【酒蔵だより:松井酒造】海外出張でみえた日本酒の現在

近年、日本食ブームの影響もあり、トップ輸出相手国である中国やアメリカのほか、ヨーロッパや東南アジア、南アメリカなどの国々への日本酒の輸出が伸びています。

そんな中、今回の酒蔵だよりでは、蔵元である十五代目 松井治右衛門さんが、海外出張で訪れたカンボジア、韓国、シンガポール、オーストラリアの様子について綴ってくれました。

目次

日本酒の輸出にかける想い

2024年は、松井酒造にとって海外での展開が拡大した1年でした。コロナ禍で途絶えていた輸出が動き始め、本格化しています。日本酒の国内消費は昭和48年(1973年)をピークに減少の一途を辿っています。特定名称酒については微増していましたが、それも減少に転じ、やや持ち直しの兆しはあるものの低調に推移しているのが現状です。

そんな中、輸出に関しては日本食の人気とともに日本酒の消費もそれなりに動きが見られ、成長の胎動を感じることができるようになっています。多くの酒蔵が海外展開を視野に入れていることと思います。

以前にもお話をしたことがありますが、これは「国内市場を諦めて海外市場に賭ける」ということではありません。国内の限られたフィールドで競うよりも展開が見込める海外に活路を見出し、そこから国内市場を刺激したいと思っています。輸出を通じて海外の方には日本酒の魅力を知っていただき、日本の皆様にはその価値を再認識していただきたいのです。

今回は、今年ここまでに赴いた海外出張について簡単にお話したいと思います。

国ごとの日本酒市場を見比べる

カンボジア

2月にはカンボジアのプノンペンに向かいました。輸出相手国として名前が挙がることがあまりない国のように思えますが、実は経済成長の最中で、今後日本酒市場の成長が見込まれる国です。

日本文化に対する理解も高く、日本にまつわるさまざまなイベントも開催されているそうです。街のそこかしこに日本食レストランが見られ、日本と変わらないレベルの和食を楽しむことができます。

現地のディストリビューターに話を聞いたところ、「特別な日があると日本食を食べよう」と、少し良い服を着て和食のレストランに行く人が多いのだそうです。日本人としては嬉しく、こうした人たちに日本酒を知ってもらえればと思っています。

ベトナム戦争や内戦などかつての悲惨な歴史のイメージが強い国でしたが、そこで生き残った人々が子を産み、育てて、これから人口の増加も見込まれるとのことで、そこにも大きな魅力を感じています。

 

韓国

7月には韓国ソウルでの展示会に出展しました。弊社では昨年から韓国出身のキム君を採用しており、彼を連れての出張になりました。ソウルのカンナムで開催されたワイン&スピリッツの展示会で、現地取引先のディストリビューターが出展するということで、そのブースで商品の訴求を行いました。

今、韓国では日本の居酒屋スタイルが人気なのだそうで、日本酒の需要も高いようです。日本でもよく見る銘柄が多かったのですが、多様性を求めているとのことで、私たちのような小さな酒蔵にも興味を示してもらえました。

お隣の国ということもあり、日本の文化に対する解像度が高く、日本語を話す人(それも若い世代)が多かったのも印象的です。

現地に精通しているスタッフと一緒だと出張のクオリティがかなり上がります。ジョージさんと一緒に行ったニューヨークもそうでしたが、ガイドブックにも載っていないような美味しい飲食店や、現地の人々の日常などを知ることができました。

 

シンガポール

8月にはシンガポールを訪れました。地元の京都銀行さんが京都フェアを開催するということで、市内の企業10数社のうちの1社として選抜してもらいました。

実はシンガポールは10年前に初めて輸出に取り組んだ国です。当時契約していた商社がアルコール事業から撤退してしまったために輸出拡大につなげることができませんでしたが、今年に入り、サケストリートさんがシンガポールでの事業を開始し、弊社の現地代理店になってくれています。せっかくの機会なので、藤田社長がシンガポールに入る際、現地で2日間お酒の会を開催してもらいました。

東南アジア随一の経済大国で、10年前とは表情が大きく変わっていました。駐在している日本人も多く、日本人コミュニティがしっかりしているという印象を受けました。また、日本酒コミュニティも存在し、日本人よりも日本酒に詳しいのでは?と思うような人々にお越しいただき、充実した日程を過ごすことができました。

 

オーストラリア

9月にはオーストラリアのメルボルンに向かいました。メルボルンで開催された展示会に出展するためです。国税庁の出展ブースに選んでいただき参加することができました。弊社は既にオーストラリアに取引先のディストリビューターがいるので、商談もスムーズに進みました。

オーストラリアは移民の国ということもあり、西洋だけでなく、世界中のさまざまな民族が住んでいます。それぞれのコミュニティがあり、そこに食文化があります。印象的だったのは中国人コミュニティの皆さんが、毎月日本酒を楽しむ会を開催していたことです。

日本でもなかなかお目にかかることが出来ない銘柄がずらっと並んでおり、どの参加者も味わいや香りについて深く考察していました。質問も鋭いものが多く、感心してしまいました。中国料理のお店にも日本酒が持ち込まれ、ペアリングの勉強にもなりました。

現地に足を運ぶ大切さ

現地に足を運ぶ大切さ 実際に外国に行くことでその国のことを深く知ることができます。教科書である程度の知識はあっても、現地の空気を吸い、食事をいただくことで人々の生活を体感できます。

その中で、どのようにすれば日本酒がこの国で受け入れてもらえるか。そんなことを考えながら出張に臨んでいます。

京都はインバウンドが活況ですが、海外輸出についても取り組みを進め、日本酒を通じて世界とのつながりを深めることができるように今後も努力を続けたいと思います。

 

【酒蔵だより:松井酒造】

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