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波乱の酒造りも挑戦のエネルギーになる!2026年のチーム福司、始動【酒蔵だより・福司酒造】

波乱の酒造りも挑戦のエネルギーになる!2026年のチーム福司、始動【酒蔵だより・福司酒造】

北海道・釧路唯一の酒蔵・福司酒造では、2025BYの酒造りが佳境を迎えています。原料米の価格高騰によって、製造計画への柔軟な対応を余儀なくされた幕開けのあと、定番新酒の品質改革や、他酒蔵との共同作業といった新しい取り組みも始まりました。

極寒の中、水やお酒が凍ってしまわないよう、蔵を温めながらの酒造りが求められる釧路。日々、試行錯誤を重ねながら造りにあたる製造部長・梁瀬一真さんのホットな想いを綴ってもらいました。

予測を超える米の値上がりに、波乱の幕開け

清掃の様子

2025年の残暑がまだ残る9月。東京・大手町で開催された「若手の夜明け」に参加する一方で、釧路の蔵では静かに仕込みの準備が始まっていました。この時期になると、不思議と身体も頭も“酒造りモード”へと切り替わっていきます。

福司の仕込み蔵は北海道、とくに道東・釧路では珍しい木造の土壁造り。地震の多い地域でもあるため、日々のメンテナンスには苦労しています。仕込みは毎年10月下旬から。その日を迎えるまでに、どれだけ蔵を綺麗に整えられるかが酒質にも影響すると考え、年々清掃にも力が入るようになりました。毎年繰り返している作業を行うことで、蔵全体の空気が少しずつ引き締まっていきます。

ただ、今シーズンは少し様子が異なります。例年であれば、この時期の話題は酒質設計や仕込み計画が中心になります。ところが今年は、その前に立ち止まって考えなければならないことがいくつもありました。

それが、全国的な米の価格高騰です。

洗米の様子

他の地域では蔵と農家が直接やり取りしているケースも多いと思いますが、北海道では、米の集荷や販売をホクレン農業協同組合連合会(以下ホクレン)が大きく担っています。 ホクレンは、北海道の農業を支える巨大な“まとめ役”のような存在で、酒米も食用米も、その多くがこの仕組みを通って酒蔵へ届きます。この体制のおかげで、2024年の米不足の時も安定して原料米を確保できました。

今シーズンは米の収穫が始まるころにホクレンから正式な価格が示されました。ある程度の値上がりは予想していたものの、想定を大きく超えていました。昨年度立てた原料米の予定数量から算出した金額に驚愕です。

製造のリーダーとしてどう判断すべきか、かなり悩みました。どの酒を、どの規模で、どう造るのか。あらためて一つひとつ見直さなくてはなりません。「例年通り」という言葉が、今シーズンは通用しない……。「日本酒業界全体が変わらなければならない年になるのだろう」。準備の段階から、そんな感覚を強く意識させられました。

コロナを越え、「さてここからまた頑張ろう」と思っていた矢先、米の価格高騰という大きな課題。地方の酒蔵にとっては、畳みかけられるような厳しい状況です。望んだかたちではありませんが、考えるべきことが一気に整理され、むしろ頭がクリアになった状態で、今シーズンが始まりました。

「すべて変えない」という判断で、今期最初の仕込みへ

蒸米の様子

米の価格高騰を受け、製造数量や精米歩合の見直しをおこない、少しでも製品価格の上昇を抑えられないか、製造としてできることを考え続けた準備期間でした。 一方で社長からは、「すべて変えるのではなく、目的のある酒は今まで通り造してほしい」という判断が示されました。良いものを、求められている酒を、きちんと世に出す。福司酒造が大切にしてきた地酒としての姿勢だと思います。

薄氷がはり始めた10月中旬、最初の米が蔵に届きました。
価格は例年の約2倍。同じ品種、同じ名前の米であっても、手に取った瞬間の重みは明らかに違いました。現場の空気も、どこかピリッとしています。仕込み初めの日、社長の挨拶のあと、製造に関わる全員にこう伝えました。

「原料のロスや無駄を、これまで以上に意識してほしい」

例年なら怪我や体調の話から始めるところですが、今シーズンはそれだけでは足りないと感じたからです。「近い未来、酒だけを造ればいい時代ではなくなるかもしれない。だからこそ、どうすれば酒を造り続けられるかを、全員で考えながら進もう」。そんな言葉とともに、今シーズンの仕込みが静かに始まりました。

しかし、いつまでも暗くならないのも、チーム福司の強みです。
2025年の夏の気候を振り返りながら、まずは今年の米の傾向を予測。日々の分析データをもとに、各部署で意見を交わしながら、米質に合わせて仕込み計画を細かく修正していきました。

今年の北海道産米は昨年度よりはやや硬めの印象。数値からもタンパクが多めと、夏の天候から考えれば予想どおりのコンディションです。仕込みはじめは小ロットでの調整をおこない、同時に搾りなど次の工程の準備も進めていきます。去年と同じやり方に頼らず、必要な部分を少しずつ見直す。大きく変えず、細かく調整する。それが造りの基本姿勢になりました。

新米で造る二つの新酒

活性清酒を郷土料理の「飯寿司」と

福司酒造の新米新酒は毎年2種類。12月に発売する活性清酒 純生と、1月のしぼりたて生酒です。どちらも地元・釧路では冬の訪れを告げる酒として親しまれており、「今年もこの酒が出るころか」と季節を感じてもらえる存在でもあります。だからこそ、製造を任される側として、発売が近づくとソワソワしてきます。

