「酒粕」と聞いて、皆さんはどのような味や見た目を思い浮かべますか?多くの方は、白くてねっとりとしたペースト状のものを想像されるかもしれません。甘酒や粕汁によく使われていますよね。
しかし実は、日本酒に大吟醸、純米、スパークリング、古酒など多彩なバリエーションがあるように、酒粕もまた、味わい・色・テクスチャーが異なる驚くほど多様な種類が存在しています。「そんなまだ知られていない酒粕の魅力を、もっと多くの人に知っていただきたい!」──そんな想いから誕生したのが「KAS FES〜酒粕フェス〜」です。
2025年3月22日、全国15の酒蔵から集まった26種類の個性豊かな日本酒と酒粕を、食べて、飲んで、比べられる。これまでにない特別なイベントが実現しました。本レポートでは、記念すべき第1回KAS FESの様子を詳しくお伝えします!
「KAS FES」いざ開幕!
会場となった東京文具共和会館は、浅草橋駅から徒歩5分、酒ストの店舗からも徒歩2分という好立地です。開場とともに受付には続々と来場者が訪れ、パンフレットや日本酒の試飲に使用するコインなどが入ったセットが手渡されました。

受付で配られるリーフレットやコインのセット
会場内には酒蔵ごとに、日本酒とひと口サイズの酒粕がずらりと並んでいます。カラフルなものも多く、「酒粕って見た目だけでもこんなに違うんだ!」と見ているだけで気分が高まる光景です。
酒粕は、入場チケットをお持ちの方であれば食べ放題!
日本酒の試飲は、受付時に渡される専用コインとの交換制で提供。追加コインも購入可能なため、気になるお酒を思う存分味わうことができます。
KAS FESの発案者でもある酒粕研究家・さけかす子さんのブースでは、青のり味とごまこしょう味の酒粕クッキーが試食提供されました。酒粕を使ったレシピについてアドバイスを求める人が絶えず、終始賑わいを見せていました。

さらに、ゲスト酒蔵として村井醸造 製造責任者・臼井卓二さん、土田酒造 杜氏・星野元希さん、松井酒造 代表・松井治右衛門さんが来場。ブースでは当日提供された日本酒と酒粕の話を直接聞くことができ、多くの来場者が熱心に耳を傾けていました。
酒粕の色や食感、味わいの違いを感じることで、「どうやってこの酒粕ができたのか?」と普段はあまり意識しない酒造りの工程により深く興味を持つ人が多く見られたのが印象的でした。
個性豊かな酒粕たち
26種類の酒粕は、それぞれに個性があり多種多様。白、茶、ピンク、黄色といった色の違いだけでなく、板タイプ、ペーストタイプ、ぽろぽろタイプ、ふわっとタイプなど、テクスチャーもさまざまでした。
ひとつずつご紹介したいところですが、ここではその中でも特に珍しいと感じた酒粕を筆者の独断と偏見でいくつかご紹介します!
辨天娘(鳥取・太田酒造場)
熟成年数の違う2種類の酒粕が提供され、見た目のインパクトから立ち止まる人が続出していました。色の印象とは異なり、食べてみるとムースのようにやわらかい口当たりと、キャラメルのような甘やかなコクが特徴です。熟成年が長く色が濃くなるほど、ブラウニーやビーフシチューなどの同系色の料理との相性が抜群とのこと。

山丹正宗(愛媛・八木酒造部)
袋しぼりされた純米大吟醸の酒粕で、お酒感がたっぷり残ったとろとろ感が際立ちます。お酒好きにはたまらない、まさに“食べる大吟醸”といった贅沢な味わいで、クラッカーに乗せるとさらに美味しそうです。

舞美人(福井・美川酒造場)
酒粕を再発酵させた日本酒「MYVY(マイビー)」の酒粕はまさに唯一無二の存在。ぽろぽろとした食感が特徴で、噛むたびに酸味と旨味がじわじわと広がり、クセになる味わいです。

稲とアガベ・早苗饗蒸留所(秋田県)
酒粕を蒸留した後に残る酒粕で、アルコールはほぼ含まれておらず、ふわふわの軽やかな食感です。ホップを使ったクラフトサケの「花風」、ブルーベリー、稲とウメの3種があり、酒粕というよりもスイーツ感覚で楽しめます。普段は販売されていないため、今回のイベントでしか味わえない限定品でした。購入できないと知って、残念がる人の姿も多く見られました。

