家庭料理の定番、筑前煮。鶏肉と根菜のうま味がじんわり染み込み、食卓にあるとほっと心が和みます。お惣菜コーナーにあるとついつい手が伸びてしまいますが、いざ日本酒を合わせようとすると、どれを選べばよいのか迷ってしまうもの。
そこで今回は、筑前煮の味わいを分解しながら、相性の良い日本酒を選ぶコツをご紹介します。
筑前煮の味わいを理解する
まず、筑前煮とはどんな料理なのか、改めて考えてみましょう。
醤油、砂糖、みりんで作る甘辛い味付けが基本。出汁は鶏肉と野菜から自然に出るものに加え、昆布や鰹、煮干しを使うこともあります。
また、根菜類の土の香りや、人参・絹さやの青みも重要な要素。これらの野菜の風味が、料理全体に複雑さと奥行きを与えています。
ポイント①甘味とうま味で同調させる
筑前煮の甘辛い味付けには、同じく甘味とうま味のあるお酒が第一候補です。
醤油と砂糖、みりんをベースとした和食では、この法則がほぼ外れることはありません。特に煮物においては間違いなく当てはまります。
味わいの方向性を合わせることで、料理の甘味にお酒の甘味が寄り添い、料理のうま味にお酒のうま味が重なります。これが日本酒ペアリングの基本である「同調」です。
なお、特にこの時期(本稿執筆時は10月下旬)なら、ちょうど旬の「ひやおろし」がおすすめ。ほどよく柔らかい甘味と、熟成によるうま味が加わったものが多く、筑前煮との相性は抜群です。
ポイント②酸味が強いタイプは避ける
例えば、ジューシーでキレのあるタイプ、爽やかなフレッシュ系、あるいは山廃仕込みで乳酸感がたっぷりあるタイプなど。これらは単体で飲む分には非常に魅力的なお酒ですが、筑前煮と合わせると、酸味が目立ちすぎてしまいます。
優しい甘辛味に異質な要素が入り込んだような、居心地の悪さを感じるのです。まるで穏やかな会話の輪に、突然大きな声で割り込まれるような感覚とでも言いましょうか。
伝統的な和食において、酸味はどうしても調和を乱す要素になりがち。もちろん酢の物や南蛮漬けなど、料理側に酸味がある場合は話が別ですが、筑前煮のような優しい煮物には、酸味控えめのお酒を選ぶのが賢明です。
ポイント③フルーティ系も面白い
「酸味がNGなら、フルーティなお酒も合わないのでは?」と思われるかもしれませんが、これが案外そうでもありません。
確かに酸味が前面に出るタイプは避けたいところですが、果実のような香りが、野菜の青臭さと親和性を持ち、野菜の清涼感など、これまで気づかなかった筑前煮の新たな魅力を引き出してくれます。

検証中の様子
筑前煮に合う日本酒5選
大倉 特別純米 加水火入れ 秋あがり
まずは王道のペアリングから。個人的にも毎年楽しみな大倉の秋酒です。
合わせてみると、最初はお酒の存在感がやや強めに感じられるかもしれません。しかし後半で米の甘味とうま味が出汁の効いた筑前煮と見事に同調してきます。
市販の筑前煮なら、めんつゆを少し加えて濃いめの味付けにすると、より相性が高まります。
燦然 特別純米 雄町 原酒 秋あがり
どっしり濃いけど安定感がある、頼れるお父さんのようなお酒。
雄町を使用したこちらは、米の持つポテンシャルを存分に引き出しています。原酒なのでアルコール度数も高めですが、その分、味わいに深みと厚みがありますね。
秋の味覚、芋・栗・かぼちゃとの相性も素晴らしく、筑前煮とは甘味とうま味で同調。酸味も控えめなのでスムーズに馴染みます。
温度帯はやっぱりお燗ですよね。秋だし。
会津娘 純米
派手さはないものの、優しくほっこりする味わい。
会津娘のリーズナブルなラインは、土の香りがする根菜類と抜群の相性を見せます。特にゴボウや人参との組み合わせを意識して味わってみてください。
価格も手頃なので、日常的に煮物で晩酌したい方には特におすすめ。
わかむすめ 薄花桜
これは意外性のあるチョイスかもしれません。酒スト取り扱いの中でもフルーティ系の最右翼なので、和食と合わせるイメージはあまりないですが、これに関しては合っちゃうんです。
シロップのような優しい甘味が料理の味わいとリンクし、香りも悪目立ちすることなく、独特の効果を加えてくれます。
冷やして飲むのが王道ですが、お燗にすると、より柔らかな味わいになるのでおすすめです。華やかさが優しさに変わり、煮物との調和が深まります。
まとめ
筑前煮に合う日本酒選びは、甘味とうま味を基本に、酸味を避けることがポイント。口当たりが優しいものが特に好相性です。そして、フルーティなタイプが合うことは予想外でした。騙されたと思ってぜひお試しを。
ちなみに、本当は燗映えしまくる「津島屋外伝 純米酒」がダントツで相性が良かったのですが、残念ながら今期は終売。また来年のリリースに期待しましょう。
【シリーズ:「スーパーやコンビニで買えるお惣菜」に合う日本酒はコレ!】




































