地下鉄日比谷線にて、上野と北千住のあいだにある三ノ輪駅から徒歩3分。青い壁に白い暖簾が目印の「かえし酒場 沁 -Shimiru-」は、その名のとおり、和洋さまざまなメニューのすべてに、50年継ぎたしてきた蕎麦の「かえし」を合わせた出汁を使っています。
お店を切り盛りするのは、ドリンク担当の高橋守任(もりとう)さんと、料理担当の弘子さん夫妻。

高橋弘子さんと守任さん
「私の祖父母が、50年前に森下で蕎麦屋を営んでいたんですが、30年前に店を閉めた後も、『いつか孫に店の味を継いでもらいたい』と、かえしを継ぎ足してきたんです」(弘子さん)
かえしを継ぎ足すのはなぜかお婿さんの仕事になり、祖父から弘子さんの父、そして守任さんへ引き継がれていきました。
「私は記憶にないんですけど、小さいころ、お店でお盆を運びながら『将来はお蕎麦屋さんになる』って言っていたらしいんです」と微笑む弘子さんは、自然と飲食の道へ進みます。そして2024年、守任さんも前職を辞め、夫婦でお店をオープンすることに。三代にわたり引き継がれた味は、蕎麦屋ではなく居酒屋としてよみがえることになりました。

お通しにはそのまま飲めるかえし出汁がつく
この日のお通しは、小松菜のごま和え、そら豆の変わり揚げ、そしてかえしを味わう出汁の盛り合わせ。50年もののかえしと聞くと濃厚な味を想像しますが、驚くほど優しい口あたりで、合わせた鰹出汁の香りがふわっと抜けていきます。
小松菜のごま和えに使われているごまだれも蕎麦屋時代から受け継いだレシピで、「ごまだれに麺をつけて食べるスタイルを祖母が流行らせ、それで家が建ったと聞かされました」という驚きのエピソードも。
そのごまだれを令和風にアレンジしたのが、人気メニューの「和牛の炙りカルパッチョ」。バーニャカウダソースを思わせるコクのあるタレが、牛肉の旨味を引き立てます。

和牛の炙りカルパッチョ(Sサイズ980円)
合わせるのは、福島県・豊国酒造の「一歩己 純米吟醸 生」。美しくも深みのある酒質が、牛肉のぽってりとした甘みを受け止めてくれます。

豊国酒造「一歩己 純米吟醸 生」
「酒蔵ツーリズム協議会の会員になったとき、事務局の方からサケストを紹介してもらったんですが、オープン当初の一年は頻繁に通っていました。試飲させてもらったら、全部のお酒がおいしくてびっくりしましたね。
中でも衝撃を受けたのが『一歩己』なんです。ひと言で言うと──うまい(笑)。旨味があって、バランスがよくて、うちの料理に合わせやすいんですよ」(守任さん)
酸味のある日本酒が好みで、山廃や生酛も好きだという守任さん。カウンター正面の「人生の深みを味わう 30歳からの熟成酒」というユニークなPOPにも、サケスト酒がラインナップされています。

熟成酒として不老泉、辨天娘、大治郎がラインナップ
せっかくなので、2杯目は熟成酒をお燗にしてオーダー。合わせるのは、「竹鶏たまごのかえし出汁びしゃびしゃオムレツ」という、なんとも気になる名前のメニューです。
「いわゆる、“巻かないだし巻き”です。僕が卵料理が得意で、もともとオムレツを出していたんですが、お客さんから『出汁が美味しいんだから、だし巻きにすればいいのに』と言われて。オムレツに出汁をかければ、口の中でだし巻きになるんじゃない? というアイデアから生まれました」(守任さん)

「竹鶏たまごのかえし出汁びしゃびしゃオムレツ」(980円)
黄色い半月型の美しいオムレツに、50年物のかえしを使った出汁をたっぷりとかけて、いただきます!
とろとろのたまごと出汁が絡んで、まさに「飲めるオムレツ」といったところ。40℃のぬる燗にした「不老泉 山廃仕込 純米吟醸」(滋賀県・上原酒造)と合わせると、ミルキーな旨味が出汁とたまごに混じり合い、優しく体に馴染んでいきます。

店内に流れるサザンオールスターズは、「お客さんがかしこまらないように」という理由で選曲したのだそう。地元のお客さんが多いというとおり、世代を超えてくつろげる雰囲気に包まれています。
家族三代が受け継いできたかえし出汁が生み出す余韻に、お酒がじんわりとしみこんでいく感覚は、まさに店名の「しみる」そのもの。おいしさだけでないしみじみとした心地よさに、腰を上げるのがつい惜しくなります。
店舗情報

かえし酒場 沁 -Shimiru-
所在地:東京都台東区三ノ輪1-9-4 久保木ビル 1F
電話番号:03-6802-4814
営業時間:17:00〜23:00、日曜16:00〜21:00
定休日:火曜日
Instagram:https://www.instagram.com/kaeshi.shimiru
不老泉 山廃仕込 純米吟醸
オムレツと合わせていただいた日本酒。
香りはふくよかで、青々しい井草を思わせる爽やかさにミルキーなニュアンス。ほのかに穀物のような香ばしさも感じられます。
口に含むとなめらかなテクスチャーで、ほどよい甘味とふっくら芳醇なお米の旨味がじんわり広がります。やや熟れた果実を思わせる甘さもあり、奥行きのある味わい。アルコール感も程よく、全体を引き締める良いアクセントに。ボリューム感ある旨味が楽しめる1本です。
常温でも美味しいですが、ぜひ燗酒でも◎
【シリーズ:サケスト酒が飲める店】
第1回:「〼kuramae」(蔵前)
第2回:「ぽんしゅビルヂング」(門前仲町)
第3回:「日本酒バー へなちょこ」(西荻窪)
第4回:「きんぼし」(秋葉原)
第5回:「粋酔処 楽縁」(東大前)
第6回:「食べ呑み処 あぐまる」(浅草)
第7回:「都橋おでん 久」(野毛)
第8回:「さかなや なかにし」(板橋)
第9回:「和食日和 おさけと」(日本橋)
第10回:「ふくの鳥」(神田)
第11回:「黒猫庵」(蔵前)
第12回:「酒場つぃ。」(蕨)
第13回:「かえし酒場 沁-Shimiru-」(三ノ輪)









































