日本食ブームの影響もあり、日本酒の世界的ニーズが増えるのにしたがって、海外進出にも力をいれる酒蔵が増えています。2026年に創業300年を迎えた「神蔵」醸造元の松井酒造(京都府)も海外展開に取り組んでおり、売上に占める海外比率は年々増加しているそう。海外のコンテストにも積極的に参加し、最高賞であるプラチナ賞など数々の賞を受賞しています。
今回の酒蔵だよりでは、蔵元である十五代目 松井治右衛門さんに海外コンテストに挑戦する理由を綴っていただきました。
海外での受賞歴は「共通言語」になる

現在、世界各国で日本酒への関心が高まっているものの、多くの海外市場において日本酒は未だ「未知の領域」であり、消費者が自力で銘柄を選ぶハードルは決して低くありません。漢字で書かれた銘柄名や「純米大吟醸」といった特定名称の意味を直感的に理解できる消費者は限られており、現地バイヤーにとっても「どの酒を取り扱うべきか」の確固たる判断基準が必要とされています。
このような市場環境において、海外の品評会や国際的なコンテストにおける「受賞実績」は、言葉や文化の壁を超える共通言語として威力を発揮します。第三者(専門家)による客観的な品質保証は、現地バイヤーやレストランに対して強い信頼を与え、エンドユーザーの「失敗したくない」という心理的ハードルを取り除きます。ファーストコンタクトでの安心感を生み出し、試飲や購買へと誘導するための最も強力なアンカーとなるのが、受賞という事実です。
そういうわけで、当社では輸出に取り組む相手国におけるコンテストにはできる限り出品する方針を採っています。
2026年の受賞実績

2026年度の出品結果を見ると、ありがたいことに、主要銘柄が国内外のトップクラスのコンテストで高い評価を獲得しています。一部をご紹介します。
・「神蔵 純米 無濾過 無加水 生酒 ルリ」(IWC / Kura Master / Australian Sake Awards)
IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)における「ゴールド」および「京都・純米トロフィー」の受賞を筆頭に、フランスのKura Master・オーストラリアのAustralian Sake Awardsでも金賞を獲得。伝統的テロワール(京都)のストーリーと、高水準の品質が合致したフラッグシップとして評価いただいています。
・「神蔵 露花 スパークリング」(Australian Sake Awards / ワイングラスでおいしい日本酒アワード/ IWC / 東京酒チャレンジ)
オーストラリアにて「Sparkling部門 プラチナ賞」「Judge’s Choice賞(審査員特別賞)」、さらに「Cheesecake部門 Best Food Matching賞」の3冠を達成。国内でも最高金賞を獲得するなど、スパークリング日本酒としての完成度が国際的に証明されました。
・「五紋神蔵 純米大吟醸 無濾過生原酒 (黒)」
「五紋神蔵 純米大吟醸 無濾過生原酒 (白)」
「神蔵 純米 無濾過 無加水 生酒 クリア」
「神蔵 七曜 純米大吟醸 無濾過生原酒 中汲み」
フランスのトップソムリエが審査するKura Masterでの「黒」のプラチナ賞受賞をはじめ、各市場のニーズや飲み方に合わせた幅広いラインナップが国内外で評価されています。
・スピリッツ部門(TWSC / 東京ウイスキー&スピリッツ・コンペティション)
蒸溜事業に参入して4年目になりますが、昨年に続き、「オールドトム(ジン)」が最高金賞、「インブルーム(ジン)」は金賞を獲得。清酒醸造で培った技術力がスピリッツ領域へも波及していることを証明しています。
鑑評会との違いと日本酒を評価する新しい視点

