昨年夏〜秋にかけて発売され、大好評の滋賀県・畑酒造の計画熟成酒「大治郎 AS TIME GOES BY 生酛」。コロナ禍のタイミングでリリースされたこの商品ですが、今回からより幅広く販売することとなり、当店には今年初めて入荷しました。
これまでの熟成に関する取り組みや、今回販売を拡大した経緯について、そして110年目を迎える今期の酒造りについて、畑酒造・女将の畑 久美子さんに教えていただきました。
日本酒熟成への取り組み - きっかけはコロナ禍
熟成酒については以前から興味を持っており、「大治郎」ブランドを立ち上げた当初からビンテージ(醸造年度の表記)を付けるなどして、その年ごとの変化を楽しめるように、との想いで取り組んできていました。
一方、今回の「計画熟成酒」は醸造した年から複数年熟成させることを目的としたお酒です。その背景には、2020年の新型コロナウイルスの流行により、緊急事態宣言が出されるなどし、業界全体が販売不振に陥り、生産の調整を余儀なくされたことにもあります。
「大治郎」では、1999年のブランド立ち上げ当初から、全量契約農家の酒米を使用しています。2010年からは酒米生産者グループ「呑百笑の会」のメンバーとして、自社田での酒米作りもおこなってきました。
日本酒の原料である酒米は、食べるお米とは異なる酒造り用の品種であるため、農家さんとの契約のもと、栽培していただいています。契約農家さんの皆さんと私たちは、両輪で回っていくような関係だと思っています。日本酒の生産調整は必要だとしても、作付けしていただく面積を大幅に減らすのはお互いのためにならない、そんな想いからこの「計画熟成酒」が誕生したのです。

未知の可能性を秘めた熟成。毎年の変化を楽しめるスペックで
滋賀県には、酒造りに欠かせない良質の米・水があります。豊かな風土により醸されたお酒が長期間にわたり熟成されることにより、味はまろやかに、香りも熟成による奥深いものに変化していきます。こうした変化の可能性には、まだまだ知られていない部分も多いです。
計画熟成酒は毎年、同じ規格でお酒を造ることとしており、現在は次のような内容になっています。今期出荷分は、仕込み量も初年度より増え、販売先も拡大することになりました。
- ・滋賀県の酒造好適米を使用する
- ・精米歩合80%(低精白)
- ・「生酛仕込み」で醸造
- ・2年間の熟成期間
お米に関する条件は「滋賀県の酒造好適米」とだけしているように、実は毎年、使用する酒米が違うところもお楽しみいただけるところだと思います。日本伝統の、自然乳酸を活かした酵母培養法「生酛造り」の特徴とあわせて、毎年の変化をお楽しみいただければ嬉しいです。

今年で110年目。今期の酒造りの様子をお届け!
ここからは、今期の酒造りの様子も、1日の流れに沿ってお伝えします。
朝6時30分に、ボイラーの電源を入れます。前日に用意した酒米の入った甑が稼動し、酒蔵の1日が始まります。

まずは、杜氏と入社15年目の蔵男との阿吽の呼吸で作業が進められていきます。麹室での切り返し作業や、もろみの櫂入れ、各タンクの検温、分析、蒸し作業の準備などの作業を黙々とこなし、酒米が蒸し上がるまでに朝食を取ります。
昨年の秋から、蔵人として1名が入社してくれました。ここからは、その方と3人体制で作業を進めていきます。これまで2年間ほど、杜氏と従兄弟の二人体制で酒造りをおこなってきましたが、人手が1人増えるだけで皆の負担が少しずつ解消され、新しい取り組みもできるようになりました。

女将をいれて4人の当社では、一人一人の得意なところを活かせる働き方を心掛けています。皆がそれぞれを、解り合い、認め合い、語り合い、良い呼吸でお酒を醸す。それが実現できてきているように思います。
7時30分になると、酒米が蒸し上がります。蒸し上がったお米を決まった温度まで冷ますために、10年前までは大型の放冷機を使用していましたが、現在は自然放冷としています。この合間に、二手に分かれそれぞれ作業をおこなっています。
翌日使う酒米を計ったり、引き込んだ蒸米で麹造りをしたり、分析作業でもろみの異常は無いか、上槽のタイミングをどうするか見計らったり……。

蒸し場の掃除・片付けを終えると、翌日朝に蒸す酒米の洗米作業に入ります。10時頃にここまでの作業を終えると、30分間の休憩時間に入ります。休憩が終わると、自然放冷していた酒米を使って仕込み作業を進めます。
午後の作業(洗瓶、検瓶、瓶詰め、酒粕剥がし、タンク洗い等々……)の準備をしていると12時頃となり、昼食時間になります。ここまでが、当社の午前中の酒造り作業です。これらの合間、ひとつひとつの作業が終わったときには、掃除&洗濯も進めています。

朝から夜まで1日に酒米に触れる量は、最盛期ではトン単位になります。2月を迎え、米蔵にある酒米も残り3分の1……今期の酒造期も3分の2を迎えています。
今年で、110年目となるお酒造り。周りの多くの皆様の支えがあってこそ、迎えられたと感じており、改めて御礼申し上げます。皆造まで、まだまだ気を抜かずに気張ってまいりたいと思います。