秋も深まり、肌寒い日が多くなってきました。冷える夜には、温かいお燗酒が飲みたくなりますね。
個人的には、秋・冬は「熟成酒の季節だ!」と思っています。
同じように温めても、熟成酒とそうでないお酒を飲んだ感じって、なにか「違う」んですよ。
体の奥というか、心の奥というか、そういう部分からじっくりと温まって、「……美味い」という言葉が出てくる。
寒い日の熟成酒にはそんな魅力がある気がします。
というわけで今回は、寒い時期に楽しんでいただきたい熟成酒をいくつかのタイプに分けてご紹介したいと思います!
熟成酒の分類を「色」で考えてみる
熟成酒にもさまざまな味わいのものがあります。
1年熟成から何十年と熟成したものまで熟成年数の幅も広く、もともとのお酒にも普通酒から純米、大吟醸まで、加水火入れから無濾過生原酒まで……と無限にパターンがありますからね。
でも今回は簡単に分類してみたいので「色」だけで考えたいと思います。
先ほど挙げた特徴だと、年数が進むほど色が濃くなる傾向があります。
ただ、いわゆる「アル添」のお酒(本醸造、大吟醸など)はこの着色が進みにくい傾向にあると思います。
また、火入れのお酒や、生でも氷温貯蔵の場合などには着色が進みにくいです。
そして着色度と、香りなどに現れる熟成酒らしい特徴は、割としっかり比例します。
「熟成酒らしい特徴」というのは、ナッツや蜂蜜、醤油などのような香ばしさのある香りや、旨味・甘味の濃さ、などですね。
なので、熟成年数や元のお酒のスペックは全て無視してしまい、「色」だけで飲み分けてみよう、というのが今回ご提案したいことです。
※今回は各酒蔵で熟成させた商品のみを扱い、「自家熟成酒」のような特殊な環境での熟成酒は考慮しないこととします。
元のお酒に深みと柔らかさ加わる「ほぼ無色」の熟成酒
まずは、ほとんど色のついていない熟成酒です。
火入れだと純米なら1〜3年程度、アル添や吟醸系だと5年程度経ってもほぼ着色しないものもあります。
このタイプの特徴は「元のお酒の特徴がしっかり残っている」ということです。
熟成酒らしい香りや味わいの特徴はまだほとんど現れておらず、元のお酒の味わいに深みと柔らかさが加わった味わいになります。
飲み方は、ほとんどの場合で元のお酒と同じで大丈夫です。
冷酒で飲むことの多い吟醸や生などのタイプは冷酒で、山廃の火入れなどであれば常温やお燗で・・・という感じで同じように飲むことができます。
「元のお酒より温度を上げても美味しいかも」という点だけ覚えておくと良いでしょう。
たとえばこちらの「菊の司 髭BLACK」は、新酒のときにはやわらかい酸味に甘旨味が寄り添い、ブドウのような果実感もあるお酒でした。
1年の熟成を経て旨味がさらにしっかりと出てきて、重厚感が増しています。
新酒のときから十分美味しかったのですが、個人的には今の味わいの方が好みです……!
