【酒蔵だより:白杉酒造】新商品開発の裏側とプロセスエコノミーへの挑戦

蔵人メンバー

酒米(酒造好適米)を一切使うことなく、コシヒカリなどの食用米のみで日本酒を造り続けている白杉酒造(京都府京丹後市)前回の酒蔵だよりでは、食用米にかける想いを綴っていただきました。

今回の酒蔵だよりでは、新商品「Shirakiku ハルヒ」をフィーチャー。蔵人・只津祐樹(ただつ・ゆうき)さんに、初挑戦の食用米「春陽(しゅんよう)」の解説を含め、開発の裏側について語っていただきました。

目次

毎年新たな日本酒造りに挑戦する理由

杜氏兼社長・白杉悟
杜氏兼社長・白杉悟

白杉酒造では現在約240石(一升瓶に換算すると約24,000本に相当)、仕込みタンク換算で26本のタンクで日本酒を仕込んでいます。

全国の日本酒蔵の中では比較的小規模な蔵で製造量も少ないのが現状ではありますが、毎度同じ工程の繰り返しや忙しさのせいでモチベーションの維持が難しくなる時もあります。

杜氏兼社長の白杉悟(しらすぎ・さとる)は、美味しい日本酒を造るためにはモチベーションの維持は必須と考えており、そのために白杉酒造では毎年最低タンク1本は新しい日本酒に挑戦するようにしています。

製造前の酒質設計においては、原材料の選定から味わいの方向性、商品名やラベルデザインまで、白杉悟の案に対して蔵人全員で意見を出し合い決定します。しかし、いざ製造が始まると、タンクの中の醪(もろみ)の発酵が当初の設計どおりに進まないケースも多く、完成した日本酒の味わいによっては商品名やラベルデザインが当初から変更になることも少なくありません。

そんな中で今期新たに挑戦する日本酒は、白杉酒造も過去に使用したことがなく、他の蔵も取り扱いにとても苦労するといわれる食用米「春陽(しゅんよう)」を使って造ることになりました。

初挑戦の食用米「春陽」を使った日本酒造り

食用米「春陽」

日本酒造りは単に米と水をタンクに仕込むことから始まるのではなく、そのずっと前の米作りから始まっていると言っても過言ではないくらい、酒造りと米作りは強く結びついています。特に、食用米のみで日本酒造りを行っている白杉酒造にとって、米は酒質の設計だけに用いられるのではなく、完成した日本酒の商品名や商品のストーリーにも影響を与えます

今期初挑戦となる食用米の「春陽」を使った日本酒造りは、米作りをお願いしている地元・丹後の農家さんからの提案がきっかけで挑戦することとなりました。

「春陽」はもともと糖尿病や腎臓病などでタンパク質の摂取を制限されている人向けに開発された食用米であり、一般的な米よりも水溶性のタンパク質が少ないことが特徴です。その特徴から、日本酒造りにおいて雑味の原因となるアミノ酸の生成が少なく、透明感のある綺麗な味わいのお酒を造ることができる米として近年注目されています。

新商品開発のリアルな裏側

「暁の蝙蝠」
「暁の蝙蝠」

今回の商品は「ハルヒ」と命名しましたが、これは白杉が「春陽」の文字を初めて見た時に「ハルヒ」と読んだことがきっかけであり、それとあわせて、春を思わせる爽やかな日本酒を造りたいと思ったことにちなんでいます。白杉酒造の銘柄は「白木久(しらきく)」ですが、商品のイメージやストーリー性を重視して、あえてそれぞれの商品名を全面に出しています。

「ハルヒ」以外にも、日本酒用酵母ではなく焼酎用酵母を使用した日本酒には「暁の蝙蝠(あかつきのこうもり)」と命名しました。これはイソップ物語にある「鳥と獣とコウモリ」からヒントを得たもので、コウモリは鳥なのか獣なのかという話を、「このお酒は日本酒なのか焼酎なのか」というテーマに掛けて、当初は「蝙蝠(こうもり)」とだけ名付ける予定でした。

