寒い日に、おでんを食べながら熱燗を口にした瞬間「あぁ日本人で良かった」としみじみ思うのは私だけではないはず
そんなおでんに合う日本酒を教えてほしいという問い合わせは、店頭でも結構多いんです。ご存知の通り、おでんには様々な具材があり、出汁の味付けも家庭や地方によって異なります。その意味ではペアリングに悩むのもよくわかります。
今回はそんな点も考慮して、ピンポイントでペアリングを追求するというよりも、ふわっと包括的におでんと合わせやすいお酒を探しました。
検証に使用したのはセブンイレブンの店頭のおでん、およびファミリーマートのパック詰めの激安おでん。どちらも比較的あっさりめの味付けになっています。
具材は大根、たまご、コンニャク、さつま揚げ、ちくわです。
合わせるポイント
ポイントになるのは、やはり出汁の味わいですね。おでんの出汁を日本酒で割る「出汁割り」なんて飲み方もありますが、日本酒のうま味と魚介出汁の相性は抜群です。
このため、おでんにはほとんどの日本酒がそれなりに合うのです。酸味の強いものや、甘すぎるものなど、極端なものは避けたほうがいいですが、落ち着いたタイプであればどれを選んでもハズレを引くことはありません。
とはいえ、さすがにこれで終わるわけには行かないので、もう少し細かく見ていきましょう。
うま味がしっかりした酒を選ぶ
古き良き昭和のおでん屋台などで飲む酒というと、普通酒や本醸造酒などをイメージする方も多いんじゃないでしょうか。ただこれ、実際に試してみるとそこまで相性がいいわけではないんですね。
無難に合うには合いますが、良くも悪くも酒自体のボディが軽いのでうま味の同調性がもう一歩足りない。
どちらかといえば、味わいのしっかりした純米酒のほうが、出汁のうま味をしっかり受け止めた上で増幅してくれます。
大根やコンニャクなどあっさりした具材に対してはうま味の補完、練り物やたまごなどとは同調する味わいを楽しめます。
フルーティ系も悪くない
最近人気のフルーティなタイプはいかにも相性が悪そうですが、これが意外とそうでもないんです。
特に大根やコンニャクなどの味わいが軽い具材とは良いペアリングが期待できます。練り物などは少し酒が浮いてしまうこともありますが、その場合は辛子ではなく柚子胡椒をつけると相性が近づきますよ。
ただし、酸味が強めなタイプは出汁の風味とあまり馴染まないので気をつけましょう。
燦然 特別純米 雄町
今回の優勝銘柄。どっしりとしてうま味もしっかり。雄町らしくうま味がぶわっと広がりますが、これが出汁の味の広がり方と合致して最高の一体感を生み出します。酸味が控えめなのが同調性を後押ししていますね。
温度帯はもちろん燗で。45~50℃弱くらいで最もポテンシャルが発揮されます。もはや具材なしで、出汁を飲みながらこの酒を合わせても充分楽しめます。ただし、塩分の摂り過ぎには注意!
不老泉 山廃 純米酒 旨燗
不老泉の中でもお燗に特化した一本。山廃でありながら香りと酸味が穏やかで、幅広い食事と合わせることができる万能食中酒です。
45℃くらいに燗付けすると、酒のうま味が出汁の味わいと同調した後に、ふわっとした甘味が加わり、特に練り物やたまごが最高に美味しくなります。
わかむすめ 牡丹 うすにごり 純米吟醸 無濾過生原酒
出荷本数も少なく全国的にはまだまだ知られていないんですが、非常にフルーティでクオリティの高い酒を造る蔵です。どれも繊細で品が良いんですよ。
こちらはうすにごりの無濾過生原酒。カプロン酸エチルが華やかに香るのに、全く嫌味がありません。このあたりが上品に感じる所以ですね。
そんな酒がおでんと合うんだから面白い。香り自体はあまり残らず、その後にどっしりと広がりのある雄町特有のうま味が出汁とシンクロします。
風の森 雄町 807
今回の一番の驚きは風の森でした。最後まで理由は分からなかったんですが、どういうわけか、どれも妙におでんと合うんです。特に低精白でうま味のしっかりした雄町の807が最強。
風の森って、どれもそれなりにフルーティだし、若干酸味もあるので試す前は全く期待してなかったんですが、合わせてみると香りの部分が不思議とフィットするんですね。7号系酵母の特徴なんでしょうか。
読者の皆様、ぜひ試してこの理由を探ってください!(責任放棄)
まとめ
面白いことに、気づいたら4本中3本が雄町を原料とする酒でした。特に意識したわけじゃないんですけどね。やはり雄町のようにうま味が広がる、しっかりしたタイプの酒と相性がいいということでしょう。
雄町ではなくても、酸が弱めで、ボディがある程度しっかりしたものを選べば間違いありません。温度帯はやっぱり燗ですね!おでんの鍋に直接チロリをどぶんと浸けて燗付けするのもオツなものですよ。