【勉強会レポート】日本酒のテイスティング結果を実際の成分データと比較! - 官能のバイアスを学ぶ

テイスティングシートと成分・官能グラフ

「日本酒度が高いほど辛口、低いほど甘口」

「カプロン酸エチルが含まれているとリンゴの香り、酢酸イソアミルが含まれているとバナナの香り」

日本酒への理解を深めていこうとすると、耳に入ってくるこんな情報。しかし、人間の官能評価というのは、これらの数値や成分を正しく感じ取れるものなのでしょうか?

2024年1月、茨城県産業技術イノベーションセンターの協力のもと、SAKE Street社内で「日本酒の官能評価と成分分析に関する勉強会」を開催。ブラインド・テイスティングによる官能評価結果と、味わい・香りの成分分析結果を比較し、どのような差が出るのか、その原因は何なのかについて学びました。

目次

8種類の日本酒をブラインド・テイスティング

用意したのは、8点のお酒。半分は茨城県産、半分は他県産のお酒で、一部、SAKE Streetで取り扱いのない銘柄も含まれています。

今回の勉強会では社内のメンバーに加え、お付き合いのある日本酒業界関係者数名に参加してもらいました。それぞれのお酒をテイスティングしながら、シートに「香り・味の要素をどれくらい感じるか」を記入していきます。

テイスティング評価シート

項目は


●香り
  • ・カプロン酸エチル系(リンゴ、桃、パイナップル)
  • ・酢酸イソアミル系(メロン、バナナ、洋梨)
  • ・酢酸エチル系(セメダイン、ぶどう、柑橘)
  • ・高級アルコール系(油性マジック、オイル、花)

  • ・甘味
  • ・酸味
  • ・旨味
  • ・アルコール刺激
  • ・ボディ
  • ・余韻の長さ

    を4段階の強弱で評価していきます。

    静まり返るテイスティング会場の様子

    静まり返るテイスティング会場。みんな、真剣な様子です。

    「全部、ボディが“軽い”と感じるんだけど」

    「大根おろしみたいな香りはどこに丸をつければいいの?」

    などのコメントも聞こえましたが、果たして結果は?

    科学的データとプロの官能評価を比較!

    今回、サンプルとなる8点の日本酒を分析してくれたのは、茨城県産業技術イノベーションセンター主任研究員の飛田啓輔さん。農学博士、清酒専門評価者であり、SAKE Streetメディアの監修者でもあります。

    茨城県産業技術イノベーションセンター主任研究員・飛田啓輔さん
    茨城県産業技術イノベーションセンター主任研究員・飛田啓輔さん

    いよいよ結果発表! なお、香りはそれぞれの成分値を出していますが、味わいは


    • ・甘味:グルコース値の正規化値
    • ・酸味:滴定酸度の正規化値
    • ・旨味:アミノ酸度の正規化値
    • ・アルコール刺激:アルコール度数の正規化値
    • ・余韻の長さ:日本酒度の正規化値

    から算出しています。

    また、「ボディ」については、今回は仮に「アルコール度数、グルコース、アミノ酸度の正規化値の平均」と比較することにしました。

    香りは実測と官能が近い形をしているが、味わいに大きなズレがある。

    点線が実測値(専用機器による値)、実線がテイスティング参加者による官能評価の平均値です。

    こちらのお酒について、香りは、実測と官能がそこそこ近い形をしています。しかし、味わいには大きなズレが。甘味や旨味、それらに伴うボディを、実際よりも控えめに感じた参加者が多かったようです。

    味わいはほぼ一致しているものの、香りが大幅にズレている。

    こちらのお酒は、味わいはほぼ一致しているものの、香りが大幅にズレています。リンゴの香りがすると言われるカプロン酸エチルの値が大きいにもかかわらず、参加者はほとんど感じることができなかったようです。

    香りが控えめなことが読み取れつつも、味わいの強さの評価にズレが大きい。

    このお酒は、カプロン酸エチルを軸にしつつ、香りが控えめだということは読み取れたよう。味わいについては、甘味・酸味・旨味などのバランスは近いものの、実測値はより大きく出ていることがわかりました。

    意外な結果が大きな学びに

    スライドに映し出される結果に、参加者からは「おもしろい!」と感嘆の声が上がります。

    「カプロン酸エチル、『感じない』にマルしちゃった。こんなに多かったなんて」

    「やった、このお酒は結構実測値に近かった!」

    「アルコール度数、もっと低いと思ったのに意外……」

    外れてもどこかうれしそうな参加者のみなさん。正解を言い当てられるかということよりも、自分の官能のレベルや、実測値の意外性を学べたことを喜んでいるようです。

    数値を分析した飛田さんも「値として出ていても、実際に感じられないことはよくあるんですよ。また、測定時と少し味が変わったと感じるお酒もありました。温度やグラスなども影響しているはずです」と解説。

    レビューの後は、結果がわかった後のお酒をあらためて飲み比べながら、飛田さんに多くの質問が投げかけられる熱いひと時となりました。

    新聞紙が巻かれた酒瓶

    成分や味覚要素の数値的なデータと、人間の官能評価のギャップを明らかにした今回の勉強会。日本酒をお客さんに勧めるSAKE Streetのスタッフにとっても、自分の官能のバイアスを理解したうえで、情報を正しく、わかりやすく伝えることの大切さを改めて学ぶ機会となりました。

    今回は初回ということで、社内メンバーと一部の関係者の方にだけお声がけしましたが、今後徐々にメンバーを広げながら、さまざまな勉強会を開催していきたいと思います。お楽しみに!

     

    (ライター:木村咲貴)