2024年末、日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録され、大きな話題となりました。実は、同時期にタイ料理の「トムヤムクン」も同じくユネスコ無形文化遺産に登録されたことをご存じでしょうか。
今回はそれを記念して、ペアリングの名のもとに両者を勝手にコラボさせちゃおうという特別企画!
日本酒ペアリング研究家の私・酒井が、酒スト編集部インターンで料理人見習いの仙波伶菜(せんばれいな)さんと一緒に日本酒×トムヤムクンのペアリングを探っていきます。
最後はなんと、タイ出身のインフルエンサー・SHIF(シフ)さんにペアリングの判定をしていただきますよ!
トムヤムクンってどんな料理?
トムヤムクンとはタイを代表する酸味と辛味が絶妙に調和したスープです。タイ語で「トム」は「煮る」、「ヤム」は「混ぜる」、「クン」は「エビ」を意味します。つまり、直訳すると「煮て混ぜたエビ」のスープということになりますね。

特徴的なのはその香り。パクチー、レモングラス、バイマックルー(コブミカン)などのハーブとライム果汁が豊かな香りを生み出します。
主な具材はエビ、キノコ(フクロタケが一般的)、トマト、玉ねぎなどで、調味料にはナンプラーやタマリンド、チリインオイル※などが使われます。
なお、トムヤムクンには濃厚でクリーミーなトムヤム・ナムコンとさっぱりした濁りのないスープのトムヤム・ナムサイの2種類があります(今回はトムヤム・ナムコンです)。
今回は「スマイルタイランド 浅草橋店」さんのトムヤムクンで検証させていただきました。ありがとうございます!
※干しえびと唐辛子、ニンニクなどを絶妙な配合ブレンドしたタイの万能調味料
トムヤムクンに合う日本酒を考える

じゃあ早速ですが、トムヤムクンを試食しましょう。


わ!美味しい!初めて食べたんですけど、思ったより食べやすいですね。

このお店のはそこまで辛くないし、日本人の味覚に合わせて作られている感じだね。塩味・酸味・うま味といろんな要素があって、複雑な味わいだよね。エビの風味はそこまで感じないかな。
常々エスニック料理と日本酒は相性が良いと思ってるんだけど、「辛味」だけがネックなんだよね。辛さのせいでどうしても日本酒の繊細さが失われてしまう。でも、このトムヤムクンはそこまで辛くはないから、なんとかなるかも。

バランスが絶妙ですね。濃いんですけどパンチが強いわけではなく、出汁の感じが強い気がします。

その出汁っぽさは主にナンプラーとチリインオイルからきてると思うんだけど、いわゆる発酵系調味料なのでうま味が強くて、同じ発酵食品の日本酒に合うと思う。
まずは酒井が候補となるお酒を決定!

試食と試飲を重ねた結果、以下6本を選出してみました!


ワイン的に香りで合わせるんだったらCRAFT 稲と富士山、わかむすめ。
稲と富士山はある意味チートで、これだけハーブが入ってれば、そりゃ合うよねっていう候補です。
わかむすめは特徴的なフルーティーな香りとトムヤムクンのハーブの香りがやっぱり合う。なおかつ、この甘さ。トムヤムクンの方に甘味はないので、甘さを補完してくれる面白さもあるなと。
わかむすめと同系統だけど、流輝の桃色はパクチーと合わせるとよりタイらしい雰囲気になります。

真剣にメモを取る仙波さん。

この3種類で食べると、最後まで飽きずに食べられそうです。

そう、味変。変化がつくというか、リズムが出てくる感じがあるよね。

この中で、私のような日本酒初心者でも「合う」とはっきりわかるのは大治郎と大那ですね。

大治郎は平均的に一番いいと思う。搾りたてでそこまでボディも出てないから、同調性がいちばんある。

いかにも和風な日本酒なのにすごいですね。無形文化遺産ペアリング感があります。

大那のにごりは、ちょっと辛みをマスクしつつ、 ボディ感がそこそこあってテクスチャーが合うので絶妙に同調する。燗にしたらもっといいかもしれないので、試してみよう。

おお、確かにお燗だとよりお米感が出るというか。大那のにごりが主食になってトムヤムクンがおかずになりますね。東南アジアでは、お粥にナンプラーかけて食べるんですけど、それのイメージに近いです。

よく知ってるね。では、この6本の中で、仙波さんが1番好きな組み合わせはどれ?

