サクサクの衣、ジューシーな肉汁、ソースは二度漬け禁止!といえば?そう、串カツです。
串揚げと混同されがちですが、串カツは具材が肉、串揚げは何でもアリというのが一応の定義です(諸説あります)。串揚げだとバリエーションがあまりに豊富で的がしぼれなくなるので、今回は豚肉の串カツで検証したいと思います。
さて、串カツと言えばビールを連想する人が圧倒的に多いでしょう。日本酒を偏愛する私でさえ串カツ屋に入ったら、まずビール飲みてぇって思いますもん。しかし、日本酒には日本酒の得意分野があります。味わいの同調とそれによる旨味の増幅です。これがうまくハマれば、例え難敵・串カツであろうとも、絶対王者であるビールに全く引けを取らないペアリングを楽しめますよ。
串カツに合う日本酒を考える
方向性としては大きく3つあります。ひとつずつ見ていきましょう。
1.ソースに同調させる
串カツの味ってのは結局のところソースの味なんですよね(暴論かな?)。ですので、このソースの味に狙いをしぼって日本酒を選ぶのがペアリングとしては王道です。
ソースのレシピは店によって差がありますが、基本はウスターソースをベースにして、醤油や味醂、砂糖などで調整してあるものが多いと思います。
ここで注目すべきはソースの成分の多くを占める「酢」。つまり酸が強めのタイプがもっとも合わせやすくなるのです。
また、ソースはパンチが強いため、それと対峙することを考えるとボディや旨味はしっかりしているほうがベターではあります。とはいえ、酸がしっかりあるタイプであればある程度軽くてシャープであっても問題なく調和してくれます。
2.テクスチャーを合わせる
揚げ物と合わせるときの定番手法ですが、サクサクとしたクリスピーな衣の食感に炭酸による泡の刺激をシンクロさせます。つまり、活性にごりやスパークリング清酒を使うんですね。似た食感を重ねるだけで美味しくなるの?と思うかもしれませんが、これが面白いくらい調和するんです。
ただ、スパークリング清酒に多い、フルーティで甘いタイプだと合わせづらくなるのでそこは注意が必要です(甘い味付けのソースであれば何とかなります)。
3.油を流す
「ウォッシュ」という、読んで字のごとく油っぽさをすっきり流すペアリングの手法です。具体的には、甘味は控えめで酸味や苦味が強めのタイプを選ぶと良いでしょう。
酸味と苦味は後半のキレのよさにも関係します。いわゆる辛口と言われるタイプはウォッシュの効果を得られやすいですね。
これら3つのポイントをひとつ、ないしは複数組み合わせて考えることで、串カツに合う日本酒を見つけやすくなります。
ここからは実際に合わせてみて相性の良かったお酒と、串カツとの相性を解説していきましょう。
不老泉 純米吟醸 活性にごり 生原酒
ぴちぴちの炭酸が串カツの衣の食感と非常に近接しています。このテクスチャーの重なりに加えて若い酒でもあるため、そこそこの苦味があるんですね。これが油のしつこさを流してくれます。さきほど説明した「ウォッシュ」です。
不老泉らしくボディが太いため、パンチのあるソースの味わいにも負けずに真っ向から組み合ってくれます。
不老泉 山廃純米吟醸 原酒
同じく不老泉ですが、こちらは活性ではありません。紫ラベルと呼ばれる山廃の原酒。この蔵らしい骨太さはさすがです。ほどよい熟成感もあって、これがソースのスパイシーさと見事に合います。五味や強度の点でも同調性は高く、この酒に背中を押されて串カツの旨味が増すのです。
ちなみに、もっとワイルドな味わいのソースでしたら、これより少しクセが強い定番の赤ラベル(山廃特別純米 原酒 参年熟成)でも面白いかもしれません。
大倉 特別純米 協会8号酵母 無濾過生原酒
珍しい8号酵母を使ったお酒。この酵母は多酸系としても知られます。
開けたてはわずかに発泡しており、口に含むとまず衣の刺激と同調します。そしてすぐに目の覚めるようなフレッシュでジューシーな酸がソースの酸と手をつなぎ、最後には油をも切ってくれます。
上で述べたペアリングのポイント全てを兼ね備えているんだから、もうこれは文句なしですね。
菊の司 髭 VIVE 無濾過生原酒
もう1本、酸の強いタイプを。こちらは上の大倉ほど突出して酸が強いわけではないですが、それでもかなりジューシーなお酒です。言うなれば柑橘系日本酒。カツにレモンをかけるイメージに近いかもしれません。
変な話、串カツなしでソースだけ舐めてから飲んでみたんですが、これがまた最高なんです。貧乏ったらしいのは承知の上ですが(笑)。
金鼓 山廃本醸造 火入原酒 2003年醸造+美寿々 辛口純米 一回火入れ
最後はちょっと変化球を。
金鼓は完全なる古酒で、ソースのスパイシーさとの同調を狙ったのですが、さすがに酒のインパクトが強すぎました。そこで、スパイシーなニュアンスを保ちつつ味わいを薄めるために美寿々の辛口を1:1でブレンド。これが大正解。一気にソースとのバランスが良くなり、上手く融和してくれました。
なお、薄めるための酒は淡麗でクセのないものでしたら何でも大丈夫です。また、お好きな酒(落ち着いたタイプがおすすめ)に古酒を少量ブレンドする方向でも面白いですよ。
まとめ
自分でも驚いたんですが、串カツと日本酒がこんなに合うとは予想外でした。もちろんチョイス次第ではありますが。
ポイントとなるソースの味は店によって異なるため、必ずしも今回ご紹介の酒がぴったり合うとは限りませんが、いずれにしろ最重要ポイントは「酸味」です。ここを意識すれば多少の誤差はあっても何とかなると思います。ぜひお試しください。