近年、海外でも日本酒の需要が増え、輸出に力を入れる酒蔵が増加しています。
今回の酒蔵だよりでは、愛媛県で「山丹正宗」を醸す八木酒造部8代目蔵元の八木伸樹さんが、2025年に訪れた国についてレポート。6つの国に関して、それぞれの国の日本酒事情やイベントでの様子について綴っていただきました。
山丹正宗の海外展開について
清酒「山丹正宗」醸造元の株式会社八木酒造部は2008年から海外輸出に取り組み、現在では売上全体の十数パーセントを占めています。 輸出先は中国、香港、台湾、韓国、タイ、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、フランス、ドイツ、カナダなどで、来年にはブラジルでの取引が始まる予定です。 今回は難しい話は抜きにして、昨年実際に訪れた各国での日本酒と食事情をお伝えしたいと思います。
シンガポール、マレーシア

マレーシアの国民的な朝食ナシ・レマ
シンガポールへは2010年から輸出しているのですが、当初と現在とで最も異なるのは日本食レストランの数です。2014年頃だったと思いますが、日本食レストランが爆発的に増えた時期があり、その頃から日本酒の充実度はかなりのものです。
ただ、現在は物価が非常に高く、酒税も高いので、ビール1杯が1,200円以上します。また、円安の影響で、日本へ旅行すれば現地よりはるかに安く高品質な日本食が食べられるので、シンガポールでは現地の高級和食レストランの閉店が相次いでいるそうです。
シンガポールには国際色豊かな食事が揃っているのですが、個人的には現地で有名なペーパーチキンという、鶏肉とタレを紙で包んで揚げた料理が絶品です。
マレーシアはイスラム教の国なのでアルコールの流通が制限され、日本酒の種類も多くない状況です。ただ、中華系の国民は普通に飲酒するので、これからまだまだ市場が拡大する余地がありそうです。マレーシアに行くと、国民的な朝食であるナシ・レマ(ココナッツミルクで炊いたご飯)が食べたくなります。
ドイツ

デュッセルドルフでのProWeinという国際ワイン・アルコール飲料展に参加しました。ヨーロッパ中から参加者が来るのですが、「日本酒はよく知らない」あるいは「日本酒をはじめて飲む」という方が思ったより多く、まだまだ認知度が低いことを思い知らされました。
夜は当然ビアホールでビール三昧ですが、そのシステムが面白く、空いたジョッキをそのままにしていると勝手に次のビールがきますし、テーブルで誰かがビールをお代わりすると勝手に人数分のビールがきます。それを防ぐためにはコースターをジョッキの上に置く必要があり、まさにわんこそばです。日本酒でも同じことができると面白いのですが。
韓国

生きた蟹をそのまま醤油漬けにしたカンジャンケジャン
今回初めて、Seoul Sake Festivalというイベントに参加しました。驚いたのは若いお客様(特に若い女性)が多く、かつ誰もがとても熱心に酒の説明を聞いてくれることです。当社のブースにもたくさんの人が立ち寄り、真剣に味見していました。韓国での日本酒ブームは本物だと感じました。
韓国は毎回、食べたいものが多すぎて絞り込むのに苦労します。生きた蟹をそのまま醤油漬けにしたカンジャンケジャンは、とろとろになった身と蟹みそをご飯に乗せて食べると最高です。また、超柔らかく煮た豚肉をキムチやニンニクなどと一緒にサンチュに巻いて食べるポッサムは、見た目は地味ですがあっさりしていて、サムギョプサルよりもたくさん食べられる気がします。
ブラジル

毎年サンパウロで開かれ、ブラジル中の日系人が集まるジャパンフェアに参加してきました。意外だったのは、流通している日本酒のコンディションの良さです。酒サムライでもある日系三世のファビオさんが、日本酒の低温管理の重要性を啓蒙して回り、輸送から保管、提供まで、きっちり低温管理される環境ができてきています。何より、もともとビールをキンキンに冷やして飲む文化のため、ほとんどの飲食店にビール用の冷蔵庫があり、日本酒もそこで冷やしてもらうことでどこでも劣化していない日本酒が飲めます。
また印象深かったのは日系の皆様の非常に温かい歓待です。特に愛媛県人会の皆様にはまるで家族のように迎え入れていただき、逆に故郷に帰ったかと錯覚するくらい居心地が良かったです。本当に遠い異国の地で、長い間苦楽を共にしてきたからこそ、家族や同郷の人々を大切にする気持ちが強いのだと思います。
中国

青島で開催されたJETRO主催の日本産酒類の展示会に参加しました。日中関係が急速に悪化して、浜崎あゆみのコンサートがキャンセルになった後、レーダー照射より前のタイミングでした。実際に訪れると反日の空気を感じることは一度もなく、展示会にもたくさんの方が来場し、日本酒への興味の強さを感じました。
今回初めて知ったのは、中国全土で、お店へのお酒の持ち込みを断ることが法律で禁止されたことです。それにより、ビールなどはお店で頼みますが、高級酒は持ち込むようになり、お店ではあまり注文されなくなったとのことです。これにより僕らも飲食店への営業がほぼ意味をなさなくなりますし、ネット販売の重要性がより増しそうな予感がします。
青島はその名の通り青島ビールの本拠地です。海に囲まれ、新鮮な魚介類が豊富で、あさりやあわび、イカ、さわらなどがとても手頃な価格で食べられます。ここで暮らすと、痛風まっしぐらです。
まとめ
今回は海外の日本酒事情をかいつまんでご紹介しました。 コロナ禍の中、非常に伸びた日本酒の輸出は、一旦落ち着きましたがまた伸長し始めています。
一口に輸出と言ってもそれぞれの国、地域で法も流通も習慣も全部異なります。それぞれの国に実際に訪れ、事情を踏まえた上で提案することでより地に足の着いたビジネスになりますし、何より自分の経験値が上がります。それをまた自社の経営や品質にフィードバックしていければと思いますので、引き続き山丹正宗のお酒をよろしくお願いいたします。
【酒蔵だより:八木酒造部】
- 2023年夏:「水もと仕込みに初挑戦した「山丹正宗 華帯」」
- 2023年秋:「水酛造り第2弾「山丹正宗 MINAMOTO」について」
- 2025年春:「蔵の柱。定番酒「山丹正宗 純米酒 松山三井」ってどんなお酒?」
- 2025年夏:「連続金賞受賞の裏にあった決断とこれからの酒造り」
- 2025年秋:「令和の米騒動下で迎える新たな酒造りの季節」
- 2026年冬:「世界6カ国の日本酒&グルメ事情を蔵元がレポート!」






