お燗した大那です。

俺も同じ!

でも、「これぞペアリングだ!」と思ったのはLimoneです。お店で出された時に食通の人がうなるような感じ。例えばコース料理でトムヤムクンが出るとして、それにペアリングで1杯出しましょうってなったら、絶対にこれがいいです。

このお酒の場合、やっぱりパクチーがすごくいい働きをするなあ。パクチーって山椒なんかにも近い、ちょっと柑橘系のニュアンスがあるんだけど、多分そこがLimoneのレモンっぽさと重なりやすかったのかなと。要素が複雑に絡み合う楽しさがあるんだよね。
ペアリング見習い・仙波が挑戦!

実は私もペアリングを考えてみたんです。ズバリ、LIBROM あまおうとローズマリーです!


おお、なかなか面白そう。ローズマリーのハーブ感が合いそうだね。

すごく合うか全然合わないかのどちらか、という感じがしてドキドキしています。ちょっと濁っててガス感があるのと、ベリー感とハーブがあるっていうところに賭けてみました!

では、飲んでみましょう。……あら?いいんじゃない?というか、めちゃくちゃうまい。パクチーと合わせることで、ローズマリーが引き出される感じがある。

よかった!昨日の夜に、トムヤムクンのレシピを見ながら酒ストにあるお酒を調べていて思いついたんです。

そういえばトムヤムクン、食べたことなかったんだよね。想像でこのペアリングを?

はい!

うーむ、怖い新人が入ってきたなぁ(笑)どちらも香りがあるので、ハーブ系にフォーカスして合わせるなら抜群の相性だね。
このお酒はそこまで甘味が強くないので、甘味が弱いトムヤムクンと同調しやすいよね。それから、ほどほどの酸味が互いをうまく繋いでくれる。あとはうすにごりということもあって全体的なボディ感もちょうど合ってる。

褒めてもらえてうれしいです!

下手したら俺が選んだやつより完成度が高いな。悔しい……。
タイ出身インフルエンサー・SHIFさん登場!

それではいよいよ、タイ出身のインフルエンサーSHIFさんにご登場いただきましょう!

よろしくお願いします!とっても楽しみです。

SHIF(シフ)さんのプロフィール
タイの大学を卒業後、通訳や接客業を経て2014年に来日。日本を好きになったきっかけはアニメだそう。現在は日本で生活しながら、日本の観光やグルメ情報をタイ人に向けて発信中。日本酒も大好き。
https://www.instagram.com/ffishif/

現地の方がお店や家でトムヤムクンを食べるとき、どんな飲み物と一緒に食べますか?甘いお茶を飲むイメージがあるんですけど、実際はどうなんでしょうか。

トムヤムクンに限らず、タイ人はどの料理でもご飯(米)と一緒に食べるのが基本で、定番のドリンクはあまりないですね。

そもそも料理にドリンクを合わせる意識があまりないってことですか?

何と飲むかじゃなくて、何と食べるかの方が意識されてるかなと。でも、タイ人の好みだとコーラが多いかもしれません。あと、タイ人の半分ぐらいはお酒を飲まないです。飲む人はもちろん飲むんですけど、人によって差がありますね。
タイの日本酒&トムヤムクン事情は?

タイでは日本酒ってあまり出回っていないんでしょうか?

そうですね。富裕層の方はわりと日本酒を好きで飲んでる方が多いですけど、他はあまり飲まないので、一般的ではないです。タイに入ってきてる日本酒の種類がそんなに多くないんですよね。日本で飲めるようなおいしいものが少なくて。

流通の問題で状態の悪いものが出回ってる可能性もありますね。

みなさん日本食は大好きなんですけど、日本酒にはやっぱり美味しくないというイメージがついてしまってる人が多いですかね。

最近、アジアでも中国・シンガポール・香港あたりは日本酒が盛り上がってきて、増えてきているんですけど、タイとかベトナムなんかはこれからなんだなっていう感じがしますね。

では、トムヤムクンを食べていただきましょう。このお店のは、ちょっと日本人の好みに寄せた感じなんじゃないかなと思っています。


うん、美味しいです!

