プチプチ弾ける食感と濃厚な味わいが人気のイクラ。
寿司ネタやおにぎりの具、丼ものなどご飯と一緒に食べることが多いですが、単体で酒のおつまみにしても最高ですよね。
秋の味覚でもあり、北海道では9〜10月、本州では11月以降も旬が続きます。
今回は、そんなイクラと日本酒の相性について考えていきます。
イクラの食べ方
イクラは、多くの場合醤油漬けで食されます。塩漬け、味噌漬けなどもありますが稀ですね。
イクラ自体にはほとんど味がありません。わずかな旨味と生臭い油の風味、そしてほんのり磯臭さがあるだけです。そこに漬けダレによる塩味と旨味が加わることで、食べ慣れたあのイクラの味になるのです。生卵と醤油の関係に似てますよね。
このため、漬けダレのレシピは味を決める上で最重要と言っていいでしょう。
自家製で生筋子から漬け込むのでしたら、醤油はなるべく新鮮なものを、みりんは糖類添加されていない本みりんで、酒はなるべく癖の少ない純米酒を煮切って使いましょう。チープな料理酒やみりんを使うと台無しになりますのでご注意ください。
相性のいいお酒のタイプ
イクラの味わいは濃厚なため、酒もそれに合わせて濃醇なタイプを選ぶと同調させやすいです。もし手持ちの酒のほうがイクラに比べて弱いと感じたら、イクラに大根おろしを適量添えれば調整が可能です。
また、香りの強い生酒やフルーティなタイプは生臭さを助長してしまうことがあるため、香りが控えめな火入れのほうがベター。
火入れで骨太系といえば山廃が思い浮かびます。決して山廃が悪いわけではないですが、山廃に特徴的な乳酸が目立つタイプは難しいかもしれません。
イクラの醤油漬けの味の構成要素としては、塩味と旨味が主で、そこにみりん由来の甘味が加わっています。この上さらに強い酸味が加わると、ちょっと味の要素が多くなって、口の中がうるさくなってしまうんですね。
なお、温度については冷酒も悪くはないですが、常温以上のほうが油分がとけて、より酒と馴染みやすくなります。そのまったりとまろやかな食感に合わせて、ひやおろしやにごりなど滑らかな口当たりの酒を合わせるのも楽しいですよ。
では、具体的な銘柄をご紹介していきます。
燦然 特別純米 雄町 原酒 秋あがり
オーソドックスに合わせるならこれ。秋上がりならではの、まろやかな口当たりと雄町らしいふくよかで濃厚な旨味がイクラとぴったり調和します。燗にするとさらにふくらみが増して、この酒の良さが引き出されます。
大治郎 生酛純米 吟吹雪
力強く厚みのあるボディが濃厚なイクラの味わいをさらに高めます。わりとゴツい部類のお酒ではありますが、案外このくらいのほうがイクラとは合うのです。お燗で口当たりをまろやかにするとなお良しです。
また、立ち香にややアルコール感があるため、多少鮮度が落ちたイクラであっても臭みをマスクしてくれます。
菊の司 髭 VIVE 雄町 無濾過生原酒
キリっとした強めの酸が持ち味。上述したように生酒や酸の強い酒はやや難しいのですが、これに関しては良く合います。
酸味とのバランスをとるために甘味も強めに設計してあると思われますが、この甘味がイクラの脂肪分と手を繋いでくれるんですね。脂肪と甘味は相性がいいのです。
柑橘を思わせるジューシーさが後味をさっぱりさせてもくれます。
シン・ツチダ
精米歩合90%の実験的な造りで、乳酸と米の味わいを強く感じます。野趣に富んでいながら、どこか洗練されたバランスもある面白い酒。
冷酒だと酸の香りがイクラの風味と少しぶつかりますが、45℃くらいに燗をつけるとそれも緩和されて全体がまとまるため、よりマッチするようになります。
美寿々 辛口純米 一回火入れ
日本酒度+12というスペックの通り、ドライでスパッとキレます。魚介全般に合う酒ですがイクラも例外ではありません。
濃厚なイクラに対しては明らかに軽いんですが、これに関しては同調させるのではなく、もったりした口の中をスッキリさせる方向性のペアリングになります。
この鋭いキレを生かすためにも、キリっと冷やしていただきたいところです。
まとめ
イクラの醤油漬け単体に対しては、香りを抑えたどっしりとボディの太い酒を選んでおけば間違いありません。もちろん料理に加える場合は、もう少し軽くても大丈夫です。
なお、2021年11月現在、北海道で鮭(とウニ)が赤潮による深刻な漁業被害に見舞われたため、漁獲量が激減。それに伴って価格が高騰しています。
ただ、比較的安く入手できる冷凍ものや鱒イクラ(※)でも引けを取らず充分に美味しいので、ぜひ今回ご紹介したお酒と合わせてみてください。
(※)=鮭ではなく鱒の卵。粒が小さく、味の深みが若干足りないと言われます。