寒い季節に恋しくなるのが寄せ鍋ですよね。そして寄せ鍋に合う酒と言えば日本酒!
ただ、具材を寄せ集めて調理するという語源の通り、使う具材やスープにはルールも定義もありません。それだけに、どんな日本酒を合わせるべきかは非常に迷うところ。
今回はそんな寄せ鍋に合う日本酒を探っていきます。
検証にあたっては、最もベーシックな魚介出汁としょうゆベースのスープを使用します。具材は白菜、椎茸、えのき、長ネギ、鶏。ややあっさり系ですね。
出汁にフォーカスを絞る
冒頭でも書いた通り、多様な具材があるので、ペアリングを考えるにあたってどこから手を付けていいか混乱しがちです。そこで、一旦具材のことは忘れましょう。まずは出汁の味わいに着目して、そこから日本酒を考えていくのが賢明です。
魚介出汁の場合、鰹節や昆布などから引き出されるうま味が味わいの中心となっています。そのため、同じくうま味の強いタイプの日本酒が合いやすいです。一方で端麗辛口タイプは一般的にうま味が軽く、出汁の濃度とのバランスが悪いんです。要は物足りなく感じるってことですね。
基本的には火入れで、濃すぎず薄すぎず、日常酒として使えるような落ち着いたタイプがいいでしょう。
フルーティ系との合わせ方
落ち着いたタイプが合うのは分かった。でも、手元にはフルーティな酒しかない。またはフルーティな酒のほうが好きだから、そちらに合わせたい。そんなこともあるかと思います。
そんなときは、具材に香りの強い野菜、例えば春菊やセリなどを入れればOK。変わりダネでセロリやパクチーなんてのも面白いかも。さらに、薬味に柚子の皮を使ったり、ポン酢醬油をちょろっとかければ完璧です。
なお、香りがフルーティであっても、出汁を意識してうま味がしっかりしているものを選ぶとより同調しやすくなります。
酒の酸味について
フルーティなタイプはジューシーな酸味が魅力のお酒も多いですよね。また、落ち着いたタイプでも山廃などは、うま味だけでなく酸味も強い場合があります。
この酸味は同調という観点からすると味わいが浮く要因になりますが、寄せ鍋に欠けている味覚を補う補完(ギャップ)のペアリングと捉えると、ポン酢醤油と同様の効果が期待できます。酸味が加わることで五味のバランスが良くなり、後口がすっきりするんですね。
ただし、補完のペアリングであっても、お酒と寄せ鍋の双方に共通する味が少しだけあったほうが、味わいがリンクしてスムーズに調和します。
すなわち、ここでは酸味を料理側に足すということです。ポン酢しょうゆ、柚子果汁、黒酢などをほんの少しタレとして加えると格段に一体感が増しますよ。
喜量能 純米
まずは、もっともベーシックなペアリングから。
大治郎の畑酒造が造る辛口キレキレの日常酒です。落ち着いた味わいがシンプルに寄せ鍋と同調。酒のうま味が豊富な出汁と融和し、寄せ鍋のうま味をより引き立ててくれます。
飲んでいる途中で、酒を飲んでいるのか出汁を飲んでいるのかわからなくなりました(笑)。
杣の天狗 純米吟醸 うすにごり 生原酒
酸味はあまり強くなく、うすにごりのふわっとした柔らかいテクスチャー。この口当たりのおかげで優しい味わいの寄せ鍋とよく馴染みます。
ややパンチと複雑さがあるので、ポン酢をちょっと使うことで、さらに同調性が増していい感じになります。
風の森 秋津穂 807
精米歩合80%と低精白のためコクがあり、寄せ鍋の出汁のうま味と重なり合います。
ほんのりフルーティな含み香のおかげで、柚子の皮をちょっと乗せたときのようなアクセントが加わります。もちろん、実際に柚子の皮を使えばさらにマッチしますよ。
人気の風の森だけに同じスペックは入手できない場合もありますが、807の米違いの山田錦や露葉風などでも同じように楽しめます。
CHIMERA 特別純米酒
最後はちょっと変化球のペアリングです。酒自体も変化球で、3種類の麹菌と3種類の酵母をブレンドしたという珍しい造りですが、味わいは酸がジューシーかつトロピカルでしっかり美味しいんです。
ペアリングとしては酸を補完する方向性ですが、米の旨味も強いので、そのおかげでしっくりくるんですよ。言うまでもなくポン酢や柚子果汁とも相性が良いです。
まとめ
包括的に、なおかつ無難に合わせるなら、うま味がそこそこ強い火入れの日常酒を選びましょう。ちなみに殿堂入りしている「美寿々 本醸造」はさすがの万能っぷりで最高に同調してくれました。
フルーティな日本酒を合わせたい場合は工夫次第。香りの強い野菜や柑橘を加えることで相性が近づきます。
いくらでも好きにカスタマイズできるのが寄せ鍋のいいところです。もし、手元の日本酒ともう一つ合わないと感じたら、出汁を薄めるなり、逆にタレで濃くするなりしていけば、ちょうどいいバランスが見つかるはずです。自由に鍋を楽しみましょう!