚めた』と言ってくれるとうれしいですね。お燗の注文が続いて、燗どうこが渋滞することもあるほどです」

それでは、渋滞する前にお燗を注文しなくては! おともには、10月から春先まで期間限定で出しているおでんを盛り合わせでいただくことにしました。

付けてもらったのは、「大倉」の山廃特別純米 直汲み無濾過生原酒 2020年醸造(奈良県・大倉本家)。お燗番の山沖さん曰く、「SAKE StreetからBY違いで仕入れた中でも、いちばんバランスがよい」一本。温めているあいだに「燗前(かんまえ)」といって、常温のお酒を一杯注いでくれるのもうれしいところです。 

「大倉」のお燗90mL600円、おでん3種600円

「大倉」のお燗90mL600円、おでん3種600円

 おでんは黒板に書かれたメニューから、大根と魚河岸、そしてナゾの「?天」をチョイス。「練り物って、仕入れた後にどれに何が入っていたかわからなくなるので、『?天』にしちゃいました」と、なんともお茶目な店員さん。ワクワクしながらかじってみると、中からチーズが。色の濃くなった大根は、頬張ると出汁がジュースのように湧き出すほどのしみこみ具合。魚河岸はすり身と豆腐を合わせた練り物で、はんぺんのようにふわふわです。

料理メニューは、手作りの瓶詰めおつまみなどの軽いものから、「豆腐と酒粕のヘルシーハンバーグ」などのお腹に溜まるタイプ、「焼き味噌」などのチビチビつまめる系まで多種多様。

「せっかくお店に来ていただくので、野菜を多めに、家ではあまり作れないような少し変わった食材や作り方を取り入れています。お酒のあては味が濃くなりがちですが、優しい味わいになるようにしているんですよ」

「甘納豆とマスカルポーネの溶けるおつまみ」600円

「甘納豆とマスカルポーネの溶けるおつまみ」600円

 上品な味わいながら、ついついお酒が進んでしまう逸品のひとつが「甘納豆とマスカルポーネの溶けるおつまみ」。4種類の甘納豆といちじくをマスカルポーネチーズで和えたもので、燗酒と合わせると、その名の通り口の中でふわりと溶けてしまいます。

合わせるお酒は、篠山さんが大好きだという“赤ラベル”こと「不老泉山廃特別純米 原酒 参年熟成」(滋賀県・上原酒造)。もちろんお燗にしていただきますが、ドライフルーツのような甘味と酸味がなんともマッチします。

カウンター席のほかには、お子さま連れが使いやすい座敷がひとつ。入口すぐのベンチ席にはベビーカーを置くことができ、通路もベビーカーが通れる幅に設計されているほか、お手洗いにはおむつ替え用のシートも設けられています。 

お子様連れが使いやすい座敷

「お子さん連れだと、どうしても遠慮がちになってしまうので、そんな親御さんの気持ちに寄り添えればと。お母さんが一人で来て、ひと息つけるような安らぎの場所にもしてほしいですね」

そんな目的で始まったへなちょこは、まさにすべての人に対してオープンな場所。気さくで明るく、愛にあふれた酒語りを繰り広げるスタッフのみなさんから、「これ、美味しいですよ」「今こんな飲み比べやってるんです」と声をかけられると、初訪問のはずなのに、ずっと通っているお店のような気分になってしまいます。常連だというお隣の男性が、「他県に住んでいるのに、なぜか毎週来てしまう」というのも納得です。

カウンター席では笑いが絶えない

カウンター席では笑いが絶えない

週末へ向けて、あとひと頑張りがほしいときに、「今週は何を飲ませてくれるのかな」と考えてウキウキする。自宅よりも帰りたくなるアットホームな空間が、西荻窪で待っています。

店舗情報

日本酒バー へなちょこ店舗外観

日本酒バー へなちょこ

所在地:東京都杉並区西荻北2-1-8
電話番号:050-7120-8644
営業時間:金 18:00~22:00(21:30LO)、土日 13:00~21:00(20:30LO)
座席数:カウンター5席、ベンチ3席、座敷4席

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大倉 山廃特別純米 (朝日60%) 直汲み無濾過生原酒 2020年醸造

 季節限定のおでん盛り合わせと合わせて頂いた日本酒。まろやかな甘旨味が口の中にじゅわりと広がり、少し後から顔を出す酸味は心地よく、甘旨味との調和が絶妙!ふくよかな旨味を余韻長くお楽しみいただけます。

ほのかに渋味や苦味を伴いつつ、喉越しはややドライめにフィニッシュを迎えます。

不老泉 山廃特別純米 原酒 参年熟成

 「甘納豆とマスカルポーネの溶けるおつまみ」合わせて頂いた日本酒。お燗にするとドライフルーツのような甘味と酸味がなんともマッチします。

燻った穀物のような香りと、サワークリームのような酸い香が漂います。口にいれると甘旨がどっと口内に広がり、とても重厚でまろやかな酸味で覆われ、最後は苦味でキュッとしめます。

不老泉の中でも最もどっしり、複雑味のある日本酒です。

 

【シリーズ:サケスト酒が飲める店】
第1回:「〼kuramae」(蔵前)
第2回:「ぽんしゅビルヂング」(門前仲町)
第3回:「日本酒バー へなちょこ」(西荻窪)
第4回:「きんぼし」(秋葉原)
第5回:「粋酔処 楽縁」(東大前)
第6回:「食べ呑み処 あぐまる」(浅草)
第7回:「都橋おでん 久」(野毛)
第8回:「さかなや なかにし」(板橋)
第9回:「和食日和 おさけと」(日本橋)
第10回:「ふくの鳥」(神田)

(ライター:木村咲貴)