一般的にはワインのおともとして親しまれている生ハムですが、燗酒との相性の良さは日本酒マニアにはよく知られるところ。有名な東京・大塚の29Rotieさんをはじめ、メニューに生ハムが加わっている燗酒系のお店もちらほら見かけます。
一口に生ハムと言ってもかなり多くの種類が存在しますが、日本国内で一般的に入手できるものは限られています。今回は比較的よく見かけるハモン・セラーノとプロシュート、そしてラックスハムを使って検証しました。
生ハムの種類
生ハムの種類をそれぞれざっくり説明すると、ハモン・セラーノは皮をはいでから塩漬けするために比較的塩味が強め。また、長期間熟成によってうま味が凝縮されており、食感はやや固くなります。
プロシュートはそれよりも柔らかくしっとりしています。塩味も幾分マイルド。
ラックスハムは塩漬けにした豚肉を低温燻製して作られます。このため軽い燻香が特徴で、熟成させないため味わいはシンプルです。スーパーでよく見かけるリーズナブルな生ハムは、ほとんどがこちらのラックスハムです。
ほとんどの日本酒が合う理由
正直、あまり深く考えずとも、ほとんどの日本酒はどの種類の生ハムともそれなりに合ってしまいます。
熟成系のハモン・セラーノと燻製系のラックスハムとでは味の深みとコクの点で全く別物とも言えますが、塩味の強さという点では共通しています。
この塩味の強さこそが、ほとんどの日本酒と合う理由なんです。塩辛などの例を挙げるまでもなく、日本酒は塩気が強いものと非常に相性がいいですよね。塩そのものを舐めながら酒を飲む人もいるくらいですし。
この塩味によって日本酒の持つ甘味が引き立つのです。これを対比効果と言います。
最適な温度帯
温度帯は圧倒的にぬる燗以上をおすすめします。温めることによって生ハムの脂肪分とうま味がほどけて混然一体となる感覚を味わえます。
燗がいいということは、選ぶべき酒も必然的に燗上がりするしっかりした醇酒ということになりますね。冷酒向けのフルーティ系や爽やかなタイプも決して悪くはないんですが、燗の素晴らしい同調性の前ではどうしても霞んでしまいます。
酸味について
なお、酸味の多少に関しては見解が分かれるかもしれません。やや酸が強めの酒の場合、ほぼ同調しているのに、妙に酸味だけが浮いてしまうケースがしばしば見られました。
強い塩味と酸味はいずれも尖ったイメージで口内でぶつかり合ってしまいます。このため、高い同調性や融和を期待するとチグハグに感じられる場合があるのです。
ただ、生ハムにはない酸味を補完しているという捉え方もできますし、脂身の多い生ハムであれば酸によって口の中をすっきりさせる効果も期待できます。まあ、ここは好みの部分も大いにありますので、ぜひご自分の舌で試してみてください。
大治郎 生酛純米 渡船六号
非常に骨格がしっかりしているため、熟成系生ハムの力強さにきっちり対抗してくれます。特に50℃の熱燗にするとハモン・セラーノの深い旨みと呼応して最高の組み合わせに。
しかし、チープなラックスハムとでは、この酒の複雑さが逆に浮いてしまいます。やはり、ある程度のランクの生ハムと合わせたいところ。
これ以外にも生酛系の大治郎であれば、いずれも同様に良いペアリングができますよ。
不老泉 山廃特別純米 原酒 参年熟成
不老泉の定番商品のひとつ。この酒において甘さがフォーカスされることはあまりないと思いますが、生ハムの塩気によって甘味がグッと前に出てきます。当然ながら燗推奨です。
大きく印象は変わりませんでしたが、どちらかと言えばハモン・セラーノよりも塩味を少し抑えたプロシュートのほうが相性が良かったかな。
Beau Michelle(ボー・ミッシェル)
とにかく甘酸っぱい!これが生ハムに合うのか?試すまでは半信半疑でしたが、やってみると意外に面白いんですよ。
ここまで見てきた同調のペアリングとは方向性が違い、白ワインと合わせたときのようなコントラストを楽しめます。生ハムにはない甘味と酸味が補完されることで絶妙な五味のバランスを作り出します。
冷酒ではラックスハムが合いますが、燗にするとハモン・セラーノなど深いコクのある長期熟成系の生ハムともうま味の部分でリンクしてよく馴染むようになります。
澤の花 辛口純米 花ごころ
甘味は控えめでドライですが、口当たりはマイルドなので抵抗なく喉の奥に流れていきます。主張しない酒のため、食材の邪魔をせずに寄り添うタイプのペアリングになります。
冷酒ではラックスハムのようなシンプルな味わいのものと良く合います。また、燗にするとうま味が増し、熟成系の生ハムとも好相性になります。
まとめ
しっかり熟成している生ハムほど、同様にどっしりして複雑な燗上がりタイプが合います。とくに生酛や熟成酒ですと味の性質が似ており同調しやすいです。リーズナブルなラックスハムだったらもう少し気軽に飲めるライトなタイプがおすすめ。
とはいえ、あまりシビアに考えなければ本当にどの日本酒でもそこそこ合いますので、気負わずいろいろなお酒でお試しください!