SAKE Streetインターンの榎本です。
突然ですが、この記事をご覧になっている日本酒ファンのみなさん、「同人誌」って、知っていますか。
ざっくり説明すると、
「この趣味、文化が好き!」
「わたしの創作を見てくれ!」
「この熱い想いを、誰かと共有したい!」
というような想いを、個人やグループが雑誌というかたちで表現したものが「同人誌」です。
そして、同人誌には、日本酒をテーマにしたものもあるんです!
この記事では、日本酒をテーマにした同人誌を実際に書いている方と、同人誌のイベントを主催している方にお話を聞きながら、その魅力や、込められた想いに迫ります!
ちなみに筆者も同人誌を書いています
同人誌ってナニ?
はじめに、改めて「同人誌とはなにか?」を詳しく説明します。
同人誌とは、同じ趣味や嗜好を持っている個人やグループ(サークル)が、自分たちで資金を出して、執筆や編集、発行を行う雑誌のことです。
内容は、既存のマンガやゲームなどの原作をもとに、独自のストーリーを書いた「二次創作」や、オリジナルのマンガや小説、旅行記やエッセイ、軍事評論など多種多様です。
筆者所持の日本酒同人誌群
一般的な雑誌とは違い、出版社などを通さず自費で発行した本なので、街の本屋やネット書店などでは基本的に購入できません。
ではどこで購入するかというと、コミックマーケットに代表される頒布イベント「即売会」での対面販売や、専用の書店、オンラインショップを利用することになります。なんだか購入の仕方からも、ニッチ感が出ていますね。
そんなニッチ感に、同人誌のジャンル中でも少数派のテーマ「日本酒」を設定した日本酒同人誌では、日本酒のレビューやインタビュー、レポートなどが文章やイラスト、漫画などでまとめられています。
日本酒をタイプごとにレビューする同人誌、なんだか見おぼえのある店舗背景
「+SAKE Vol.8」/サークル名:白い追憶/WhiteWing
冷酒とお燗で飲み比べた結果をレポートする同人誌
「感謝燗ゲキ雨嵐」/サークル名:憂いの玉箒/かおる
酒場のレポート漫画も
「白熱のお歳暮」/サークル名:酩酊女子製作委員会/アザミユウコ
このように、日本酒への愛がさまざまなかたちで表現される日本酒同人誌ですが、一体どのような想いで作られ、どのような方に支持されているのでしょうか。
作家さんと、イベント主催者の方にインタビューを行い、日本酒同人誌を取り巻く熱意を探りたいと思います!
日本酒同人作家にインタビュー
まずは、実際に日本酒同人誌を制作・頒布している作家さんにインタビュー。ジャンル別のテイスティング記録や、日本酒イベントのレポートなどをまとめた同人誌を作っている、ricacoさんにお話を伺いました!
ricacoさんプロフィール
サークル「無節操倶楽部」代表。唎酒師、国際唎酒師、酒匠、SSI研究室専属テイスターの資格を有する、ガチの日本酒好き。
──早速ですが、いつから同人活動をされていらっしゃいますか?
ricacoさん:お酒の同人誌を発行し始めたのは2004年で、もうすぐ20年目です。自分でもびっくりですね。その前はセーラームーンや聖闘士星矢など、アニメの同人誌を書いてました。
──どういった経緯で、アニメから日本酒にテーマを変更したのですか?
ricacoさん:アニメ熱が冷めて、同人活動をやめていた期間があったんですけど、そこでお酒や料理などの評論系同人誌を見てみたら、すごく楽しくて、「また書いてみたいな」と思い、再開しました。
──唎酒師などの資格をお持ちですが、お仕事は飲食関係なのですか?
ricacoさん:いえ、普通の企業勤めです。日本酒同人誌を書いているうちに、もっと説得力のある表現を書きたいと思って取得しました。
ricacoさんの日本酒同人誌(一例)
──同人誌をつくる楽しさは、どこにありますか?