しかし、社内会議の際に「蝙蝠」だけではストーリー性が分かりにくいという声が上がりました。そこで、今回の商品が「蒸留して焼酎になる前の日本酒」というイメージであることから、「焼酎ができる暁(あかつき)には」という言葉の「暁」を採用してはどうかという案、さらに、スタジオジブリの宮崎駿作品のタイトルには必ずひらがなの「の」が含まれていることから、「の」を採用してはどうかという案が出た結果、最終的に「暁の蝙蝠」という商品名になりました。命名の効果もあってか、初年度は見事、発売開始前に予約完売となりました。

暁の蝙蝠 無濾過原酒

アプリコットのような果実香にカラメルや味噌のような熟成香に近い香りが感じられます。

かすかにちりっとしたガス感。舌触りはとても滑らかで、ほのかにカカオや洋酒入りのチョコレートを思わす大人の甘さが味わえます。また、白麹由来のクエン酸の爽やかさが中盤に感じられますので、甘ダレすることなく心地よく杯が進んでゆきます。余韻に焼き餅のような香ばしさとふくよかな甘旨味が感じられ、満足感の高い味わいに仕上がっております。

こちらはキリッと冷やしていただいても良いですし、人肌程度に少し温めていただくと内に秘めた奥深さをお楽しみいただけます。

プロセスエコノミーへの挑戦

公式TikTokでの宣伝
公式TikTokでの宣伝

以前は新商品の発売後に広報を行っていましたが、SNSに力を入れるようになってからは、「新商品が発売されるまでのワクワク感も楽しんでいただきたい」という思いから、人気ゲームが発売前に広報されるのと同様に、発売前に広報を行うようになりました。また、商品によっては情報を一度にすべてオープンにするのではなく、少しずつ情報公開をすることによって、よりワクワクしていただけるように工夫しています。

今期初挑戦の「ハルヒ」については、酒質設計や商品名が決まっていない段階から新しい食用米である「春陽」に挑戦する旨を発表し、商品完成までの経過やできごとなどを随時広報するプロセスエコノミーに初めて挑戦しました。プロセスエコノミーに挑戦したことによって、より商品への親しみや興味を持っていただくことができて、ものづくりの楽しさを一緒に感じていただけたのではないかと思います。

多様な日本酒造りに挑戦を続ける白杉酒造ではありますが、美味しい日本酒を目指すだけではなく、その過程や蔵でのできごとなどをこれからもSNSを通じて広報していきたいと思います。

Shirakiku ハルヒ 華は咲く 無濾過生原酒

優しいマスカット系の上立ち香なので、香りを嗅いだ段階では甘くてフルーティなタイプかな?と思いきや、その想像を軽やかに裏切ってくれます。

含むと一瞬だけ甘味を感じたあと、即座にドライな表情に一変。ほんのり柑橘様の苦みも相まってバシバシに切れていきます。ツンデレならぬデレツン。非常に面白いお酒ですね。

開栓直後は少し特徴的な香りも感じられるため、開栓して時間をかけてゆったりお楽しみいただくのがおすすめ。大葉やワサビなどの薬味を多めにあしらって、鯛など白身の刺身と合わせてみたくなりました。

 

【酒蔵だより:白杉酒造】
2023年・秋「酒米を使わず食用米のみで日本酒を造る酒蔵
2024年・春「新商品開発の裏側とプロセスエコノミーへの挑戦

白杉酒造

白杉酒造株式会社

「shirakiku」を造る白杉酒造(京都府京丹後市)は、とてもユニークでチャレンジングな日本酒造りをしています。酒米を一切使わず食用米のみを使用したり、白麹や黒麹、見慣れない酵母の使用など、新しい試みを次々に導入しています。このようなユニークな製法を採用しつつ、おいしい日本酒にしっかりまとめ上げる実力派でもあります。

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