一升瓶限定商品ですが、常温でその辺に置いておいてゆっくり飲んでも、その間にどんどん美味しくなっていくお酒です。
熟成していないお酒はいろいろと飲んでみたけど、熟成酒のことも少し知ってみたい、という時に飲んでみるのがオススメなタイプです。
熟成感軽め、入門編として最適な「うすい黄色」
次に、少し着色の進んだお酒です。透明ではないけど、黄色とまでは行かないぐらいの色合い。
「うすい黄色」という言葉は格好良くないので、記事にあまり使いたくなかったのですが、でもやっぱり「うすい黄色」というのがいちばん分かりやすい感じの色です。
このタイプは透明のものと異なり、熟成酒らしさはちゃんと出ていますが、それが比較的軽めである、というのが特徴です。
先ほどご紹介したようなお酒も飲んで、もっと「本格的に熟成酒を知りたい!」と思ったらここから試してみるのが良いでしょう。
基本的には常温または燗酒で、熟成らしい香りや旨味を楽しみながら飲んでいただくのがオススメです。
「常温または燗酒」と書きましたが、「熟成酒の良さを知りたい」という目的で飲むときは、ぜひ温めて飲んでみてください。
こちらの「金鼓 山廃本醸造 火入原酒 2003年醸造」は、15年以上の熟成にも関わらず着色は少なめ。
こういう熟成の仕方をするのも、「アル添」の魅力だなあと感じます。
熟成酒らしい醤油やナッツのような香りのほかに、どこか木を思わせる香りが感じられます。
もともと酸味のしっかりしたお酒ですが、奥深さを増した旨味がきちんと追いついており、濃醇でもバランスが非常によく取れた味わいです。
余韻は控えめでキレがよく、高い度数(19〜20度)にも関わらず、柔らかさもあり飲み進めやすいお酒です。
しっかりと熟成酒を楽しむなら「ゴールド」
さて、いよいよ熟成酒らしい熟成酒です。熟成がしっかり進むと、お酒は見た目にも美しい黄金色になります。
熟成酒らしい特徴も全開になります。
もとのお酒自体にしっかりとした濃さがないとここまでの色は付きにくいので、味わいもとても濃醇です。
実は僕は、日本酒を飲み始めの頃はこのタイプはあまり得意ではなく、避けていました。
でも透明のものとか薄い黄色のものとか、あとで出てくるもっと濃い色のものとかを飲んでいるうちに、このタイプめちゃくちゃ美味いな!?と気付いた……という流れで好きになりました。
これを読んでいるあなたも、いつかめちゃくちゃ美味いやつに出会うはずです。(もう出会っているかもしれませんが。)
こちらも飲み方としては先ほどと同様、常温から燗酒で。
かなり濃醇なものも多いので、常温でも十分にその特徴や良さを楽しむことができると思います。
こちらの「舞美人 純米吟醸 常温熟成古酒 2015年醸造」は熟成酒らしいナッツや蜂蜜のような香りを豊かに感じ、味わいにもしっかりと甘味が出ています。
同時に舞美人らしい酸味も、甘味とあいまってボリュームある味わいを彩っており、美しく長い余韻が楽しめます。
SAKE Streetでも「舞美人」取り引きの決め手となった、完成度の非常に高い熟成酒です。
意外とここからハマる人も「琥珀色〜ダークブラウン」
最後にご紹介するのは「本当に日本酒?」と言われることも多い、濃い色合いのお酒です。
このタイプの特徴は熟成に加え、とにかく甘味と旨味が濃いこと、です。
先ほどのゴールド色以上に、元のお酒の濃さがないとここまでの色にはなりません。
もともとはドライさのあるお酒でも、ここまで熟成が進むと甘味もしっかりと感じられる重厚な味わいになります。
口当たりとしてもとろりとしたまろやかさが感じられるようになります。
クセのあるタイプではありますが、このように甘く柔らかい味わいのため、ふだん日本酒を飲まない人にも意外と好まれることが多いです。
ここから熟成酒にハマっていく人も結構いる、という気がします。
さてこのタイプは意外にも、冷やしても美味しいものも多いです。
もともとのお酒に甘味があるため、冷やすと軽さが出てデザート酒的な感覚で飲めるんですね。
もちろん、常温から燗酒も美味しいです!バニラアイスにかける、などの楽しみ方もありますね。
再び「舞美人」の紹介ですが、こちらは熟成年数は1年。
酒粕を再発酵させる過程で、熟成と同様の反応が進み、濃い色合いとコク深い味わい、熟成酒らしい香りがしっかりと出ています。
カラメルを思わせる香りにとろりとした甘さは、まさに「大人のプリン」。
先ほどご紹介した飲み方の他に、ロックやソーダ割(少しレモンを搾って)なども楽しむことができます。
まとめ
最初に紹介したお酒と最後に紹介したお酒は、ともに2019年醸造のものですが、特徴はかなり異なっています。
熟成を単純に年数で考えることが難しい理由でもあるのですが、今回ご紹介した「色で考える」方法は分かりやすいんじゃないかなあと個人的には思っています。
もちろん冒頭に書いた通り熟成酒にも本当にさまざまなタイプがあるので、特殊な環境での熟成や特殊なスペックのお酒などについては、この方法で判断すると外すこともあると思います。
それでも、覚えることが少なくて済むというメリットは大きいと思います。
この分類で熟成酒に親しみはじめてくれる方が少しでも増えるといいな、と願っています!
日本酒の熟成について詳しく知りたい、という方はぜひ弊社メディアに掲載した以下の記事も読んでみてください。
日本酒の香り成分とその表現方法について深く知っておこう! - 日本酒の香りを学ぶ(熟成香編)