「米本来の味わい」。お酒の感想として、耳にすることの多い日本酒用語です。
使用例:この日本酒、米本来の旨みがする。田んぼの風景が目に浮かぶようだ。
日本酒はお米から造られるお酒ですので「そんなものか」とスルーしていましたが、よくよく考えると「白ごはん味の日本酒」には、出会ったことがありません。それにもし、仮にごはんの味がするとして、「なら(わざわざお酒じゃなくて)白米食う」とはならないのでしょうか。SAKE Streetのぽん店長に、解説してもらいました。
ブログの後半では「田んぼの風景」にも切り込みます!
原材料へのこだわりが「米本来の旨み」?
──「超訳日本酒用語」のコーナーも3回目を迎えました。今回のテーマは「お米本来の味わい」です。この表現は酒屋さんの現場ではよく出会うワードなのでしょうか?
あ〜、聞きますよ。お客さんから「米本来の旨みが〜」のようなオーダーをいただくことは結構あります。また、酒蔵の方が使っているケースもありますね。
ぽん店長。このパーカーはKing Gnuの常田大希さんが主宰している「millennium parade」のライブで買ったそう。
──酒蔵の人も使うのですね。「魚本来の味がする寿司屋」みたいで違和感があります。
きっと、「お米にもこだわっている」ということを「米本来の味わいがします」と表現している場合も多いかなと思っています。ワインの世界では「ブドウ本来の味」といった言い方はよくありますけれど。
──なるほど。「米本来の味わい」ってつまり、「白ごはん」、になるのでしょうか?
炊きたてごはんの香りがふわ〜〜ってなる、そんな感じです。これは実際に飲んでもらえばわかると思います。それも「熱燗」がおいしいですよ!
米本来の味わいの日本酒を飲み比べ!
(左から)
──実は今回、「米本来の味わい」を実験するために、「白ごはん」を持参しました! ごはんを食べながらお酒を飲み、本当に同じ味がするのか確かめていきます!
常温では「???」。だけど温めると……
「大那(だいな)」「燦然(さんぜん)」「喜量能(きりょうよし)」が比較的似たタイプですので、まずはそちらを飲んでください。
──うーん……甘味が控えめで、麦とか草とか、香ばしい感じです。これが「ごはん味」なのかというと、ちょっとわからないです。特に「燦然」は匂いのクセが強くて、完全に「ごはん超え」してしまっています。
このタイプの子(=日本酒)たちは、常温のままだと「キュッ」としてますよね。これを、温めていきます。
SAKE Streetの店頭では「熱燗」もできます。
おまたせしました、熱燗を飲んでみてください。
──あれ? これは完全に「ごはんの香り」です。炊飯器を開けたときと同じです!
そうでしょう? 日本酒を温めると、それまでキュッとしていた味がふわ〜〜っとなるんです!
キュッと
ふわ〜〜っと!
──この3本の熱燗、とってもおいしいです。じわじわと旨みが広がります!
もうひとつ、違うタイプの「濁酒」も選んでみました。これは「お米の粒が残っている」もの。「米本来」というか「米」です。
──米が残っていると、それはもう「米本来」以外ないですね。飲んでみると……確かに「ごはんの粒と甘さ」があるのですが、それよりもヨーグルトみたいな酸っぱさがあります。まるで「ヨーグルトごはん」です。
SAKE Streetでは、この子たちが「米本来の味わい」の日本酒かなーと思います。「香りが炊きたてごはん」、「お米が実際に残っている」の2種類ですね。
ごはんとの共通点はあるけど、ごはん=日本酒じゃない?
──ぽん店長、「米本来の味わい」の日本酒を飲ませてもらいましたが、まだ納得できません。実は「ごはん」に必ず合う「ごはんですよ!」も持ってきていたのですが、これらの日本酒とそれほど合わないのです。
──「米本来の味=ごはん」ならば合うはず。「米本来の味わい」は「ごはん味」ではない何か別の味なのだと思います。
うーん……そうですね。米本来の味わいの日本酒って、何なのでしょう……。
米本来は「味」ではなく「香り」だけ?
あの……実は、それが「正解」なのかもしれません。
え、誰かいる
──あ、あの……
驚かせてすみません。私はSAKE Streetの二戸です。実は、最初からおふたりのやりとりを聞いていました。
──(なぜ、そんな端っこに……)
※二戸さんとは、SAKE Streetの創設メンバーで、自社メディアや本ブログを統括する、日本酒知識がハンパない系の論客です。
そもそも、日本酒の味わいには、発酵などによって出てくるさまざまな要素があり、お酒ごとに異なる組み合わせをしています。その中の、特に旨味に「炊きたてごはんの香り」がセットになることで「米本来の味わい」だと感じるんだと思います。
なんだか寂しそう
──なるほど、米本来の味わいとは「ごはんの香り」+「お酒の味」なんですね! 確かに「ごはん感」の上に、お酒ごとにいろいろな個性がある印象でした。二戸さん、ありがとうございます!