ricacoさん:まず、かたちにすることが楽しいですよね。絵を描くにしても、文章を書くにしても、それが本としてかたちになることが快感ですし、反応をもらえるっていうのもうれしいです。
──わたしも同人誌を作りますが、反応をもらえるのが同人誌のいいところですよね。
ricacoさん:中には、日本酒に詳しくないのに同人誌を買ってくれる方もいらっしゃって、そういう人を見ると、もっと美味しい日本酒を飲んでハマってほしくなったりしますね(笑)
──日本酒ファンじゃなくても買ってくれる人がいるんですか!しかし、実際に本を作るとなると、印刷代や在庫のリスクがあると思いますが、オンラインや電子書籍での配信などは考えたことはありませんか?
ricacoさん:ないですね。私が活動をはじめたころは、紙の本しかなかったので、印刷文化が染み付いてしまっています。あと、紙の本って、人にあげられるんですよね。イベントでお会いした方などに、同人誌を名刺代わりに渡せるのは魅力的だと思っています。電子書籍だとそれができないので、リスクがあっても紙の本にこだわっちゃいますね。
──とはいえ、紙の本を出版し続けていると、売上や印刷費など、お金の懸念があると思いますが……。
ricacoさん:もともと、自分が飲んだお酒の記録のつもりで、日本酒の同人誌を作りはじめたんですよ。それをちゃんとかたちにしようとした結果なので、そんなに収支を気にしていません。同人誌の値段もほぼ原価設定ですし、かなりの量を知人にあげるし、黒字になる要素がないですね(笑)
──同人活動をしていて、良かったことはなんですか?
ricacoさん:作っている最中は楽しいし、買ってもらえたらありがたいし、お話しできるとうれしいし、最初から最後まで楽しいです。反対につらいのは、締め切りが目の前に迫っている時ですね。
毎回「どうして、もっと早く取り掛かっていないんだ!」と反省しています。なんとか脱稿した後は「次は絶対こんなことにはならない!」とか、「なんなら、今からでも次の同人誌に取り掛かってやろうか!」って思うのにね。でも、それも含めて楽しいんですよ、脳内で変なものが出ているかもしれない(笑)
ricacoさんの同人誌、フルカラー印刷でレビューがさらにわかりやすいものに。
──同人活動の最終的なゴールや、なりたい目標はありますか?
ricacoさん:うーん、とりあえず今が楽しければ良いので、ゴールは特に設定していません。ただこの前、これまで書いたものをまとめた「総集編」の同人誌を出したときは達成感がありました。とりあえず、また総集編を出すまでやりたいとは思います。
──最後にひと言、メッセージをお願いします!
ricacoさん:日本酒同人誌を作ると、お酒を飲む楽しみと、同人誌をつくる楽しみが重なって、お酒がさらに何倍も楽しくなります。是非書いてみてください!
──ricacoさん、ありがとうございました!
イベント主催者にインタビュー
続いては、即売会の主催者にもお話を聞いてみましょう。お酒をテーマにした同人誌即売会『酒の本』を主催されている、門前仲町「ぽんしゅビルヂング」店長・ナガレさんにインタビューしました!
ナガレさんプロフィール
門前仲町ぽんしゅビルヂング店長。
酒場愛好家、日本紅茶協会認定ティーアドバイザーであり、執事でもある。日本酒好きで、持ち寄り会などのイベントを10年以上開催しているほか、執事喫茶やボーカロイド好きが集まるバーなどの企画経験もある凄腕仕掛人。2022年11月27日に、お酒をテーマにした同人誌即売会「酒の本」を主催。
──「酒の本」を主催されましたが、以前から同人誌やサブカル界隈に関心があったのですか?
