気温も下がり、各酒蔵では酒造りの本番シーズンを迎えようとしています。近年では、一年中酒造りをおこなう「四季醸造」の酒蔵も増えていますが、その場合でも、需要の高まりに向けて慌ただしい時期になってくることには変わりありません。
「わかむすめ」を醸す山口県山口市の新谷酒造もまた、四季醸造蔵のひとつです。今回の酒蔵だよりでは、同酒蔵の女将兼杜氏である新谷文子(しんたに・ふみこ)さんが、秋のお酒の仕込み状況について綴ってくれました。
11月16日リリース!今期の「花橘」の仕上がりは?
「わかむすめ」シリーズには、サブネームとして十二単の襲(かさね)の色目の名前がそれぞれ付いています。襲の色目は、四季折々の変化を比喩表現によって色彩として表す日本人ならではの配色法です。季節の移り変わりを敏感に感じ取り、それぞれの時期にふさわしい色や模様が選ばれています。
新谷酒造は、一年を通して酒造りをおこなう四季醸造蔵です。四季それぞれの違いを出せるという強みを活かし、繊細で優雅な日本人の美意識を感じさせるような美酒を造りたいという想いを込めて名付けています。
「花橘(はなたちばな)」もその色目のひとつ。柑橘を思わせる黄色いラベルですが、名前の通り爽やかな香りで、酸味や甘み、ほろ苦みが調和した清らかな味わいが特徴です。
昨年は雄町と山口県独自の酒米「西都の雫」のハーフ&ハーフでしたが、今年は雄町と山田錦のハーフ&ハーフにチャレンジしました。雄町と山田錦は、どちらもやわらかく、醪によく溶けるという特徴があります。一般的に、雄町は野生味や濃醇でコクのある味わいが出やすく、余韻が長くなると言われています。一方の山田錦は、香り高く、繊細でスッキリきれいな味わいを出せるお米です。
ワイルドな雄町、繊細な山田錦。正反対な2種のお米を掛け合わせると、一体どんな味わいになるのでしょうか。麹米には、弊社が得意とする雄町をチョイスしました。掛け米は1:1の分量になるように、山田錦と雄町を掛け合わせます。雄町は吸水が早いのですが、山田錦は遅く、原料処理も対照的でなかなか手間がかかる作業でした。
このように、昨年と異なる仕込みにチャレンジした「わかむすめ 花橘」。前回は「柑橘の香りがする」と大好評いただきましたが、今年も爽やかな香りは変わらず、酸味と甘みのバランスのとれた清らかな味わいと、キレの良さが特徴のお酒に仕上がっています。
国内初! 新型搾り機がやってきました
今年7月、新型の吟醸用自動圧搾機を導入しました。実は国内初号機で、従来のものより酸化が少なく、やさしく搾ることができます。究極のフレッシュ感を求め、毎月搾りたてのお酒を届ける新谷酒造のスタイルとベストマッチだと思い、導入を決めました。
この新型搾り機の特徴は……ピンク色の見た目に注目が集まってしまうと思うのですが(笑)、実は中身もこれまでの薮田式とはぜんぜん違うんです! 濾過板と圧搾板との間に一枚の枠が入っているため、圧を掛けすぎず、やさしく搾ることができるようになっています。さらに、濾過面積が小さく容積が大きいため、酸化を抑えることが可能。従来の自動圧搾機と伝統的な搾り機である槽搾りの良いとこどりのような搾り機です。
実際に、酒質がガラッと変わり、クリアでシャープな印象のお酒に仕上がります。まさに、私たちが目指すフレッシュの極みのようなお酒です。
カラーリングについては、よく「オプションですか?」と聞かれますが、120色の中から好きなものを選ぶことができる仕様でした。当初、コーポレートカラーの牡丹色を選んだところ、派手すぎるピンク色に社長がドン引き。もう少し穏やかな、桜色に近いピンク色に決まりました。
今期の仕込みも全力で酒造りと向き合います!
新谷酒造では、これからどんどん季節商品をリリースしていきます。春まで突っ走り、夏にはまた何か新しいことにチャレンジできればと考えています。
「牡丹」や「薄花桜」は毎年登場している商品ですが、実は少しずつ改良をしています。今年は製麹方法を変えてみましたが、今のところとても良い調子です。
わかむすめが掲載された本郷司さんの漫画『やえの酒めぐり』の単行本発売も11月27日に決まり、今期も良いことがたくさんありそうな予感がしています。今期も全力で酒造りと向き合っていきますので、「わかむすめ」をどうぞよろしくお願いします!
わかむすめ 純米吟醸 花橘 うすにごり 無濾過生原酒
お米を炊いたようなミルキーな香りに、柑橘やアプリコットのような果実香、ほんのり青草のようなテイストも感じられます。
口に含むとちりりとした繊細なガス感。なめらかなテクスチャーで広がる瑞々しいジューシーさ!ミルキーなお米の味わいがふくよかに余韻を彩ります。かすかに柑橘系のほろ苦渋さが後半に寄り添い、心地よいキレ感にてフィニッシュしていきます。
キリリと冷やして、柑橘系のフレッシュさをお楽しみください。
【酒蔵だより:新谷酒造】
- 2023年秋:「季節の移ろいを表現する『わかむすめ』今期の仕上がりは?」
- 2024年夏:「IWC&Kura Masterで受賞!世界に羽ばたく『わかむすめ』」