SAKE Streetでは試飲も熱燗もできますので、ぜひお試しください!
「田んぼの風景が見える」は本当?
──ちなみに、「米本来」の発展系として「田んぼの風景が見える」という表現もあります。それは流石に……嘘ですよね。
え、見えますよ。
千里眼?
──ここは東京都台東区ですよ。田んぼが見えるはずないでしょう。
実際に見えるというわけではなく「記憶が蘇る」なんですよ。
私はある酒蔵さんにお邪魔して、そこで使っているお米の田んぼを見せてもらったことがあります。すると、後日その蔵のお酒を飲んだときに「このお米は、あの(訪れた)風景の中で育ったんだな……」って感じるんです。実際に見えるのではなく、そのときの記憶を思い出し、飲みながら楽しむ、みたいな。
──完全にホラ吹きだと思っていたワードに、そんな素敵な側面があったのですね。では、同じような用語として「この品種の米が好き」というのもあるかと思います。山田錦とか、雄町(おまち)とか、お米の品種でお酒を選ぶ人も……。
いらっしゃいますね。私は「出羽燦々(でわさんさん)」という品種のお米が好きです。
──それって本当に「お米の品種の違い」がわかっているのですか? 本当に? 百発百中?
いえいえ、そうではなく、私の場合は「一番初めに好きになった日本酒」が、「出羽燦々」のお酒だったんですよ。だから詳しい違いまではわからなくても「やっぱり美味しいな〜」って感じるんです。今、私は日本酒専門店の店長をしていますが、「出羽燦々」はその原点となった、思い出のお米なんです。
──意地の悪い質問を繰り返した自分が恥ずかしいです。とても素敵です。
私は理論派ではありませんが、お米のことを知ると、日本酒への愛着が増すと思います。特に、おいしかったり楽しかったりした記憶と日本酒の味が結びつくと、お酒を飲むのがもっと楽しくなると思いますよ。
──ぽん店長、ありがとうございました!
まとめ
・米本来の味わいは「熱燗」だと感じやすい
・米本来の味わいとは「ごはんの香り」+「お酒のさまざまな味(特に旨味)」
・日本酒は「記憶」と結びつくともっと楽しい
おまけ
──煽る系のブログのつもりが、ぽん店長の素敵なコメントで終わってしまいましたので、二戸さんの「米本来の味わい」に関する考察を置いて終わります。
「米本来の味わい」という表現が生まれた背景には、日本酒特有の歴史が関係していると推測しています。第二次世界大戦中や戦後、深刻な米不足だった日本国内では、醸造アルコールやその他の添加物(甘味料や酸味料など)を加えて量産したお酒「三増酒」が出回っていたのです。その後、1980年頃から伝統的な純米の製法を評価する流れが出てきて、一部には「純米酒=いい酒」というイメージも広がりました。添加物の多い、淡白な味わいだった「三増酒」に対して、しっかり旨味やお米の香りを感じる酒のことを純米愛好家が「米本来の味わい」と呼ぶようになったのではないかと思います。しかしやがてこの純米を評価する流れも行き過ぎが起こり、「純米酒至上主義」のような考えも広まってしまいました。その弊害は大きく、本来は江戸時代から使われている日本酒造りの技術だった「醸造アルコール添加」のイメージが大きく毀損されてしまったのです。今でも日本酒の7割はアルコール添加のお酒であり、有名な「十四代 本丸」のように本当に美味しいお酒もそのなかには含まれています。これが正しく評価されないままでは、日本酒そのものも正しく評価されることはない。そう考えたわれわれSAKE Streetは、アルコール添加、つまりアル添の価値を再定義した新しい日本酒体験「すごいアル添」を開発し、業界に一石を投じたのです。このアイテムは純米酒とアル添酒、そして醸造アルコール(米焼酎)のセットという画期的なもの。しかもHARIOのショットグラス付き。飲み手は自らの手で純米酒に「アル添」を行うことで、プロのアルコール添加の技術を擬似的に体験できるのです。これぞ、体験に繋がる美味しさといえるのではないでしょうか。
アル添は悪?日本酒の「醸造アルコール」を正しく理解しよう
【シリーズ「超訳・日本酒用語」一覧】
①味が「ノル」って、どういうこと? 教えてぽん店長!
②日本酒の「辛口」ってどんな味? すっきり? ドライ? ぽん店長がバババーッと解決
③米本来の味って、どんな味? おしえてぽん店長!
④日本酒の「雑味」ってどんな味?お酒の”悪口”と真剣に向き合おう
⑤フルーティー・ミネラル・完成度の3本立て!〜代表・藤田が斬る〜
(ライター:大久保)