酒粕の魅力に驚きと笑顔があふれた会場
KAS FESには、日本酒ファンと酒粕ファンの両方が来場し、通常の日本酒のイベントとはまた違う賑わいを見せていました。

参加者からは「酒粕にこんなにたくさんの種類があるなんて知らなかった!」という驚きの声や、「これまで日本酒とその酒粕を食べ飲み比べる機会はなかなか無かったけど、やはり合いますね!」と新しい発見をしている人もいました。
「お気に入りの酒粕が見つかったから、日々の食事に取り入れたい!」と思ったら、おすすめのレシピをさけかす子さんに聞くことができるのもこのイベントの魅力。
気に入った酒粕は、その日にSAKE Streetの店舗で購入できるとあって、それを楽しみに来場した人も多数。これだけ多くの種類の酒粕を一度に手に取れる機会はなかなかないため、酒粕ファンの中には、一人で何種類も購入した人も!普段は酒蔵のある地域でしか手に入らないようなレアな酒粕は、早々に完売してしまうほどの盛況ぶりでした。
第1回KAS FESを終えて
さけかす子さんとゲスト酒蔵さんから、イベント開催後にご感想をお聞きしました。
さけかす子さん

「KAS FESでは、参加者の皆様がワクワクしながら酒粕を楽しんでいる姿を拝見し、日本酒だけでなく、酒粕にも関心を持つ方がこれほど多くいらっしゃることが大変嬉しく思いました。また、26種類もの酒粕が一堂に並ぶ機会はめったになく、私自身もその奥深い多様性を改めて実感する貴重な体験となりました。このイベントをきっかけに、「酒粕を日常に取り入れたい!」と思う方が増えていたら幸いです!」
「真上」茨城県・村井醸造 製造責任者・臼井卓二さん
真上の酒粕は、王道の板粕。噛むほどにまろやかな甘みと旨味が口内に広がります。クセが少ないので、かす汁はもちろん、そのまま焼いてチーズのように食べたり、料理のコク出しにも使える万能タイプ。シンプルだからこそ、アレンジの幅も広がります。

「イベント終了後、運営の木村さんや他のゲスト酒蔵さんとの会話で「女性が圧倒的に多かった」という話が出るほど、普段の日本酒イベントとは違う雰囲気でした。
また、酒粕だけを試してお酒は飲まない方も多かったので、粕メニューをさらに充実させるのも良さそうです。当蔵では奈良漬用の粕も作っていて、パートの女性が実際に漬けているので、それを提供するのも一案かもしれません。推しの蔵の粕を寝かせてから野菜を漬ける、そんな“時間をかけて楽しむ”体験を提案するのも面白そうです!」
「土田」群馬県・土田酒造 杜氏・星野元希さん
乳酸菌汚染という、インパクトのある製法が会場内でも独特の存在感を放っていました。しっかりとした酸味がありながらも飲みやすいお酒で、酒粕はほんのりとした酸味とぽろぽろとした形状が特徴的でした。

「今回のイベントは、ふだんの試飲会とは違い、来場者のほとんどが女性だったことにまず驚きました。「酒粕は売れるのに、お酒はあまり動かない」という予想外の展開にも思わずニヤリ。酒粕への関心の高さに驚きつつも、嬉しさを感じました。
会場では、酒粕とそれを生んだ日本酒がペアで紹介され、お客さまにも“お酒と酒粕のつながり”を感じていただけたのではないかと思います。中でも、さけかす子さんの酒粕サブレ(青のり味)は衝撃的なおいしさで、酒粕の可能性を改めて実感しました。酒蔵として、酒粕のポテンシャルを活かしきれていない現状には悔しさもありますが、逆にいえば、それだけ未来の広がりがあるということ。そんな酒粕の魅力を、これだけ多くの人と共有できる場をつくっていただき感謝します!」
「神蔵」京都府・松井酒造 代表・松井治右衛門さん
スパークリングの酒粕は、酒粕の固定概念を覆すようなふわふわとした口当たり。甘酸っぱい味なので、スイーツ感覚で、いつまでも食べ続けたくなるような酒粕です。大吟醸の酒粕は、吟醸香がしっかりと残り、上品な甘みが美味しくこちらも人気でした。

「お越しくださった皆様、ありがとうございました!酒粕の魅力を皆様に教えていただきました。料理の基本のさ・し・す・せ・その「す」は酢と粕だと言われる日が来そうな気がしています!今後規模を拡大していくのであれば、フードで粕汁を出したり、それをうどんやラーメンに広げてみたり、酒米でおむすびを作って定食のようにするのも良いと思います。フェスなので音楽入っても良いですね!」
まとめ
SAKE Streetでは今後も、酒粕の魅力を発信しながら、全国の酒粕を購入できる企画を展開していく予定です。今回のイベントに登場した酒粕の一部は、店舗やオンラインストアでも販売中なので、会場に来られなかった方もぜひチェックしてみてください!
筆者自身も、今回のイベントを通じて酒粕の奥深さを再発見し、いままで知っていたはずが新しい食品に出会ったような感覚にもなりました。酒粕の特徴に合わせて、クラッカーにのせて食べたり、料理のコク出しに使ったりと、自由な発想で酒粕を楽しんでみたいと思います!
この体験をもっと多くの方に届けられるよう、第2回の開催も企画中です。ぜひご期待ください!