ナガレ:はい、いわゆるオタクだったので、社会人になる前からどっぷり浸かっていました。高校時代にエヴァンゲリオンの同人活動が盛り上がっていたのですが、私は二次創作よりも、考察を書いている同人誌が好きで、コミケで買っていました。その後、飲食をテーマにした同人誌を知って、ハマって、今度はそれを目当てにコミケへ通うようになりました。これまでずっと買う側で、作る側になったことはありません。
──作ったことはないんですね!そんな、買う側だったナガレさんがお酒をテーマにした同人誌即売会「酒の本」を主催した経緯を教えてください。
ナガレ:2013年にスタートした「グルコミ」という、飲食をテーマにした同人誌の即売会に参加した際に、会場で調理や食品の提供も行っていて、「こんなことができるとは!」と衝撃を受けたんです。それ以来、会場でお酒の提供も行う、お酒をテーマにした同人誌の即売会を主催したい気持ちがありました。
ただし、保健所の衛生許可などの課題があって、なかなか実現はできなかったんですよ。それでも、2022年の7月からぽんしゅビルヂングの店長になり、会場と衛生面の問題がクリアできたので「よし、できる!やろう!」となりました。
──買う側から、作る側を経ずにいきなり即売会を主催するという立場になるというのは珍しい気がしますが、その立場を選んだ理由などはありますか?
ナガレ:以前、ボーカロイド好きが集まるバーなどを企画していたように、何かを好きな人に、その人たちが語り合える場を提供することが好きなんです。前提として、自分が「好き」を発信するよりも、人の「好き」を発信する場を作りたい、という想いがありますね。
そこで、20年以上追いかけていた飲食をテーマにした同人誌と、「お酒を誰かに紹介したい。飲んで、喜んでもらいたい」という想いを組み合わせた結果が今回の「酒の本」のイベントです。
──実際に「酒の本」を主催してみて、反応はいかがでしたか?
ナガレ:来てくださった方にアンケートをお願いしたのですが、基本的に好評でしたし、イベント終了後にTwitterなどで「こんなイベントあったんだ、行きたかった!」という声があったのがうれしかったです。
また、小規模だったこともあり、出展者と参加者の方が語り合う時間ができたことも好評でした。2杯目(2回目)は申し込みが増えると考えているので、会場フロアを広く見積もりつつ、引き続き、そのような「分かち合い」を応援できればと思っています。
「酒の本」の会場でもある「ぽんしゅビルヂング」
──「ぽんしゅビルヂング」で即売会を開催することで、普段同人誌を読まない方が、同人誌に触れるきっかけが生まれたのではないでしょうか?
ナガレ:それも「酒の本」を開催して良かった点ですね。決してサブカル系ではない飲食店で即売会を開催することで、異なる界隈に情報が広がるきっかけになったと思っています。
──最後に、2023年4月23日開催予定の「酒の本」2杯目に向けて、意気込みをお願いします!
ナガレ:初回は私自身、はじめての即売会主催だったので、実験的な面もあったのですが、2杯目からは本格的な開催ということでガッツリやっていこうと思っています!
ぽんしゅビルヂングは1階から4階までありますので、サークルの申し込み数によっては、建物をフルに、屋上まで使いたいと思っています。また、ゆくゆくはアフターパーティなど、出展者や参加者のみなさんが語り合える場も用意したいので、ぜひご期待ください!
──ナガレさん、ありがとうございました!
まとめ
日本酒同人誌を通じて、もともと好きな日本酒が、さらに何倍も楽しくなったり、人の「好き」を応援したい人によって、活動の輪がさらに広がっていったり。日本酒同人誌の世界は、マニアックながらも、優しくあたたかい想いがあふれる素敵な空間です。
筆者も日本酒同人誌を書いていますが、今回のインタビューを通して、自分の想いをかたちにする楽しさや、同人誌を通じた交流、熱意を共有する尊さを再確認することができました。
ちょっとでも興味を持った方は、2023年4月23日に開催予定の「酒の本」にお客さんとして参加してみてはいかがですか?「日本酒が好き!」の新境地が見られるかもしれませんよ。もちろん、わたしも出展します!
「酒の本」で振る舞われた1982年醸造の旧一級酒。かわいい。
ご協力いただいたみなさん
ナガレさん:Twitter
取材記事「サケスト酒が飲める店:第2回『ぽんしゅビルヂング』(門前仲町)」
ricacoさん:Twitter
サークル名:無節操倶楽部 掲載同人誌:「美酒物語」
WhiteWingさん:Twitter
サークル名:白い追憶 掲載同人誌:「+SAKE Vol.8」
かおるさん:Twitter
サークル名:憂いの玉箒 掲載同人誌:「感謝燗ゲキ雨嵐」