現地のものと比べてどうですか?

しょっぱいです(笑)日本で売ってるトムヤムクンは、だいたいしょっぱめに寄ってますね。タイだとお店によって、しょっぱめもあるし、酸っぱめもあるし、甘めもあります。人の好みによるっていうのもあるんですよね。

なるほど、家庭とかお店によってかなり差があるんですね。

いえ、トムヤムクンを家庭で作っている人はあまりいないです。タイ人はあんまり家で料理作らないんですよ。特に都会人はほぼみんな料理を作らなくて、外食が90%くらい。外食文化なんです。

へーー!!

トムヤムクンはカジュアルな料理なんですか?お祝いの席でしか出ない料理だったりしますか?

特にお祝い料理ということではないです。普通に食べます。そもそもタイではお祝いのときに特別な料理を食べるという概念がないかもしれません。
トムヤムクン×日本酒ペアリング、実食!

お酒の味はどうですか?典型的な日本酒とはちょっと違う、変わった日本酒も結構選んでみました。

全部美味しいです(笑)それぞれ特徴があって、どれも異なる良さがありますね。

「自分はこれが好き」「タイの人はこれが好きだろう」というものを聞いてみたいです。

日本酒の初心者で現地の人だったら流輝の桃色が好きだと思います。タイ人って梅酒が好きなんですけど、こういう甘味のあるお酒はウケるんじゃないかと。


でも、普段から日本食を食べてる人だったらわかむすめですかね。梅酒に比べて甘さ控えめで日本酒らしいというか。稲と富士山、大治郎もいいと思います。 稲と富士山、わかむすめはタイのファインダイニングでも出そうな感じがあります。ファインダイニングはアルコールとペアリングしますし、必ずトムヤムクンが出てきますから、高級店でよく食事をする富裕層や外国人観光客も好きなんじゃないかなと思いました。

確かに稲と富士山はどこか高級感もありますね。

稲と富士山はトムヤムクンのハーブが引き出されて、辛みがマイルドになりますね。大治郎はお酒を飲みたい人向けかな。ペアリングっていうより、お酒そのものを飲みたい人はこれが好きそうです。今日飲んだ中では一番、昔ながらの日本酒らしいと思います。
SHIFさんイチオシのペアリングはこちら!

SHIFさん個人の好みとしてはどれがよかったですか?


やはりタイ料理とかハーブを使った料理にはこういうフルーティーな香りがするお酒が合いますね。日本料理だと香りが強いと食事に合わせづらいって言われちゃうんですよ。その辺の差は面白いですよね。

酒井さんはどれが一番好きでしたか?

大那の濁りかな。お燗にしたときのお米の感じがご飯っぽくて。LIBROMのあまおうとローズマリーも面白いですね。

わかります。トムヤムクンの甘みと香りの部分が全部いちごになるけど、それでも味がまとまるから面白いです!

やっぱりタイ料理の肝ってハーブなんですね。
まとめ

SHIFさん、今日はいかがでしたか?

とてもいい経験ができました。なかなかこうやって食べ物に合わせて日本酒を飲み比べることってないので。

こういう風に料理のターゲットを絞って日本酒を飲んでみるというのも、たまには面白いと思います。ぜひやってみてください!

はい!とても楽しかったです。ありがとうございました!

ありがとうございました!

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今回ポイントとなったのは、ハーブの香りをフルーティな日本酒の香りと重ねること、そしてトムヤムクンの強い酸味に寄り添う酸味のある日本酒を選ぶこと。この二つの要素を意識すると、わりと簡単に相性の良い組み合わせが見つかることがわかりました。
また、お米の風味をしっかり感じる日本酒や甘味の強いタイプもトムヤムクンとよく合うことがわかりました。
日本酒もトムヤムクンも、ユネスコ無形文化遺産に登録された伝統的な味。その異なる伝統が融合することで、新たな魅力を発見できる機会となりました。みなさんもぜひ、日本酒とトムヤムクンのペアリングを試してみてください!