業界内には、伝統的な全国新酒鑑評会を重視し、海外コンテストを軽視する向きが一部に存在します。しかし、これは「どちらが優れているか」ではなく、目的と機能の違いとして整理すべきでしょう。
全国新酒鑑評会は技術の研鑽を目的としています。鑑定官らによる厳格な「欠点の抽出」をベースとした、製造技術を測定する場。蔵の技術的基盤や品質管理の精度を高める役割を持ちます。
一方で、海外コンテストは市場での価値証明としての意味を持ちます。現地のソムリエ、シェフ、ディストリビューターらが、ワイングラスでの香りや現地の料理とのペアリング、日常のサービスシーンを想定して評価する場。「市場で愛され、売れる酒か」という実践的な完成度を測る役割を持ちます。
醸造技術の向上(鑑評会)と、現地での販売・ブランディングの促進(海外コンテスト)は両輪であり、海外市場を開拓する上では、現地の消費環境に寄り添った海外コンテストでの高評価が、ダイレクトに事業成果へと繋がります。
現地のプロフェッショナルが審査員を務める海外コンテストでは、日本国内の固定観念にとらわれない新しい価値基準が得られます。先日のメルボルンサケフェスティバル(Australian Sake Awards)で「神蔵 露花 スパークリング」が獲得した「チーズケーキとのペアリング(Best Food Matching賞)」は、その象徴的な事例です。
日本では「和食や出汁との相性」で語られがちな日本酒ですが、現地のソムリエは「濃厚なチーズケーキの油脂分やコクを、スパークリング日本酒の炭酸と甘酸が美しく洗い流し、引き立て合う」という立体的な相性を見出しました。
これは、単なる食中酒にとどまらず、西洋食文化においてブランデーやウイスキー、甘口ワインなどの高価格帯の酒がひしめく領域である「食後酒(ディジェスティフ)」への進出可能性を拓くものです。審査員であるソムリエたちが発するテイスティング表現やペアリングの提案は、現地の飲食店やディストリビューターへの営業トーク、ならびにイベント時の試飲コンテンツへそのまま展開可能な「生きたマーケティング素材」となります。
海外でのブランド力を高める投資として
海外コンテストへの挑戦と受賞は、単なる賞状の獲得ではなく、「プロによる客観的な品質保証」「現地の食文化に応じたストーリーの獲得」「現地バイヤーの営業力強化」を同時に実現する極めて費用対効果の高い投資だと言えます。獲得した受賞実績と、そこから得られた現地ならではの価値判断(ペアリングや利用シーンの提案)を統合し、現地の流通ネットワークやSNS、店頭販促物(首掛け・POP)へと還元していくことで、海外におけるブランドポジションはさらに強固なものとなっていきます。
海外市場に取り組む酒蔵は増えています。その中で、現地の食文化を知り、日本酒の居場所を作るために、海外の日本酒コンテストは大きな役割を果たしていると言えるでしょう。
【酒蔵だより:松井酒造】
- 2023年8月:「中学生の職業体験を受け入れて」
- 2023年10月:「京都から世界へ。観光都市の酒蔵として思うこと」
- 2023年11月:「ゲームやアニメと日本酒のコラボ可能性」
- 2024年1月:「ジン&ラム参入で、日本酒とシナジーを生み出す」
- 2024年3月:「『これからの1000年を紡ぐ企業』として、酒造りの伝統と未来を考える
- 2024年8月:「年30回参加!日本酒イベントの醍醐味とは」
- 2024年11月:「海外出張でみえた日本酒の現在」
- 2025年1月:「「神蔵」のデザインに込めた想いと工夫」
- 2025年4月:「無形文化財登録後に見えた意識の変化」
- 2025年7月:「理想を追求して生まれた美しいスパークリング清酒」
- 2025年10月:「寒造りから四季醸造へ。変わりゆく環境と変わらない想い」
- 2025年12月:「“かっこいい日本酒業界”を目指して。創業300周年の先にある冒険」
- 2026年5月:「伝統とは、データの蓄積である。AI時代の酒造りで蔵人がすべきこと」
- 2026年9月:「海外の受賞歴は言葉の壁を超える。神蔵が世界のコンテストに挑み続ける理由」









































