鰹の刺身・たたきに合う日本酒4選

そろそろ秋の気配を感じるこの季節、魚屋さんやスーパーには脂の乗った美味しそうな戻り鰹が並び始めていますね。

鰹は春と秋、年二回の旬を楽しめることもあって酒のお供としても人気です。そんな鰹にはどのような日本酒を合わせたらいいのか、詳しく解説していきます。

鰹と日本酒を合わせるのは意外に難しい

鰹のたたきのイメージ写真

鰹と日本酒っていかにも相性が良さそうなイメージですよね。しかし、実は難易度高めだったりします。もちろん、ぴったり合う酒もありますが、それ以上に合わない酒も多いのです。
なぜか。一番の原因は鰹の臭みにあります。

基本的に日本酒に含まれる有機酸は、魚介の生臭みの原因物質である「トリメチルアミン」を中和する作用があります。
(この辺りの話は鮪と日本酒の相性を解説したこちらに詳しいので併せてご参照ください。)

しかし、大吟醸など華やかでフルーティな香りを持つ酒、または濁りやおりがらみは逆に臭みを助長してしまうのです。実際に合わせてみれば分かりますが、ほとんどの方はイマイチだと感じるでしょう。

また、鰹の身は癖があって力強い味わいのため、酒もそれに合わせてパンチのあるタイプでないとバランスが悪くなります。

さらに、日本酒を日本酒たらしめている甘味もここではネックに。鰹と合わせると甘さがどうしても浮いてしまうんですね。

つまり、甘くて香りが華やかなタイプ、濁り・おりがらみ、もしくは軽快なタイプの日本酒は避けたほうが無難ということになります。

鰹の調理法

鰹の調理法も様々ありますが、今回はオーソドックスに刺身とたたきで考えます。

たたきは、身を炙ることで香ばしさが足されます。特に皮目の炙りが重要ですね。また、大葉、茗荷、生姜、ニンニクなどの薬味と共に食すことで課題である臭みが軽減します。この二点が大きな特徴です。

たれについては、ポン酢醤油が一般的ですが、実はこれも臭み対策としての意味があります。魚の臭み物質はアルカリ性のため、酢や柑橘など酸性の食品にはそれを中和する作用があるのです。

相性のいいお酒のタイプ

冒頭でも書いたように甘味はなるべく弱いほうがベター。日本酒度が高く、いわゆる辛口を標榜している銘柄は比較的合わせやすいです。

また、刺身にしろたたきにしろ、鰹の身には若干の酸味がありますので、これに合わせて、ある程度酸がある酒を選ぶと良いでしょう。その場合、ポン酢ともリンクするので、たたきの場合はさらに好相性となります。

酸と言えば「白麹」や「黒麹」を使ったものも面白いですね。これらにはクエン酸が多く含まれます。山廃などに多い乳酸とは違うタイプの酸です。乳酸は柔らかく太いイメージ、クエン酸は爽やかでやや鋭角的……このニュアンス、伝わるでしょうか。

クエン酸が多く含まれる食材と言えば、すぐに思い浮かぶのはレモン。鰹にレモンをかけることを想像してもらえれば、相性がいいことはお判りいただけるでしょう。

なお、基本的には生酒より火入れのほうが無難に合わせやすいですね。多くの生酒はどうしても甘さが出てしまうのと、搾ってから時間が経っているとムレ香と呼ばれる独特な香りが出ている場合があるので、その部分のケアが若干難しくなります。たたきであれば、薬味の香りがある程度ムレ香をマスキングしてくれますが、逆に言うと、薬味なしの刺身の場合、ムレ香が強い生酒では合わせるのが難しくなります。

では、これらを踏まえた上で具体的なお酒を紹介していきましょう。

不老泉 速醸特別純米 原酒 参年熟成


不老泉 速醸特別純米 原酒 参年熟成

不老泉の参年熟成と言えば山廃が定番ですが、こちらは速醸。不老泉らしいしっかりとしたボディもありつつ、なめらかで落ち着いた味わいは山廃よりもとっつきやすい印象です。

鰹と合わせると、力強いボディと酸が完全にリンク。少し甘味が気になるかもしれませんが、その場合は鰹のたれの酸を強めにしてあげればバランスが取れます。

流輝 純米 舟搾り DRY 一回火入

流輝は華やかでキャッチーな酒が多いイメージですが、こちらはかなり硬派な食中酒。その名の通りドライでやや硬質。ラストのキレのよさも、まさに鰹にはうってつけです。

鼻から抜けるアルコール感が若干あるんですが、鰹と合わせるにあたっては、それが臭みを飛ばしてくれてむしろプラスに働いてくれます。

大治郎 生もと 純米 吟吹雪

落ち着きがあって穏やか、そして力強い。まるで理想の父親像のような一本。生もとらしい主張しすぎないけれど複雑な酸が厚みのある旨味を支えます。

鰹の身の味わいの強さと酒の強度がぴったり同調するので、たたきでも刺身でも非常にバランスよくいただけます。安心感がありますね。

舞美人 純米大吟醸 無濾過生原酒

これは面白いですよ。
舞美人は酸がやたら強くて癖のある酒質が特徴。こちらの純米大吟醸もご多分にもれずその傾向にあるんですが、全体のバランスはちゃんととれていて、キメが細かくエレガントさすら感じさせます。個性的ながら、めちゃめちゃ良い酒ですね。

これを鰹と合わせると、まさに酒がソースに変貌します。誤解を恐れずに言えば、ポン酢醤油と同じような味わいなんですよ。キリっとしたクエン酸系の酸味で鰹の脂と臭みを流したと思いきや、後半で表れる乳酸の柔らかい旨みが、口の中で消えかけていた鰹の旨味を再びキャッチアップします。え?何を言ってるか分からない?じゃあ実際に試すしかないでしょう!

まとめ

鰹に合わせる日本酒は何でも良いわけではないことがお分かりいただけたと思います。
今回、検証してみて気になったのはやはり甘味。本文にも書いた通り、甘味の存在がどうにもペアリングの邪魔になります。というわけで、迷ったらいわゆる辛口の火入れを選んでおけば大体OKです。

また、今回紹介の4銘柄はいずれも燗にしても美味しいお酒ですが、甘味が出て柔らかくなるので、鰹に合わせるならキリっと冷やすか常温で

なお、鰹には春が旬の初鰹と秋が旬の戻り鰹があります。初鰹はあっさり、戻り鰹はもっちりして脂が乗っていますが、今回は戻り鰹に合わせて選んでいます。
つまり、初鰹にとってはやや濃い印象になるため、同じ酒を初鰹に合わせるのでしたら、たれを濃いめにして調整してみてください。煮切り醤油なんかを使ってみてもいいかもしれません。

酒井 辰右衛門

酒井 辰右衛門

J.S.A. SAKE DIPLOMA / 日本酒ペアリング研究家

ミュージシャンとして活動する中で、ひょんなことから日本酒に目覚め、一気に沼へ。 現在は日本酒と料理の相性を様々な角度から探るweb「日本酒ぺありんぐ総合研究所」の主宰として日々飲酒に励んでいます。食中酒としての日本酒の可能性を広げるために、およそ合いそうもないエスニックや洋食、スイーツなどとの相性を探るのがライフワークになっています。初心者向け日本酒セミナーの講師としても活動中。