誰がいつから言い出したのかわかりませんが、「うに」「このわた」「からすみ」を日本三大珍味と言うそうです。
いずれもお高いので、それなりに格調高い居酒屋の酒肴として出てきそうなイメージですね。今回は、この中の一つ「からすみ」に合う日本酒を検証します。
からすみにはどんなお酒が合うのか?
ポイント①からすみの味わいを分析
からすみはボラの卵を塩漬けにしたあと、塩抜きし、干して乳酸発酵させたものです。
甘味と酸味はほとんどなく、塩味とうま味が非常に強い味わい。チーズを思わせる乳酸の風味が特徴的です。アフターにほんの少しの苦味と魚介の生臭さが残ります。
ちびちびかじりながら日本酒を流し込むと、強い塩気とうま味がお酒を引き立て、同時にお酒がうま味を増幅させつつ臭みを消してくれる、まさに永久機関です。
ポイント②クラシックなお酒が合わせやすい
この手の塩気とうま味が強い伝統的なアテには、同じく昔ながらのクラシックな味わいのお酒が最適。ここはイメージ通りです。
派手さがなく、ゆるゆると飲める本醸造や普通酒であれば、お酒の甘味を引き出しながら、やや癖の残る口内をすっきりさせてくれます。この手のお酒は酸味が弱いので、そのあたりも相性が良い理由の一つ。
また、燗向けのどっしりした純米酒であれば、濃醇なボディがからすみの強いパンチを受け止めてくれます。これによって相互にうま味がアップする相乗効果を期待できます。
特に山廃造りや生酛造りの場合、特徴的な乳酸の味わいがからすみのチーズ的なうま味と相互に手をつないでくれるので、より融和しやすくなります。
ポイント③熟成やフルーティ・ジューシーという選択肢
さらに熟成による枯れた雰囲気、具体的にはソトロンという物質に由来する紅茶や焦げを思わせる風味とも好相性。からすみを少し炙ると香ばしさが増して、さらに同調性が高くなります。
なお、近年人気のフルーティ・ジューシーな生酒でも案外悪くないです。ただ、やはり若干の生臭さが口に残ってしまうのは否めません。日本酒の華やかな香りは魚介の生臭さを助長するのです。
からすみに合う日本酒5選
辨天娘 純米酒 山廃 玉栄 2017年醸造
見るからにクラシックなラベルですが、味わいも期待を裏切りません。質実剛健、完全発酵、旨味爆発。この酒はもうガンガン温度を上げて燗付けしちゃいましょう。65℃くらいでも全然いけます。
締まりがあってコシの強いボディが、このコラボレーションをしっかり支えます。味の濃さ、山廃ゆえの風味の同調、うま味の相乗効果など、全てにおいて完璧な組み合わせ。
なお、辨天娘の他のスペックでもほぼ同じペアリングができます。
大治郎 生酛純米 吟吹雪
辨天娘と同様のオーセンティックな銘柄。落ち着いた味わいで、しみじみ美味さを感じさせます。ほどよい熟成を経ていますので、枯れた味わいがグッときますね。
温度帯はぬる燗くらいが無難ですが、もっと高くてもOK。こちらもスペック問わず、同銘柄であれば問題なくからすみと合わせられますよ。
舞美人 純米酒 MYVY (酒粕再発酵)
酒粕再発酵という特殊な造りの変態酒。濃醇な甘酸っぱさが脳天を直撃します。とにかく味が濃いので、からすみもお酒も少量ずつ口に含むとちょうどいいです。ちびちび×ちびちびですね。
濃さが気になる場合は、適当に淡麗系など癖のないお酒と半々くらいでブレンドするのも楽しいです。
神蔵 にごり ひそか 活性 無濾過 無加水 生酒
にごり酒もペアリング相手としては有力候補。
魚卵のまったりした脂肪由来の柔らかいテクスチャーが、にごりのとろみと融和します。こちらのお酒は多少フルーティさもありますが、からすみと合わせても嫌な風味はほとんどありません。
開けたては発泡が元気なので、あえて開栓後数日たった後、もしくは燗冷ましでいただくと、よりテクスチャーで合わせる面白さを味わえます。
澤の花 辛口純米 花ごころ
サケスト取り扱いの中では、いわゆる淡麗辛口の代表格として非常に重宝する一本。
ややもするとクドくなりがちなからすみですが、辛口をウォッシュでさっぱりと合わせるのもいいですね。からすみの癖をすっきり流しつつ、中盤で米のうま味がからすみに追いつき重なります。
強めの塩気によって、隠れていたほのかなお酒の甘味が引き出されるのもポイント。
まとめ
そもそも日本酒の最高のお供である魚卵、しかもそれを発酵させたとくれば、ペアリングの成功は概ね約束されたようなもの。つまり、どのお酒でも大ハズレはありません。そこは安心してください。
とはいえ、せっかくのリッチなアテ。より美味しくいただくためには、やっぱり火入れした落ち着きのあるクラシックなタイプ、特に山廃・生酛系をお燗でチビチビいく昭和スタイルがおすすめです!からすみが手に入ったらぜひお試しください。