【酒蔵だより:白杉酒造】酒米を使わず食用米のみで日本酒を造る酒蔵

白杉酒造のお酒

日本酒造りの原料には、山田錦や五百万石といった酒米(酒造好適米)を使うことが一般的ですが、その酒米を一切使うことなく、コシヒカリなどの食用米のみで日本酒を造り続けている異色の酒蔵が存在します。

今回の酒蔵だよりでは、銘柄「白木久(しらきく)」を造る白杉酒造(京都府京丹後市)の蔵人・只津祐樹(ただつ・ゆうき)さんに、食用米を用いた酒造りについて綴ってもらいました。

目次

京都の美味しいお米を美味しいお酒にしたい

白杉酒造外観

白杉酒造は京都府の日本海側、「海の京都」と呼ばれる京丹後市にあります。京丹後市は山と海に囲まれた自然が豊かな場所で、コシヒカリや梨、メロンなどの農業が盛んなほか、海からは美味しい魚や蟹などが上がります。特にコシヒカリは評判で、かつては一般財団法人日本穀物検定協会が行っている米の食味試験で最高評価となる「特A」にも選ばれていました。

白杉酒造では「地元京丹後の美味しいお米を使って美味しいお酒を造りたい」という思いを持って、山田錦などの酒米(酒造好適米)を使わず、コシヒカリなどの食用米のみを使った日本酒造りを行っています。

日本酒の仕込みは、11代目蔵元である杜氏兼社長の白杉悟のほか、蔵人が2名(只津祐樹、武藤正明)と酒造りの時期のみ来ていただいている農家兼蔵人(中島輝幸)の4名で行っているため、規模としてはかなり小さい酒蔵です。

杜氏兼社長 白杉悟
杜氏兼社長 白杉悟

日本酒の製造量は2022年度が約240石(1石は約180ℓのため240石で約43,200ℓ、1.8ℓの一升瓶に換算すると約2万4,000本に相当)で、仕込んだタンクの本数は26本でした。仕込み期間はおおむね毎年10月上旬から3月下旬までで、約半年の間に一年分の日本酒を造るため、冬の間は特に忙しく働いています。 

2015年に全量食用米の酒造りへ

白杉酒造の歴史は古く、正確な創業は分かっていませんが、安永6年(1777年)に製造量を増やしてもよいという増石許可証が残っていたことから、創業を1777年としています。

創業から約240年の歴史がありながらも、白杉酒造は決して順風満帆ではなく、白杉悟が食用米のみの酒造りを始める以前は、地元にしか流通しない酒米を使った普通酒のみを造る酒蔵でした。

白杉が先代の杜氏から引き継いだ時は、京都の酒米である祝(いわい)を使った酒造りがしたいという思いがありましたが、毎年収穫量が安定しなかったことと、白杉が目指す日本酒の味わいに食用米が適していると考え、お寿司のシャリにも使われている食用米「ササニシキ」を使った「銀シャリ」を誕生させました。その後「コシヒカリ(商品名:丹後のヒカリ)」「ミルキークイーン(ブラックスワン)」「夢ごこち(ミラーミラー)」など、さまざまな食用米による日本酒造りに挑戦し、ついに2015年からは全量食用米による酒造りに切り替えたことにより、日本初の全量食用米使用蔵となりました。

酒米と食用米の違いとは

夢ごこちを使った「ミラーミラー」(左)とコシヒカリを使った「キメラ」(右)
夢ごこちを使った「ミラーミラー」(左)とコシヒカリを使った「キメラ」(右)

酒米と食用米の違いとしては、食用米は酒米に比べて粒が小さく、粘り気があり、麹(こうじ)作りの際に麹菌が繁殖しやすいとされる「心白(しんぱく)」がないことから、酒造りには向いていないと考えられています。また、日本酒の味わいの違いとしては酒米よりも食用米の方が酸味がよく出ることが挙げられます。

白杉酒造ではこれまでの経験を踏まえ、米を蒸す前の洗った米にどれだけの水を吸わせるかという「吸水歩合」の調整や、麹を作る麹室の中を極限まで乾燥させることによって、心白がなくても麹菌が繁殖できるような環境を作るなど、食用米による酒造りの困難を技術力で乗り越え、美味しい日本酒を造っています。

ストーリー性のある商品名やラベル

白杉酒造では、食用米の旨味と酸味を生かした日本酒造りに力を入れており、酸味が効いた辛口やフルーティーで甘酸っぱい日本酒に挑戦しています。

また、食用米を使った美味しい日本酒だけでなく、日本酒の味わいや使っている米、麹などの種類に応じてストーリー性を持たせた商品名やラベル作りも行っています。特にラベルについてはデザイナーに依頼せず、白杉悟が自らデザインを行っているところが特徴です。瓶の形状についても、フルーティーな日本酒にはボルドー型のようなワインボトルを採用するなど、中の日本酒の味わいとイメージを一致させるように工夫しています。

具体的な商品作りのエピソードについては、次回の記事でご紹介させていただきたいと思います。

多様な日本酒造りでモチベーションを上げる

白杉酒造の蔵人メンバー

冒頭でお話したように、白杉酒造では昨年度26本のタンクに日本酒を仕込みました。しかし、日本酒造りの工程は原材料などに違いはあるものの、毎度同じ工程の繰り返しや忙しさのため、モチベーションの維持が難しくなる時もあります。

その中でモチベーションを維持するために、毎年最低何か1本は新しい日本酒に挑戦するようにしています。原材料の選定から味わいの方向性、商品やラベルデザインについても白杉悟の案に対して蔵人全員で意見を出し合い、造り手全員がワクワクとした気持ちを持って酒造りに臨める環境が白杉酒造にはあります。

もちろん、酒販店や飲食店などの売り手の方々や一般消費者である飲み手の方々にも白杉酒造の日本酒でワクワクしていただきたいという思いがあります。だからこそ、白杉酒造では常に食用米を使った新しい日本酒に日々挑戦しているのです。

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