日本で一番チョコレートが消費される日、バレンタインデー。どうせならその日に日本酒も大量消費してほしい!というわけで、チョコレートに合う日本酒を探れという天からの厳命が下ったのでした。
え?チョコレートと日本酒なんて考えられない?いやいや、それがちゃんと合う日本酒もあるんです。
多くの日本酒と合わない理由
チョコレートは言わずもがな、甘くて濃くて主張の強い食材です。大多数の日本酒は繊細でボディが軽いので、とても太刀打ちできません。日本酒の味わいのすべてがチョコレートに押し流されてしまい、水を飲んでるように感じられるでしょう。
ならば、味の濃い日本酒であれば釣り合いがとれるのでしょうか。答えはYes。話は意外に単純で、質実剛健でゴツいタイプや古酒、貴醸酒などは比較的容易に合わせられます。
また、温度帯は高めの燗がおすすめ。それによってチョコレートが溶けて、口の中で酒と融和します。
チョコレートの甘味をどう扱うか
味の濃い酒は比較的合わせやすいのですが、それでも甘味が強いスイーツが相手だと、日本酒の持つ甘味が弱く感じられてしまうために、どうしてもバランスが崩れて味気なくなります。
これを避ける方法の一つは、もともと甘味が控えめのドライなタイプを選ぶというもの。山陰の完全発酵系の純米酒なんかにこういうタイプが多いですね。
もう一つ、若干反則気味ですが、燗酒にハチミツをブレンドしてしまう方法もあります。筆者は“ハチミツ燗”と呼んでいますが、おちょこにハチミツを2~3滴垂らして、そこに熱めの燗酒を注いでハチミツが溶けるまで箸などでかき混ぜるのです。
当然、甘味がブーストされますが、それによってチョコレートと張り合える甘味の燗酒ができあがります。
コーヒーをブレンドしてみる
チョコレートの大きな特徴として、焦げたようなフレーバーがあります。熟成酒や古酒にも共通の風味が含まれるため、これらはチョコレートと非常に相性がいいです。この焦げ味自体はオフフレーバーとみなされることもありますが、こういう場面では生きてくるんですね。
また、これも変則的なテクニックになりますが、酒に対してコーヒーを10%弱ブレンドすることで、焦げたフレーバーと苦味を添加し、チョコレートとリンクさせることができます。コーヒーを使えば、熟成されてない酒でも相性を近づけることが可能です。
加えるコーヒーはエスプレッソなど、なるべく濃いものがいいですね。糖分は添加されていてもOKです。それこそハチミツ燗と同じく、甘味が足される分には問題ありません。
酒も、なるべく濃醇で腰の強いタイプがいいでしょう。
それでは、このあたりのテクニックも踏まえた上でチョコレートに合わせたい日本酒を紹介していきます。
金鼓 山廃本醸造 火入原酒 2003年醸造
まずは基本から。酒ストで定番の古酒と言えばこれ!20年近い熟成を経た濃醇な味わいです。
焦げ味と苦みの部分でチョコレートとがっちりリンク。アルコール度数が19~20%とパンチの強い酒質であることも、チョコレートとの同調を後押しします。
この酒は、本醸造ということもあって、芯の部分でどこか軽やかさがあるんですよね。そのため、がっつり重い高級チョコレートよりも、カカオ分が軽めの手軽なチョコレートのほうが、より相性がよさそうです。
不老泉 山廃 純米酒 旨燗
「不老泉」の中でも、燗に特化した1本。フラッグシップの参年熟成などと比べると酸が穏やかで熟成感による癖が弱いため、お燗初心者にはもってこいです。
口当たりが柔らかいので、同じくマイルドな生チョコ(ガナッシュ)と好相性。ブラックチョコレートと合わせるのであれば、ちょっとだけコーヒーを加えてみてください。苦みと香りが足されてぐっと同調性が上がります。
楽の世 山廃純米 ゆめまつり 無濾過生原酒
がっつり濃くて甘味と酸味がしっかり。ブラックチョコにも負けないボディの強さがあります。融合するというよりも、バチバチに張り合う感じが面白いですね。
生酒ということもあって、通常はあまり燗をするタイプではないですが、チョコレートと合わせるなら燗のほうが香りが立って、カカオのフルーティな香りと絡み合うのが非常に楽しいです。
なお、今回は「ゆめまつり」で試しましたが、楽の世はどれも比較的キャラクターが似ているので、他のスペックを選んでも同じようにペアリングできますよ。
Beau Michelle BLISS
軽さと甘酸っぱさで大人気のBeau Michelleを仕込み水の代わりに使った貴醸酒です。当然甘味はかなり強いですが、このくらい甘いほうがチョコレートとの釣り合いが取れるものです。
ブラックチョコレートも悪くないですが、生クリームを混ぜ込んでいる生チョコとの相性が最高。とろりとしたテクスチャーもぴったりです。
こちらのお酒は年1の数量限定品なのでタイミングによっては入手しづらいかもしれません。その場合は、別の貴醸酒でも近い味わいを楽しめます。
舞美人 純米酒 MYVY (酒粕再発酵)
酸が際立つ変態酒の舞美人ですが、こちらは輪をかけて変態。酒粕を再度発酵させて作るという前代未聞の製法で作られています。最高。
香ばしさもある複雑な発酵臭とともに強烈な甘味と酸味が押し寄せます。実のところ、香りや甘味は同調するんですが、酸味が強すぎるために普通のチョコレートとは全く合いません。
ただ、オレンジピールや柚子、グランマルニエ(オレンジリキュール)など柑橘のフレーバーを加えたガナッシュと合わせるとその印象が一変。酸味同士が手をつなぎ、衝撃の味わいが生まれます。なにこれ面白すぎる……。
まとめ
ハチミツ燗とコーヒー燗は他のスイーツと合わせる際にも使えるテクニックなので、先入観は取っ払って一度試してみてください!
しかし、酒飲みでありながら実は甘いものも大好きな筆者なので、大体の想定はできていたのですが、MYVYの意外性にはやられました。
ちなみに、今回は傾向が全く異なるため補足的な検証に留めましたが、ホワイトチョコレートを粘度の高いにごり酒と合わせると、適度に酸を補完してくれる面白いペアリングになりますよ。こちらもお試しあれ!