福司製造部では、休憩時間や夕方になると自然と打ち合わせが始まります。コーヒーを入れ、分析値を見比べながら、次の工程の話をする。そんな時間が、この蔵の日常です。 メンバーから出た意見の中で、良いと思うことはまずやってみる。今シーズンのしぼりたて生酒でも、例年はおこなっていなかった手間を、理由をきちんと説明したうえで理解してもらい、実行することになりました。

作業として“楽かどうか”ではなく、酒が良くなる理屈があるかどうか。そこに納得できるのであれば、やらない理由はありません。もちろん、その判断が本当に必要だったのかどうかは、仕上がりを見ながらきちんと検証していきます。そうした積み重ねが、チーム福司の酒造りです。

新酒第1弾「活性清酒 純生」

もろみを荒く濾し、活性を残しながらもその年の米の味わいを楽しんでもらうお酒です。酵母を残しているため、米の質に大きく影響されるお酒のひとつです。

今年は酸化を意識し、最小限の撹拌など例年以上にダメージを与えないことに注意しました。また濁り特有の重さも軽減する工夫をしています。

新酒第2弾「しぼりたて生酒」

ここ数年、模索してきたしぼりたての生酒。今年はその答えとして、飲み口が軽くすいすい飲める優しい酒質へと転換しました。麹造りを大きく見直し、細かな部分も更新することで、軽やかさの中に福司らしい味わいを持つ酒に仕上がったと感じています。

12月中旬以降、寒さとの闘いが本格化してきます。冷え込みが厳しい日には、蔵の中が氷点下になることもあり、ストーブをつけながらの洗米やもろみ管理をおこないます。作業後には水道の水をすべて落とし、凍結による破損を防ぎます。翌朝は、まず水を通すところから一日が始まる。「しばれる」という感覚もまた、北海道の酒造りのひとつの風景です。

今シーズンの挑戦と、仕込み後半戦へ

北の錦の南杜氏と

米の価格高騰をきっかけに、これまであたりまえだと思っていた前提が、次々と揺らいでいだ今シーズン。原料、人、設備、そして気候の変動など、酒造りを支える環境そのものが変化している。「何が起きるか」よりも、「起きたときにどう対応できるか」が問われる時代に入ったと感じています。 だからこそ大きく変えるのではなく、蔵としての“順応性”を少しずつ高めていくことを意識していく必要があるとも思っています。

そのひとつが、同じ北海道の蔵、「北の錦」を醸す小林酒造さんとのコラボレーションです。小林酒造さんは蔵の建て直しに伴い、今季は一時的に2月までの酒造りをお休みされることになりました。その期間に、原料と酵母をご提供いただき、私たち福司酒造で「北の錦」を仕込む。技術交流としての取り組みです。

かつて、蔵の技術は門外不出とされており、北海道の酒蔵でも技術交流は多くありませんでした。しかし、北海道産米は確実に良くなり、北海道のお酒も変わり始めています。その変化を個々の蔵だけで抱えるのではなく、横のつながりとして発信していく。そんな意図もあって、今回のコラボレーションが実現しました。

11月6日には、小林酒造の南杜氏が釧路に来てくださり、一緒に仕込みをおこないました。同じ機械でも、環境や目的が違えば使い方も変わる。意見交換をしながらの仕込みは、私たちにとっても学びが多い時間でした。さらに今回は、福司の考え方をベースに、五色彩雲で培ってきた技術も少し織り込みながら、自社商品ではまだやっていない造りにも挑戦しています。

各蔵で作業方法が異なるため、他の蔵の人間を中に入れ、酒造りの現場を見せることは、技術以前に大きな負荷になることもあります。 それでもこれからの時代、外部の力を借りながら酒造りを続けていく場面は増えていくはずです。今回のコラボは、技術だけでなく「受け入れる側の段取り」も含め、今後につながる貴重な経験になりました。

この時期は蔵が氷点下になることも

今シーズンもまだ途中。良い酒質に仕上がった新酒もあれば、断念した計画もあります。常に良いことだけではなく、表には出ない悔しい思いもあります。そうしたトライ&エラーが私たちの次のシーズンのエネルギーになります。 まだ終わっていないということは、新たな技術のリベンジだってできる。今までのやり方にしがみつくのではなく、必要な部分を少しずつ見直し、細かく調整していく私たちの造りの基本姿勢で、後半戦へと進みます。

 

【酒蔵だより:福司酒造】

【五色彩雲、福司】福司酒造(北海道)のお酒一覧はこちら

福司酒造さん

福司酒造

北海道のなかでも道東エリアでは、古くから残る酒蔵は2軒のみ。そのうちの1軒であり100年以上の間、地元釧路で愛され続けてきたのが福司酒造です。全国新酒鑑評会でも金賞常連蔵であり、地元での人気は実力に裏打ちされたものでしたが、これまでは製造量の90%以上が北海道内で消費されていました。 新銘柄「五色彩雲(ごしきのくも)」は、製法においても、味わいにおいてもこれまでとは異なる、次の100年を醸す挑戦の酒。炭鉱の町、漁師町で愛され続けてきた、淡麗辛口の「福司」とは一線を画す酒質で、道外の新たな飲み手も惹きつけています。

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