長野県・信州佐久エリアにて「澤の花」「Beau Michelle(ボー・ミッシェル)」を醸す伴野酒造。定番銘柄「澤の花」はバランスの取れた上質な味わいで人気を博していますが、その味わいは徹底的に基本に忠実な酒造りによって実現されています。
今回の酒蔵だよりでは、蔵元の伴野貴之(ともの・たかゆき)さんに、「澤の花」の目指す味わいと、そのための酒造りの「型」について語っていただきました。
ホッとする上品さを実現するため、原料はシンプルな構成に
前回の記事でお伝えしたとおり「澤の花」ではブランドテーマを“心がすこし安らぐ酒”としており、“長野県産の酒米と八ヶ岳水系の伏流水で醸す”スタイルで酒を醸します。基本的には、この2点を軸に酒質をイメージしています。
目指す酒質はシンプルに言えば、「上品な酒」。ほかに味わいを言葉で表現するとすれば、爽やか、軽やか、優しさ、良い抜け感、といったイメージです。このあたりは、飲んでいただいているお客様によって感じ方の差もありますし、それをこちら側からああだこうだと言ってしまうのも何か違うような気がしているので、普段はあまり細かく表現しすぎないようにしています。それでも、“ホッとするお酒だね”、“落ち着くお酒だね”のお言葉をいただけると、とても嬉しく思います。
現在「澤の花」で使う米の品種は「ひとごこち」と「美山錦」の2品種です。したがって、イメージする酒質を実現するため、酵母や麹菌の選択と組合せ、造りの内容や技術など、「型」的なものを長年かけて構築してきました。
酵母は華やかな香りの出やすい酵母は使わず、爽やかな香りの出やすい酵母を使っています。少しマニアックな話ですが、具体的には10号系酵母(明利小川酵母)、9号系酵母をそれぞれ単独で使うものがほとんどです。そのほかには10号系酵母に7号酵母をブレンドする場合と、10号系酵母にほんのり華やかに香る酵母をブレンドする場合がわずかにあります。
麹菌もクラシックな王道の吟醸麹菌がほとんどで、一部の商品で甘さの出やすい種麹菌をわずかに使いますが、基本的にナチュラルな味わいになるようなものを選んでいます。
酒米や酵母、種麹菌など多種多様な原料を使う酒蔵さんもあると思いますが、「澤の花」は比較的シンプルな構成と言えます。
細かな手順まで、徹底して基本に忠実に
酒造りの内容としては、「澤の花」は繊細なタイプの酒になりますので、その繊細さを損ねないように細かいところまで基本に忠実に酒造りをすることを心がけています。
「基本に忠実に」とひとことでいっても、たとえば洗米とその後の吸水管理は10kg単位でおこなう、米の蒸しは(前日からではなく)蒸しの日の朝に釜を温めてから米を張り込む、麹造りでは切返し・仲仕事・仕舞仕事といった手入れを全てしっかり行い夜間も温度管理をおこなう、三段仕込みでは最初の添仕込みを必ず枝桶(2・3回目の仲・留仕込みに使うのとは別の、小さめのタンク)に仕込む……などなど、挙げればまだまだ出てきます。
昨今の働き方改革の流れを受けて、時間を決めて作業をする考え方もありますが、当社は微生物(麹菌、酵母)の状態を見て寄り添うように考えています。そのため、早朝や夕方後におこなう仕事もあります。ローテーションを組むなど、なるべく働きやすい環境も整えるよう工夫はしていますが、微生物という生き物を相手にするうえでは限界もあり、なかなか難しいと感じているところです。
そのほかに徹底していることとして、
- ・搾った後、ろ過・瓶詰め・火入れまでを早々におこなう
- ・湯煎による瓶火入れと、その後の急冷
があります。
最近、お客様に「澤の花」にかすかに微発泡感を感じる(日本酒業界ではガス感と言われます)と言われることがあります。これは意図的にガス感のある酒を造ろうとしているのではなく、上記のように搾った後の酒に対してダメージを与えないようにさまざまな工夫をしている結果です。ただ、このことによって以前よりも酒に艶と張りがあるようには感じています。
まとめ
以上のようなことを考えながら、「澤の花」の酒造りを醸しています。造りたい酒、何をお届けしたいのか?の想い、それに連動する酒造り、それに必要な機械や道具。理想に近づけていくには本当に時間がかかりました。そしてまだ現在進行形で取り組み続けている最中です。
自己納得できるところまでかなり近づいていますが、きっと100%の自己納得は死ぬまでできないんだろうな、と思っています。
【酒蔵だより:伴野酒造】
2023年・夏「澤の花とBeau Michelle、2銘柄の軌跡」
2024年・夏「『澤の花』の目指す味わいと酒造りの『型』」