「大治郎」を代表銘柄として醸す滋賀県・畑酒造。銘柄が誕生した1999年から地元の契約農家が作る酒米のみを使っており、自社田での酒米作りも10年以上続けています。
価格高騰や高温障害など、さまざまな課題が山積する米作りですが、「大治郎」が愛情を込めて育てる酒米にはどのような工夫をしているのでしょうか。畑酒造・女将の畑 久美子さんに教えていただきました。
滋賀県のカメムシ伝説とは
昨年の夏は、カメムシをたくさん見かけ、「この冬は雪が多いぞ」という声をよく耳にしました。この「カメムシの雪」伝説は、私も滋賀にきて初めて聞きましたが、雪国ならではの、生活に大きく影響する積雪量に早めに備えたいという思いから生まれた言い伝えだそうで、実際にはカメムシの発生状況と大雪の相関関係はないのだそうです。
畑酒造では、大治郎ブランドを立ち上げた1999年から、原料米を全量契約栽培していただいております。2010年からは、酒米生産者グループ「呑百笑(どんびゃくしょう)の会」の一員として、自社田での栽培をおこなっています。
滋賀県の奨励品種である吟吹雪に加え、昨年は神力(別名:きりょうよし)の種もみが入手できたので、これも栽培を始めました。昨季の造りでは、契約栽培の山田錦・玉栄・渡船二号とあわせて5種類、地元産100%の酒米で酒造りをおこないました。
酒造りを終え、すぐに米づくりを開始

弊社では3月24日に無事に皆造を迎え、4月4日には最後の瓶詰め作業を終えました。そして4月8日からは蔵の片付けと並行して、さっそく来季の酒造りのために農業部門の仕事を開始しました。
まずは昨秋、酒米の収穫時に残しておいた神力の種もみについて、芒(のげ)の除去作業をおこないました。芒とは種もみの先端から出ているヒゲ状の部分のことで、神力や雄町など古い品種の特徴で、この後の播種(はしゅ)作業(=種まき)をスムーズにおこなうために除去しておく必要があるのです。ここで種を傷めないよう、きれいに脱芒することが、健康な苗につながります。

高温障害に負けない土づくり

また、年々高温障害に悩まされるなか、土壌改善に努力を惜しみません。特に新しく増えた田圃では、各田んぼの性格を知り、向き合うことが大切だと改めて思っています。休憩時間、スタッフたちの会話はとても穏やかなのですが、田んぼについて熱い想いを抱えているのを感じます。
5月初頭、肥料として、粒状ケイカル6トン分と、期間を空けて今年は鶏糞を6トン分まきました。肥料撒きから数日後には田圃の畦道の補修や草刈りなどをおこない、耕起作業も始まりました。何度も何度も往復し、土と肥料を混ぜ合わせ耕していきます。この作業には、土壌の保水力を高める、肥料の吸収効率を高め作物の根張りを良くするといった効果があります。
耕起の終わった田圃から、いよいよ畝立て作業です。トラクター2台が大活躍します。この畝立てにも、水はけや通気性を良くする、田んぼに水が入りやすくするといった効果があります。

この時期は、新緑が大変綺麗な季節です。緑のグラデーションの太郎坊山と、山裾に広がる田圃や畑。水の張られた田んぼに、夕焼けが映り、同じ一日でも朝昼夕と景色が変わるさまに、いつまでも佇んでいたくなります。
耕起作業、畝立てのあとは入水。田んぼに水を張り、「代掻き作業」といって、ふかふかの土壌に肥料を撒き、水が張られた田んぼの土を慣らしていきます。この時も天気予報を見ながらの作業。せっかく撒いた肥料が、大雨で田んぼの水が流れてしまうと台無しになるからです。
肥料撒きの農機具のひとつである動力噴霧器は、略して「動噴(どうふん)」と呼ばれています。搭載されたエンジンと肥料を背負って使うため、立ち上がる時に後ろに倒れることもあり(社長も経験ありです(笑))、亀がひっくり返ったような姿になります。「従業員さんが亀になっていないか、田圃へ様子を見に行ってきます」と出掛けていく様子に思わず笑みがこぼれますが、大怪我に繋がると大変ですし、暑い中はより注意が必要です。

動力噴霧器
価格高騰、入手困難。酒米の問題に向き合うために

5月25日からは田植えが始まり、6月4日にはすべて終えることができました。大小合わせて13枚ある田圃。最終日は田植えのイベントをおこない、参加者のみなさまに田圃1枚を手植えしていただきました。自社栽培の酒米は、今年も神力と吟吹雪の2種類です。
高温障害や価格高騰、さらに酒造好適米の確保の困難など、お米にまつわる問題は山積みです。弊社では、全量契約栽培で予定面積は作付けできたため、令和7BYの原料米は確保できました。酒米から食用米へシフトする農家も増えていると聞きますが、弊社の契約農家は前向きに作付けしてもらえると思います。高等級のお米づくりを目指しながら、これからは自社田での作付け面積を少しでも増やそうと考えています。
【酒蔵だより:畑酒造】
- 2023年秋:「自社田で作る「吟吹雪」。今年の米作りレポート」
- 2025年春:「熟成された日本酒の可能性を求めて - AS TIME GOES BYと、今期の酒造りについて」
- 2025年夏:「暑さと米の価格高騰にどう向き合う?土づくりから挑む、畑酒造 2025年の米づくり」




































