日本酒飲むとき「クチュクチュ」する人なんなん?【日本酒ふしぎ発見】

テイスティングの様子

 

日本酒を飲むとき、「クチュクチュ」と音をたてる人、見かけたこと(またはあなた自身)ありませんか? なぜ、日本酒好きな一部の人たちは「クチュクチュ」したがるのでしょうか。

今回、「SAKE Streetメンバー VS クチュクチュする人」取材を敢行。なぜクチュるのか、クチュることで何が得られるのか、周りの人に嫌われないかなど、クチュクチュの神秘に迫ります。ぜひ、お手元に少量のお酒を用意し「クチュクチュ」する準備をした上でお読みください。

 

クチュる?クチュらない?日本酒のプロの実態調査

 

この取材のために呼び出されたSAKE Streetメンバー。左からメディア編集者の木村さん、店長のぽんさん、編集長の二戸さん。

この取材のために呼び出されたSAKE Streetメンバー。左からメディア編集者の木村さん、店長のぽんさん、編集長の二戸さん。

 

──今回のブログのテーマは「クチュクチュする人」です。まずは、日本酒販売に携わっている皆様にお聞きします。正直、不快な音に分類されると思いますが、「クチュクチュ」について、どうお考えですか?

 

(一同)……

 

──遠慮せずに。この場以外、誰にもいわないから。

 

木村:……たまに、いますよね。私は別に大丈夫なのですが……居酒屋さんで同行者がクチュクチュするのは、ちょっと心配になります。(周りの人が)大丈夫かなって。

 

ぽん:私は店頭で接客することが多いのですが、お店の角打ち(有料試飲)でもいらっしゃいますよ。

 

二戸:言いにくいのですが、僕はクチュクチュする気持ちがわかります。音を立てないように口の中で「エアークチュクチュ」をすることがあるので……。

 

紛れていた。

紛れていた。

 

二戸:いやいや、音は立てないですよ!静かです! ただ、なんだろう、クチュると味がよくわかる気がするんですよね。

 

──今回、日本酒を「クチュクチュ」するプロフェッショナルにお越しいただきました。クチュクチュについていろいろ聞いていきましょう!

 

プロの「クチュクチュ」はすごかった!

 

クチュ男、登場

 

──こちらが、クチュクチュ代表です。のっぴきならない理由で、本名はNG。本記事では「クチュ男さん(仮名)」とします。実はクチュ男さんは、有名な日本酒蔵で長年活躍してきた、日本酒のプロフェッショナルです。本日はよろしくお願いします。

 

クチュ男:あ、はい、お願いします。……僕は何をすれば……。

 

──プロの「クチュクチュ」を見せてください。

 

グラスを手に取るクチュ男

 

クチュ男:いいですよ。最初にいいますと、クチュクチュは「利き酒」をするときに行うものです。まずはグラスに注ぎ、色を見て。少し口に含みます。私の場合は必ず5mlですね。そして……

 

(音声注意。ぜひ音を聞いてください)

  

クチュ男:◯#△””+*△×%¥$!!!!!

 

!!

!!

 

日本酒を口に含むクチュ男

 

クチュクチュするクチュ男

「◯#△””+*△×%¥$!!!!!」

 

──すごい! 人間から発せられてると思えない、豪快なクチュクチュ音です。あえて文字にするなら「ギュッ、ギュッ」「ジュッ、ジュッ」「グキュ、グキュ」といったところでしょうか。顎を上下させながら、小気味いいテンポでクチュクチュされています。

 

木村:なんだろう……田舎の夜、森から聞こえてくる、何かの鳴き声に似ている気がします。

 

──飲んだグラスを秤に戻すと、ぴったり-5ml。「私はいつも、5mlでテイスティングしています」という発言通りです。プロすごい!!

 

みんなで「クチュクチュ」をやってみよう!

 

「本物のクチュクチュ」をレクチャーするクチュ男

 

──改めて、クチュ男さんに「本物のクチュクチュ」のやり方を学びます。

 

クチュ男:クチュクチュの本質は、お酒を揮発させて香りを取ることです。少量だけお酒を含み、口の中に貯めて、そこから勢いをつけて細かく吸う!

 

ジュッ、ジュッ、ジュッ、ジュッ、ジュッ!

ジュッ、ジュッ、ジュッ、ジュッ、ジュッ!

 

クチュ男:吸い込むことで揮発したお酒が、喉から鼻を通ります。これで香りを取ります。

 

やってみます。

やってみます。

 

木村:ゲホゲホッ!!!

 

むせる木村さん

 

ぽん:痛い! アルコールの刺激が鼻にきます!

 

怪訝な表情を浮かべる、ぽん店長

 

クチュ男:ジュッジュッ♪♪

 

すごい勢いでクチュクチュするクチュ男

 

二戸:ゲホッ、うえっ! 気管に入ってくる!

 

日本酒が気管に入った、二戸さん

 

クチュ男:ジュッジュッジュッ♪♪♪

 

ノリにノってクチュクチュするクチュ男

 

本物の「クチュクチュ」はすごい技術だった!

