居酒屋の代表的メニューといえば焼き鳥、焼き鳥といえば日本酒!と言いたいところですが、ビールやハイボール、レモンサワーなどに後塵を拝しているのが現実ではないでしょうか。焼き鳥にぴったり合う日本酒がよくわからない、というのも要因の一つと思われます。
そんなわけで、今回から2回に分けて焼き鳥に合う日本酒を探っていきます。第1回目は「塩」。部位はオーソドックスな「もも」をメインに検証しました。
焼き鳥(塩)に合う日本酒のタイプ
一言で焼き鳥といっても、塩とタレでは傾向が全く変わります。甘味とコクがあるタレに対して塩の場合は淡白で、鶏の旨味をダイレクトに味わえるのが魅力です。
そこからセオリー通りに考えれば、軽くて淡麗な酒が同調しやすいのは間違いありません。
一方でパワフルで濃醇な酒だと、どうしても焼き鳥が負けてしまいますが、完全に避けるべきかといえばそうでもないのが面白いところ。もちろん限度はありますが、そこそこしっかりした酒であっても、少し苦味がありさえすれば意外とバランスが取れるんです。
実は焼き鳥(塩)において最も大きなポイントになるのは、焦げとそれによる苦味です。店によって焼き加減は変わりますが、炭火で強めに焼き色をつけて、あえて少し焦がしているところが多いですよね。
この焦げによる苦味と日本酒の苦味をリンクさせることでペアリングの精度が上がるのです。例えば、骨格がガシッとした、しっかりタイプの酒であれば、概ね苦味のアクセントもあるため調和させやすくなります。同様に搾ってからあまり時間が経っていない新酒も硬くてほのかに苦味があるのでおすすめです。
もうひとつ、酒の甘味も大事な要素になります。塩のみの焼き鳥には当然甘味はありません。つまり、焼き鳥にはない味覚を酒によって補完するのです。
今回検証してみて候補に挙がった酒の多くは、やや甘味の強いタイプでした。チョコレートや甘いコーヒーを思い浮かべるとわかりやすいですが、甘味と苦味の組み合わせはとても相性が良いんですよ。
なお、皮やぼんじりなどの脂っこい部位だと、より馴染みが良くなります。事あるごとに書いていますが、脂と甘味もまた鉄板の組み合わせなのです。
ところで、甘い酒といえばフルーティーな香りを持つタイプも多いですが、その場合、どうしてもその香りがネックになって今ひとつフィットしないんですよね。そんなときはレモンの出番。焼き鳥に軽くレモンを絞ることで、華やかな香りと酸が足されてグッと相性が近づきます。
総合的には柔らかいタイプよりも、若くて硬質・ミネラリーなタイプが合いやすいと言えます。やはり焦げの影響は大きいのです。
温度帯については、燗にすると概ねまろやかになってしまうので冷酒のほうが優位です。ただ、脂の多い部位を相手にするなら、高い温度による脂の融解を狙えるので燗も選択肢に入ってきます。
大治郎 純米うすにごり 生原酒
大治郎といえばパワフル濃醇系ですが、こちらは新酒でフレッシュさがあるぶん、うま味の力強さは少しだけ抑えめ。うすにごりのふくよかさを持ちつつも、骨格がはっきりしているため、きっちり筋が通った味わいです。
新酒独特のミネラル感とそれなりの苦味があって、塩の焼き鳥にはまさにうってつけ。テクスチャーががっしりしているので、砂肝やハツ、ナンコツなど歯応えのある部位と特に合います。
風の森 秋津穂 507
人気の風の森ですので、焼き鳥屋さんで見かけることも少なくありません。でも、人気だけで選ばれているわけではありません!(多分)。酒の濃さと焼き鳥の強度がぴったりなんですよ。香りも変に華美だったりはせず、とても使い勝手のいいお酒なのです。
イタリアンなど洋食とのペアリングでもよく使用されますが、それも納得のスイリッシュさ。レモンを搾って風の森を含むだけで焼き鳥が洋食に変貌します。
流輝 純米吟醸 桃色 無濾過生
通称「ももいろ」。低アルコールの可愛らしいお酒です。これが焼き鳥に合うとは筆者としても意外でした。低アルコールでパンチがないので、淡白な塩の焼き鳥にはむしろそれが奏功しています。
香りは強くなく、肉に対して甘味と酸味が補完されます。これによって味わいに立体感が加わります。レモンを搾るのもおすすめ。
Shirakiku vibrant 純米酒 無濾過生原酒
ブラックレーベルの名の通り、焼酎でよく使われる黒麹を使ったジューシーな一本。黒麹由来の柑橘系の酸味と複雑で凝縮感のある味わいがたまりません。
焼き鳥と合わせると、ほのかな苦みが焦げとリンクします。酸が少し強いので、焼き鳥にレモンをかける感覚でどうぞ。もちろん実際にレモンをかけるのもOK。さらに同調性が高まります。
流輝 純米 舟搾り DRY 一回火入
非常に洗練された辛口の食中酒。いかにも焼き鳥に合いそうな佇まいですが、実際合っちゃいます。意外にも口あたりはスムーズで、ややフルーティーなニュアンスもあるのが特徴。
うま味の濃さもぴったりで、軽い苦味とともに焼き鳥と同調した後、ドライなキレによって焼き鳥の脂をスパッと流してくれます。
奥琵琶湖 特撰
アルコール添加の普通酒ですが、侮るなかれ。実に素晴らしい酒です。
柔らかい甘味とボディの軽さが持ち味で、筆者が頻繁に紹介する『不老泉上撰』と基本的な味わいのラインは同じです。ただ、こちらは古酒をブレンドしているぶん、より複雑さと香ばしさを内包しています。この古酒感が焦げた風味と合うんですね。甘味の補完もあって全体的に好相性です。
まとめ
今回のキーワードはやはり「苦味」になります。ですから、コンビニやスーパーの焼きが弱いのっぺりした焼き鳥では合う酒も変わってしまいます。ぜひ本格的な焼き鳥屋さんのものでペアリングを楽しんでください。
なお、最後に載せた奥琵琶湖からヒントを得たのですが、今ひとつ合わなかった酒に古酒を少量ブレンドして風味付けをしてみたところ、焦げのニュアンスが加わり大正解。選んだ酒に物足りなさを感じたら試してみる価値はありますよ!