 

──すごいです、クチュ男さん。クチュクチュって、そんなに難しい技なのですね。どのようにして習得されたのですか?

 

クチュ男:酒蔵に就職して、先輩たちのテイスティングを見よう見まねで真似て、毎日行っていたらできるようになっていました。官能評価(テイスティング)とは、いつどのような状況でも、軸がずれないようにしなければいけませんから。

 

──クチュクチュは、遊びじゃないのですね。クチュクチュすることで具体的に何が得られるのですか?

 

クチュ男普通に飲んだだけでは気づきにくい「オフフレーバー」を見つけやすくなります。日本酒の中にはさまざまな味や香りの要素が含まれているのですが、それらは温度や保管状況、時間経過によってバランスを崩し、表出することがあります。すると、飲んだ人がその部分に気づいて「オフフレーバー」だと感じるのです。

私たち造り手は、お酒の各製造工程で官能評価を行い品質に問題がないかチェックし、次回の製造にフィードバックしたり、状態によってはろ過やブレンドによって酒質を矯正することがあります。またお酒ができた後も保管状態に問題がないかを、クチュクチュによって察知しているんですよね。

高い精度で利酒を行い、品質をチェックすることで、意図しない味の日本酒が商品として出ることを防いでいるのです。

 

クチュクチュの習得背景を語る、クチュ男

 

「クチュクチュ問題」を真剣に考えよう

 

──クチュクチュは、品質管理の技術。これは十分にわかりました。問題は、この独特の音が「居酒屋さん」で聞こえるという点だと思います。

 

クチュ男:私にとっては、仕事の延長なんですよね。商品が蔵を出た後の品質をチェックするのも大切な仕事です。蔵元自らが酒販店や飲食店を訪問して品質をチェックされる酒蔵もあるんですよ。もちろん、お店でクチュクチュうるさくする行為は、時に嫌われると認識しています。私、自社商品以外も(クチュクチュ)していますか?

 

木村:はい、クチュ男さんとお酒を飲んだことがあるのですが、(クチュクチュ)していましたよ。

 

クチュ男:……そうですか。体に染み付いてしまっているんだと思います。そういえば、昔同僚と飲みにいったら、みんなクチュクチュしてたなぁ。

 

昔を思い出すクチュ男

 

木村:このクチュクチュって、難しい問題ですよね。技術である反面、マナー違反ともいわれてしまう。日本では口を開けてクチャクチャと食べるのがマナー違反といわれるなど「音」が気になる人は多いと思います。でも、クチュ男さんのクチュクチュは「スナップ」が効いているので、ギリギリ「あり」だと思いますよ。

 

スナップが効いていればアリ

スナップが効いていればアリ

 

ぽん:まあ、ワインの世界ではあることですしね。蕎麦だって音を啜って食べますし、私はテイスティングだと思えば許容できます……。

 

──クチュクチュが必ずしもNGというわけではないのですね。

 

クチュ男:ありがとうございます。でも、わかってはいます。多分今後も、クチュクチュが市民権を得ることはないだろうなって。

それでも、日本酒に携わっている限り、僕のクチュクチュの癖は抜けないと思います。日本酒を飲むとどうしても「普通に感じる『先』の味わい」まで見たくなるんですよ。特に興味深い味のお酒に出会うと、「もっと知りたいな」って。お酒に対して目を凝らすような感覚です。

 

二戸:なんだかわかる気がします。僕も、日本酒を飲んでいて美味しいと思うと、口で転がしていろいろな味を探すことがあります。クチュ男さんのようなクチュクチュはできないのですが……。

 

隠れクチュの二戸さん。

隠れクチュの二戸さん。

 

クチュ男:いやいや二戸さん、クチュクチュに正解はないのです。常に同じ方法・同じ条件で日本酒を利くことで、異変を察知することがクチュクチュの本質です。僕は大きめの音がするクチュクチュですが、当然そうでない人もいるでしょう。自分にあったクチュクチュをすべきなのです。

 

──クチュクチュとは、日本酒と向き合う、日本酒好きの真剣さの表れ、なのですね。

 

クチュクチュ、したければしよう!

 

──結論。

①クチュクチュとは、利酒の必須スキルだ

②美味しい日本酒と出会うと、クチュクチュしたくなる

③居酒屋さんでのクチュクチュは、(多分)市民権は得られない

 

──クチュ瀬さん、今日はありがとうございました。最後にコメントはありますでしょうか?

 

クチュ男:今回は僕だけがクチュクチュする人でしたので、他のクチュクチュする人とも話してみたいですね。人によって音が違うんですよ、クチュクチュの。

 

──SAKE Streetの皆さん、明日からクチュクチュしますか?

 

二戸:僕はもうちょっと練習しなきゃですね。

 

ぽん:私も、練習してみます!

 

木村:ごめんなさい、私は大丈夫です。

 

──SAKE Streetの角打ちでは、もちろんクチュクチュする人も大歓迎です。気になる味にであったら、どうぞクチュクチュしてくださいね。

 

振り返る、Sake Streetメンバー

 

※他のお客様を少しだけ意識して、クチュクチュしてください。



(ライター:大久保)